勅命/終わりの始まり
仕事しごと、寝ても覚めても仕事三昧...
「あなた、ミリムが見えるのね」
瞬間、周囲が一気に色褪せた様に色彩を失っていく。
本来、それは常人にとって殺気と呼ばれる威圧感なのであろう。
エシリアから湧き出る赤黒いオーラ、それは否応なしに血を連想させる。
「見えたとしたら、どうするの?」
確かに凄い殺気だが、この位であればとうの昔に慣れ果てている。
挑発と純粋の境目、そのギリギリの笑みで問い返す。
「そう、見えるのね・・・いくわよ、ミリム」
そう言うと足早に部屋を出ていった
ミリムも
「ちょ、まってよーっ!。ごめんね、今度は私達が奢るから」
そう言ってエシリアの後を追って部屋を出ていった
残されたのは俺一人
見えちゃ不味いってことは無いと思うけど、何だったのか、よくわからん
「はぁ・・・」
漏れ出る溜息は、部屋の空気に溶けていった
夕方、といっても陽もほとんど傾き、星が顔を見せ始めた頃。
レイは再び森を歩いていた
というのも経験値稼ぎに彼の魔物の習性を上手く使おうと考えたのだ
「呼んでは狩り、呼んでは狩る。中々の名案だと思うね...っと、あれは」
幸か不幸か、目線の先に目当ての魔物の群れと、それらに囲まれた二人を見つけたのだ。
どうしてこうなったのか、おおよそ見当は付く。
昼間会ったときにも、断末魔をあげる時間を作らせてしまっていた。
そのお陰でこの方法を思い付いたのもあるが、彼女らの力量では只の自殺行為でしかない。
そもそもこの魔物自体、生命力が強いのだ。
「エシリアッ!エシリアッ!、誰か、誰でも・・・っ!」
ひしめき合う魔物の楚歌の中で、ミリムの悲鳴にもにた懇願の叫びがこだまする。
彼女の姿は、条件を満たした者にしか見えない。
途中でその事に気づいたのか、叫びは咽び泣く声に変わっていた。
「仕方ないか・・・救えるなら救わなきゃ、だからね」
誰に言うでもなく独り言を呟くと、右手を突きだして
【皆殺しだ】
まるで合成音声のように無機質で機械的な一言を放った
いい終えるか否かの境目で、不意に彼の右掌に球が生まれ、そこから幾本もの鋭い光が魔物の心臓部、頭、脚とを次々に穿っていく。
中には頭だけでなお動こうとするものもいれば、すぐさま断末魔をあげる物もある。
「ちょうどいいや、この際だからこのまま経験値稼ぐかな」
断末魔を聞いて駆けつけたのか、同じように大きな顎を開いて此方へ向かってくる新手に、今度は
【爆ぜろ】
その一言で次々に魔物達は頭部を爆散させていく。
あたりには魔物の血と脳漿とおぼしき液体が混ざり合い、異様な臭いとともに撒き散らされている。
気がつけば周囲に魔物の姿はなく、左手で作った結界魔法に守られているエシリアとミリムの姿、そして月光の青白い光に照らされた、血塗れのレイだけがその場で息をしていた。
「ミリム、エシリアは大丈夫なのかい?」
ミリムはそこで我に帰ったのか、手元で抱えるエシリアに意思を向けた
「あ、だめだよっ、そんな、エシリア、エシリアがっ!嫌、嫌だよっ!そんなのっ!」
ミリムの必死の声を聞いて駆け寄ると、エシリアの顔色は殆ど死者といって差し支えないまで青くなっていた。
よほどの重症のようだ
「済まない、個々からは見せるわけにはいかないんだ」
そう言ってミリムの頭に触れ、魔法をかける
「レイ・・・君、一体・・・何・・を」
うわ言のように呟きながら、地へと倒れる
ここからは余り、他人に見られたいものじゃなかった。ミリムは他人には見えないとはいえ、この魔法は少し規格外すぎる。なにより一々台詞が廚二なので、言っていてかなり恥ずかしくなるのだ。
精神を統一し、今度は左手をエシリアの胸部へ
決していやらしい感情で触れている訳じゃない
これが一番効率がいいだけなのだ
再び、精神統一。そして呪文を唱える
【万象の器 儚き輝きに 再び力を】
左手から溢れる光が、エシリアの身体を癒していく。
「よし、治療完了。死んでたら流石にどうしようもなかった・・・もしかして順番間違えたかな・・・」
暫く心を掻き乱されるレイだったが、平常心を取り戻すと
「とりあえず起きるまで見張っとくしかないか...流石に二人運ぶのはハードだし」
倒れる二人の中心近くに周りから集めた中小の枝を纏めて置くと、そこに右手をかざし、火を起こす。
「変に結界はって酸欠起こされても死んじゃうしな...やっぱ起きるまで此処にいるしかないかな」
誰に言うでもなく放たれた独り言は、月夜が照らす虚空に消えた
「んぅ・・・ここは」
先に目を覚ましたのは、エシリアだった
エシリアは周囲を見回し、見慣れた赤髪を見つけると肩を揺さぶる
「ミリム、起きてミリム」
「ふぇ・・・エシリア・・・?よかったっ、エシリア生きてたっ!」
目を覚ますとすぐにエシリアに抱きつくミリム
対するエシリアは何だか複雑な表情を浮かべている。
もしかしたら胸部の感触に思うところがあるのかもしれない。
「そういえばレイ君は?」
一通り騒いで落ち着いたのか、ミリムはふとエシリアに尋ねる
「レイ・・・?それよりあの後何があったの?私達、まさか死んでる・・・ってことは無いよね」
「違うよ、レイ君が助けてくれたんだよ」
「あいつが?でも、あいつは...」
「そんなはず無いよっ、だって私達を助けてくれたんだよ?」
「そうだけど・・・でももしかしたらミリムがされたって言う魔法で記憶を・・・」
「もしそうなら、私なら魔法を使われた記憶ごと消しちゃうよっ。彼はそんなに悪い人じゃないんだよっ」
そんなこんなで問答を繰り返す二人を、先ほどからずっといたのに気付かれないレイが眺めていた。
いい加減、気付かれないことにしびれを切らし、二人に話しかける
「僕が信用無いのは分かるけど、いい加減気づいてくれてもいいんじゃないかな?」
「「・・・」」
二人は声のした方向を向くと、二人して黙りこんだ。
ところ変わって、王宮。
その中でも、知る人間はごくわずかの隠し部屋。
暗く狭い室内を照らすのは中央の数本の小さな蝋燭。
照らし出すのは影は二人、体格からも男女なのが分かる
「既に計画は進んでいる。もはや最終段階といってもいいだろう」
「ええ、そうね。器を魂に相応しくなるまでそだてて」
「縁で結ばれた魂を器に繋ぎ留める」
「うふふ、もうすぐね、もうすぐ魔物の、魔女の時代が終わる」
「ああ、逆巻きのアリスは既に動き始めた。ここからは後戻りできないのだ。少し息抜きとしよう」
「うふふふ、本当に欲望に正直。まるで獣ね」
「否定はしないとも」
二人の影は寄り合い、重なっていく
そしてひとつ、蝋燭の火が消えた。
まだまだ続くよ、誤字脱字、ついでに単語の誤用とか報告あり次第修正します。
やっと軌道に乗った・・・かな?