No.026
今回は詩ではなく、短編小説になっております。
拙い出来ですが、よろしければ御読みください。
青年が押入れをかたずけていると、奥のほうから小さな箱が出てきた。
開けてみると、古びたカメラと一冊のアルバムが入っていた。
「うわっ、なつかしいな〜……これ」
カメラを手に取り、ファインダー越しに部屋を見ながら、言葉が出る。
「これは確か……祖父さんの形見に貰ったもので、自分のカメラが出来たのが嬉しくて、色々なものを撮ったんだよな」
カメラを置き、アルバムを手に取り開く。
そこに写ってたのは、星に月、海に空、森に花、色々な風景達。
拙い出来だけど、心に訴えてくるものがある、その風景が好きだ、写真を撮るのが好きだと云う想いが……。
「これぐらい好きだったはずなのに、どうして撮るのを辞めたんだったかな?」
ページを捲る手が少し遅くなっていく。
想いに沈みながらも、一枚一枚ページを捲っていく。
そして、最後のページに一枚だけ貼ってある写真を見て、胸に記憶が甦るのを感じながら、そっと呟く。
「そうだった……、これより綺麗なものが撮れないと、思ったんだ」
最後の写真に写っていたのは、アルバムの中でただ一枚だけの人物写真。
夕日に照らされて涙を流す、少女の横顔が写っていた。
いつも、カメラを持って動いてたあの頃。
空や海、月や星、森や花と綺麗なものを撮り歩いてた。
自転車に乗って山に登り、碧りを撮ったり、海に行って煌めく水面を撮ろうとした。
楽しかった、撮ることが……嬉しかった、大好きな景色を切り取れることが。
ある日、いつものように撮り歩いた帰り道に立ち寄った公園で、見つけてしまった景色。
名字だけ知ってるクラスメートの女の子……、夕日に照らされて涙を流してた。
何かに突き動かされたように、カメラを手に取りシャッターを下ろす。
ふと我に返り、あわててその場から逃げるように立ち去った。
出来上がった写真に心奪われた、こんなにも綺麗な写真が撮れるなんてと。
だけどこの写真を撮ってから、どんな景色を見ても、何枚も撮っても納得の行く写真が撮れなくなった。
少女の写真を見ながら、自分に問うてた(あれだけ好きだった景色や、撮ることが好きだったはずなのに、何故) と。
ふと気付いた、「ああ、そうだったのか……。僕は彼女に恋してるのか」
それに気付いてしまった以上、もう今までのように撮ることが出来ないと思った。
この想いが、冷めるか・消えるかするまでカメラを封印しよう……と決めた。
そして箱に仕舞い、押入れの奥に押し込んだんだ。
青年は静かに息を吐くと、カメラとアルバムを箱に仕舞い、元の位置の戻した。
青年は目を閉じ、静かに佇む。
呼び鈴が鳴った。
青年は目を開き、微笑を浮かべてドアに向かう。
ドアを開けて軽やかに声を出す。
「やあ」
そこに微笑を浮かべて立っているのは、成長したあの写真の少女だった。
……そっとシャッターを下ろす……
……了。
「 心写笑君 」 (心に写す笑う君を)