No.061〜No,065
No,061
大切な
本当に大切なものを失くした
その辛さに
その重さに
その傷みに
堪えきれなくて
人が寄り付かない
場所を捜し
街を駈ける
そして
山に近い
清流の川辺で
想いに閉じこもり佇む
にわかに空が
黒く厚い雲に覆われていく
一滴が落ちてきて体を濡らす
それが合図だったかのように
一斉に
凄い勢いで雫が落ちる
夕立に
いくら体を叩かれても
揺らぐ事なく想いに涼む
幾程の時が経ったのか
構わずに沈んでいる
一際
大きな雷鳴が鳴り響き
それが合図だったかのように
雨が止んでいく
雨が止みどれほどの時が経ったのか
夜の闇の中
瞳の端に
かすかな光りを感じ
周りを見渡す
淡く
切なく
儚げに
舞い光る
蛍の演舞場の中にいた
風の歌も聴こえない静寂の中
ユラリユラリと舞う幽玄の光りに
目を奪われる
雲を割り出た月の光りと
幽玄に舞う蛍の光り
その光景が
想いの鎖から一時解き放つ
月の光りと蛍の光りが溶け合い
止んでいた風の歌が響きだし
夏の光宴が始まった
「 夏日切儚 」 (夏の日の切なさと儚さ)
No,062
私の背には羽がある
遠き日には
皓く輝き羽ばたく事の出来た羽が
今は
暗く汚れ傷つき羽ばたく事の出来ない羽が
皓く輝いてた羽を持ってた
あの日々に想ってた
この羽があればどこにでも行けると
森の中を抜け
丘を翔び越え
霧を抜け
草原を通り
地平線の彼方までも
限りない蒼き空の果てでも
世界の果てにでも
行けると想ってた
でも今はもう
羽ばたく事はない
暗く汚れ傷ついた羽
だけどあきらめていない
再び
この羽が
皓く輝き羽ばたくことを
今宵もまた
森の中にある
月のかかる広場にいく
月の雫と
森の命の露で
羽を洗い
風の調べで乾かす
いつの日か
輝くことを願って
「 翔羽再願 」 (再び羽で翔ぶのを願ってる)
No,063
月の光りもない
夜の闇の中
誰もいない海岸に立つ
心の昏さが
夜の闇を深くする
ただ闇にのなかに立つ
吹きすさぶ風の
静かになぐ潮騒の
リズムが
感情に乱れる
鼓動のリズムと
混じり合い
融け合っていく
水平線の彼方から
少しづつ闇が晴れてゆく
その晴れてゆく闇を見詰めている
闇が晴れ
水平線の彼方から日が登り始める
傍らに置いて在った鞄から
いろいろなものを取り出し
登る日に向かい
放り投げてゆく
指輪
珈琲カップ
写真立て・・・
全てを投げ込み
大きく息を吐く
置いて在った鞄を掴み
日に背を向けて
胸を張って歩き出す
前に進む為に
「 闇裂進棄 」 (闇を裂き棄てて進む)
No,064
木の枝に
咲く淡き色の花
風の舞踏曲に乗って
ユラリユラリ
クルリクルリ
フワリフワリ
ダンスを踊ってる
彼方に聴こえる
密やかな
蝉時雨
夏の灼熱日差しが
木漏れ日となり
優しき光りが
踊る花を差す
風景が
光景が
情景が
佳景が
私を幻景に誘う
「 夏煌幻見 」 (夏の煌きに幻を見る)
No,065
私の秘密の場所
君にだけ
そっと教えてあげる
暗く濁った澱が
溜まった心
皓く染なおす
光りの園
風に吹かれ
月に挑む
想いに沈む為の
天上の楼閣
明日を希み
彼方に
夜と朝の狭間を臨む
水の滸
最後に
弱さも
喜びも
悲しみも
悩みも
全て見せれる
新しく出来た場所
それは……
……君のいる場所
「 密想彩場 」 (想い彩る密やかな場)