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モンスター  作者: 轉優夏
8/8

始めの5月。その1。

いよいよ5月。GWです。

慌しかった仕事を終えるとGWが静かに始まった。


今年の予定は後半に祖父の家に行くのみで、前半は自分の部屋を掃除して終わってしまった。

独り暮らしなのでこんなタイミングで無いと部屋は荒れ放題になる。

それより少々億劫なのは祖父の件だ。

私の祖父の言う事は絶対で、顔出ししないと祖父の近所に住む叔父や叔母に愚痴を言い続け、それが私の母に伝わり「とりあえず行ってくれ」と連絡が来る。私が行くまでは愚痴が止まらないらしい。

行ったら行ったでただひたすら祖父のマシンガントークを聞き、一日二日は泊まらないとそれはそれで文句を言い出すのだ。

祖父の世話は基本、叔母がやって来てくれるので本当に私は居るだけ。それだけなのだ。

何故だか理由は分からないが、他の従姉妹達にはそんな事は無く私だけらしい。


私がお嫁に行ったら爺ちゃん、どうすんだろ?

……………ま。予定無いけど。


そんな祖父の家に行くもいよいよ明日となった今日。祖父の手土産を買いに銀座へと出た。

大の甘党な祖父の好物が木村屋の酒種あんぱんの桜でそれを買いに行くのだ。そしてそのままお気に入りの文具店を二件回って炭火焼のお店屋でランチをして帰るのが毎回の楽しみなのだ。

場所が場所なので部屋で久々に発掘したキレイ目のワンピースを着て出掛ける。良いなぁ。こういうの。

JR有楽町を降りて晴海通りを歩く。

五月に入って数日しかたたないのに今日は少し汗ばむ陽気だ。

このGWは全て快晴の予報が出ているが、晴れやかなのは天候だけで私の気持ちはイマイチだ。

もうちょっと浮き足立った休みなら良いんだけどなぁ…。


「あれ?小森さん?」


銀座和光の時計が近付き、道なりに曲がろうとした瞬間だった。

急に名前を呼ばれたので振り向く。

「やっぱり小森さんだ。眼鏡掛けてたから一瞬分からなかったよ。」

私の視力は中々悪くて、仕事中はコンタクトなんだが今日みたいな完全なるオフな日は眼鏡で過ごすのだ。

「………。こんにちは…朝比奈さん。」

白いシャツとベージュのチノパンとシンプルな出で立ちなのに、妙に目立つのは矢張りその顔立ちな所為なのだろうか。何時もの屈託の無い笑顔を見せた。

「今日は買物?」

「あ、ええ…。明日、祖父の家に行くのでお土産を買いに。」

「へぇ。お祖父さんの。遠いの?」

「栃木なのでそんな遠くじゃないんだけど、木村屋のあんぱんが好きだから。」

「ふーん。小森さんってお祖父さん孝行なんだね。」

何故かその一言で急に顔が熱くなり、心臓が忙しなく動き出す。

「いやいや。そんな孝行ってレベルじゃあ…。」

「でも大事だよ。そういう事は。僕には父方も母方も爺ちゃん亡くなってるからね。」

瞬間、急に胸のドキドキが不思議と落ち着いた。

………しかし…今日も綺麗な顔してるなぁ…。

「おーい、大和。友達?」

「ん?友達じゃ無くて彼女。」


ん?彼女?私??


「へあっ?!」

「何、大和いつの間に?」

「嘘。」

悪戯っ子みたいな笑顔を向けた先には、特徴あるフレームをした眼鏡の男性が立っていた。

「彼女が今一緒にやってる人なんだ。小森さんにも休み明けに紹介しようと思ってたんだけどさ、今度の記事のやつ。」

落ち着いてた心臓がさっきの倍増しでバクバクいう中、朝比奈さんは何事も無かった様に話を進めてゆく。

「彼は音楽フェスの企画運営をしてる一人で斉藤君。僕の大学時代の友達なんだ。」

斉藤です。とその眼鏡の殿方は私に手を差し出してきたので握手で挨拶をする。

そう。次の特集は音楽フェスで、詳細は未定な部分もあるんだけど、朝比奈さんに詳しい友達が居るからと休み前に聞いていたけど…どうやら彼のようだ。

「彼女は小森さん。さっきも話したけど、休み明けに改めて彼女と斉藤の所に行くからさ。」

「そっか。彼女がね。小森さん宜しく。」

「此方こそ、宜しくお願い致します。」

再度斉藤さんと握手をかわす。

早くバクバクおさまって欲しいのに止まらない。もう銀座を歩いている人達、全員にバレてしまう位におさまらない。

「ごめんね小森さん、呼び止めちゃって。」

「いや…朝比奈さんこそ、お休み中に仕事みたいな事を…。」

「全然!たまたま今日昼、一緒に食べるかって話になってさ。斉藤が仕事で奴の事務所がこっちってだけの話。」

気にしないでよ〜。と何時もの笑顔。

「大丈夫?小森さん、顔が赤い。」

「そっかな?今日暑いからだよ。」

朝比奈さんの嘘でこうなったんじゃないかー!

そんな彼は「うん、暑いよね〜。」の一言だけ。

又、気にしているのは私だけか…。

「じゃあ小森さんにまた連絡するからね。お祖父さん孝行、いってらっしゃい。」


祖父。あぁ。急に現実に戻された感。

お陰様で胸のバクバクは一瞬で消滅した。

明日から爺ちゃんのマシンガントーク………。


二回振り返ったけど、朝比奈さんは私に手を振ってくれていた。

そんな姿もいちいち絵になる人だなぁ。

そんな五月の始まり。

木村屋の酒種あんぱん。久々に食べたいです…。

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