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モンスター  作者: 轉優夏
6/8

始めの4月。その4。

ゲラチェも終わりました…その後は?

「あ。」

ぶつぶつ色々な事を考えながら歩いていたら社員通用口でばったり朝比奈さんと遭遇した。

「おっお疲れ様です。」

「小森さんも今日は上がりですか?」

「えぇ。今週はフリーペーパーの方をやれって上司にも言われて、求人誌の締め切りも何もないので…。」

急にさっきのやりとりを思い出してしまい、顔が火照っている感じに襲われる。

「朝比奈く〜〜ん!」

遠くからの声に私も朝比奈さんも振り向くと、数人の女性達がニコニコしながら此方側に向かって手を振っていた。声の主は彼女達だろう。

「やだなぁ朝比奈君。姿が見えないと思ったら。」

「今日こそ皆んなで飲みに行こうって言ったよね!」

「帰っちゃうの〜?」

「行こうよ〜。」

畳み掛ける様に女性達が朝比奈さんに詰め寄る………何だか凄い圧迫感だ。

「あぁ…僕、急用が出来ちゃって。」

「「「急用〜〜っ⁉︎」」」

凄い息ぴったりに落胆の声が響く。

そのやりとりに呆気を取られて、ただただ傍観していた私に朝比奈さんが振り向き

「ねぇ小森さん。さっきのゲラの話を村松に話したらチェックしたいって言われてさ。」

「あ。そうだったんですか。」

村松さんとは、今回傘の特集でお世話になった朝比奈さんの大学時代の友人の事である。

朝比奈さんとは真逆なタイプで、物凄く男らしい印象だったのを思い出す。

「うん。定時上がりで申し訳ないけど一緒に行ってくれる?ほら小森さんも一緒に行ったし。」

「そうですね。いいですよ。」

「ありがとう‼︎」

にっこりと微笑む朝比奈さんの背後から、攻撃的な女性達の視線がチクチク…ってよりザクザク刺さる。

マジで怖い。

同じ生物、同じ人種、同じ性別だけど、もう怖いとしか説明出来ない位にギラギラしてる。

「そんな訳で…皆んな、ごめんね。」

パッと女性達に両手を合わせて頭を下げる朝比奈さんを見た女性達は一斉に

「え〜しょうがないなぁ…。」

「ねぇ、その急用が早く終わったら来てよね?」

「場所は駅前の、ホラ、新しく出来た居酒屋だから。ね?」

「分かりました。早く終わったら伺いますね。」

じゃあ後でね〜〜と女性達が颯爽と玄関口へと向かって行った。何だか凄い物を見た気がした。

「何だか凄かったですね…色々な意味で。」

「皆んな総務の仲間なんだ。2人違う人も居たけど…じゃあ小森さん、僕達も急ごう。」

「あ…そうですね。」

追いかける様に朝比奈さんのあとを追って歩き出す。

玄関口を出て、確か電車で1駅だから駅…ってあれ?

朝比奈さんは全然違う道を進み始めた。

「朝比奈さん、駅じゃあ…。」

「今日はこっちなんだ。」

あぁ。別の場所で待ち合わせかな。何処も終業時間だし、元々友人同士だから会社で会わなくても良い訳だしね。

歩いてる間は2人で他愛も無い会話をしていた。明日の天気とかちょっとした時事ネタ話とか、そんなレベルの話。

そういえば朝比奈さんとは仕事の話しかしてなかったから、普通の会話って初めてかも。


…仕事の話。……………仕事…。


「あの、朝比奈さん。」

「何〜?」

「そういや村松さんとは何処で待ち合わせを…?」

「待ち合わせ?してないよ。」

「えっ⁈」

思わず一歩後退ってしまった。

「じゃあ…さっきのゲラの話は…。」

「嘘。」

「嘘?」

「うん。嘘ついたの。」

何も悪びれる事なく私を見つめて朝比奈さんは微笑んだ。

「僕ね飲み会とか好きじゃ無いんだ。あ、歓送迎会とかそういうのは参加するよ?ただ理由無く飲むのが得意じゃ無いんだ。ってか苦手。」

「はぁ…。」

「女性って高確率でお酒入ると愚痴ばっかりだからって、小森さんの前では失礼だったね。」

「まぁ…身に覚えはありますねぇ…。」

何かで胸をえぐられる様な言葉。確かにそうかも。

そんな私を見てクスクス笑う朝比奈さん。

「だから。巻き込んじゃってごめんね。」

「いや…まぁ…あの勢いで誘われたら…確かに大変そうですね…朝比奈さんも。」

「小森さんならそう言うと思った。」

正直、あの圧倒的なお誘いは同情しか無いわ。

「じゃあさ、お詫びにごはん奢るよ。」

「ごはん。」

「うん。このまま一緒に食べに行かない?」

急展開。

私、今、社内ではモンスターで噂される人気の朝比奈さんから誘いを受けてる。

つい1ヶ月前では噂だけで接点が無かったのに。

まぁ間違いなく仕事の延長線上のお誘いだろう。でも仕事とはいえ…。


「ねぇ小森さん?もしかして都合悪い?」

「はっ‼︎」

「あ。考え事してただけか。ちゃんと聞いてる〜?」

本当、神田さんの言う通りだ〜と私の目の前でコロコロ笑う朝比奈さん。………本当、綺麗な人だなぁ…。

「私は別に…予定は無いです…。」

「じゃあ行こう!何食べたい?好き嫌いある?」

「好き嫌いはないです…。食べたいのは…朝比奈さんの趣味に合わせます。」

「そう?立ち飲みとかでも大丈夫?」

「はい。」


そう言って連れてって貰ったのは焼鳥屋。もうオヤジ御用達的なレトロな店構えで立ち飲みスタイル。

朝比奈さんは良く来ているらしくて、ご主人と仲良く会話していたけど…まあ違和感タップリな絵面。


ビールで乾杯してからは…何時もの緊張で何を話したかは正直記憶に無い。


覚えているのは、ぼんじりとハツの塩が滅茶苦茶美味しかった事。焼鳥以外の小料理も美味しかった事。ビールはジョッキで3杯飲んだ事。

そして、朝比奈さんと連絡先交換した事。

今後、一緒に仕事する上で絶対必要だからと。

仕事でも男性と連絡先交換したのって何年も無いな…プライベートなんか更に上乗せして無いわ。


そんな色々な気持ちを抱いたまま、春が過ぎようとしていた。

これで4月終わります。

次は5月!彼等の取材記事は何にしよう…?

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