始めの3月〜朝比奈大和の場合〜
モンスター級の美形・朝比奈大和の視点から。
「え〜朝比奈君は小森さんと組むんですかぁ?」
社内メールを読み終えると同時に甘ったるい声が聞こえた。
「本当だ〜求人部のモンスターでしょ?小森さんって。」
「何?モンスターって。」
「バケモノ級に仕事魔なんだって話みたい。」
「仕事魔?ウケる〜。」
「私は仕事は出来るけど鬼みたいに怖いからって聞いたわよ〜。」
「え〜ヤバイんですけど〜。」
矢継ぎ早に女性達の会話が飛び交い出した。
「でもさ〜朝比奈君と仕事出来るなんて羨ましい〜!」
「やだなぁ。山田さんも皆んなも、僕と一緒の部署で毎日一緒に仕事してるじゃないですか。」
「「そうなんだけどさぁ〜」」
一同、声を揃えて僕にニコニコと微笑む。
僕は朝比奈 大和。中堅出版社の総務部に在籍している。
この部署は女性が多くて皆んな凄く優しくしてくれるが、その理由は分かってる。
自分で言うのも何だけど、僕のビジュアルがどうやら女性達にウケるからだ。それは物心付いた頃から自分でも理解している。
「可愛い」「可愛い」を言われ続ける事数十年。昔は女みたいな顔立ちが嫌で仕方が無かったが最近は嫌なのを一周以上通り越してどうでも良くなって来た。
今では受けが良いビジュアルを逆手に取っていく事もやっているから気にしなくもなったが…。
「朝比奈君はこれから小森さんと打ち合わせ〜?」
「小森さん良いなあ〜。」
「仕事でも朝比奈君と2人っきりって、やっぱり羨ましい〜!」
女性達の甘ったるい声と会話が僕は苦手だ。
「いや、ちょっと顔合わせしてくるだけですよ。ほぼほぼ話すのは初めてだから。どんな人かなぁって。」
「小森さん?仕事の鬼!」
「無愛想!」
「仕事に厳しい!」
他部署の人だからか、偉い言われ様だ。
「やっぱり…。」
「「モンスター!!」」
モンスターね。
同僚の熱烈な見送りを背中に部屋を出て、モンスター呼ばわりされてる小森さんの部署に向かう。
求人部は求人雑誌を発行している部署だが、締め切りは1時間前に終わった筈だから少しは会えるかも知れない。
階段を1つ上がった所に求人部があるのでセキュリティカードで中に入る。
「あ、宮田!」
求人部は少し殺伐とした雰囲気は残っていたが、締め切りを終えた静かな時間を出している。その中で知った同僚に声を掛けた。
「あれ。朝比奈じゃん。」
「締め切り後で悪いね。小森さんって何処かな?」
「あぁ。あの窓際に居るよ。ポニーテールで…ほら今、お茶飲んでる人。」
同僚の指を指す方を見ると、カップを片手に何かを読んでる女性が見えた。
そのまま同僚に礼を伝えてから小森さんのデスクに近づいてみる。
全然モンスターじゃないんだけどな。
総務部の女性達とは確かに少しタイプは違うけど…。
「あの、小森さん。今、大丈夫ですか?」
「はい?」
低いハスキーな声と同時に目が合った。
「総務部の朝比奈と申します。」
何だか小森さん…凄く吃驚した顔をしてる。
まぁ…僕の顔を見てこんな反応はしょっちゅうだから気にはしないけど…。
「総務…朝比奈さん…。ええと…私、何かやりましたっけ?」
吃驚した理由はそっちか。そりゃそうだ。わざわざ総務部が顔を出すなんて中々無いからな。
「あの今朝、社内メールで送信されていた件で…。」
「あ!不味い!今日のメールチェックまだだった!御免なさい、今確認します!」
ガサガサとデスクに置いてある紙束を端に寄せてキーボードを叩き始める。その最中の小森さんは「うわー」とか「いやー」とか独り言を口にしながら画面とにらめっこをしている。
「御免なさい朝比奈さん。今朝から違う案件で動いてて、締め切りも被っちゃってメール見てなくて…。」
「あぁ、大丈夫ですよ。僕も急に伺ってしまって。」
………へぇ。かわいいじゃん。
「あ。」
そう小森さんが一言を発して動きが止まった。
じっとその様子を見つめていると
「新規でフリーペーパーをリリースする件は知っていたけど、私達が記事を書く…?」
「ええ。メールにもありますが、僕達を含め何組かでコーナーを作るみたいで…。」
「それで…。」
「はい。突然過ぎましたね。」
「あ、それは大丈夫ですよ。」
小森さんは優しく僕をみて微笑んでくれる。
「しかし…これは…難儀な話ですね…。」
再びメール画面を見つめて小森さんは続けた。
「確かに紙媒体は扱ってるけど…記事なんて…。」
「僕なんて総務ですからね。完全にデスクワークだから参りました。」
「そうですよねぇ…誰なんだろ。この発案。」
「社長始め上層部みたいですよ。とにかくフリーペーパーで先ずはウチの会社を知って貰いたいって…総務の子達が話していました。」
そっかー。と再び小森さんと視線が合わせられる。
「とりあえず今日は顔合わせだけと思ったので…今日の締め切りでしたし。」
「……………。」
「詳細は又、後日にでも時間を取って …。」
「……………。」
「小森さん?」
「……………。」
話、聞いてる?
「そんな訳で。」
「はひっ!」
「良いかな?小森さん。」
「あ。はい。承知しました。」
いそいそと端に寄せた紙束を掴んで小森さんは又、微笑んでくれた。
忙しかったんだな。悪い事しちゃったかも。
メールでやりとりする旨を話して小森さんの元を後にした。
総務部に戻ると何時もの女性陣が「おかえり〜」と声を掛けてくれる。
「小森さんに会えた〜?」
「ねぇねぇ。小森さんどうだった??」
今度は畳み掛ける様な質問責めが始まる。
「どうって…。」
君達とは全然違う人だったよ。
「やっぱり小森さんってモンスターみたいだった?」
「やだ。朝比奈君、怒られなかった?」
「いや、流石に怒られはしないですよ。」
「そぉ〜?」
「それより小森さんって普通でしたよ。脅かさないで下さいよー!」
僕から見たら、君達の方がずっとモンスターに見えるけどね。
そんな事は声に出せないから、そっと腹の中で呟いてみた。
大和のくだりが凄く長くなってしまった…。
一応これで序章的な箇所は終了です。
次回から本編になります!!