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アリア  作者: 桜庭かなめ
本編-ARIA-
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第92話『捜査妨害』

 ――公務執行妨害の疑いで逮捕する。


 突然現れた佐相警視にそんなことを言われてしまった。

 ただ、考えてみると、公務の執行を妨害しているのは、私よりも佐相警視に当てはまると思うのだが。氷室の事件の捜査を妨害しやがって。


「公務執行妨害ですか。何を根拠にして私に逮捕状を発行したのですか?」

「氷室智也が逮捕された事件の捜査を妨害したのだよ、君は」

「何を言っているのですか。この事件の捜査は私を中心に動いているはずです。なのに、なぜ……その妨害をしたとして、私が逮捕されなければならないのでしょうか」


 逮捕されるまでに至る理論が全く分からないが、佐相警視の目的は私に事実を暴かれることを恐れて捜査をさせないことだろう。


「ふっ、羽賀君と浅野君は捜査から外れたのだよ」

「何ですって?」

「昨晩から、私が氷室智也の逮捕された事件の捜査を統括することになったのだよ。そして、君は氷室智也の起訴という捜査方針に逆らう行動をし続けている。なので、羽賀君を逮捕したのだよ」

「……随分と大胆なことをしてくれますね。それだけ、私に事実を暴かれることが嫌だったのですか」

「何とでも言えばいい。こうして君の逮捕が決定したのだから。覚えているかね? 真実に抗う者はいつか痛い目に遭うと。私のその言葉に従って君が捜査方針を変えていれば、逮捕されることはなかっただろうに」


 つまり、その言葉を言ったときが、私の逮捕が決まるかどうかのターニングポイントだったわけか。私がすぐに反論したので、その瞬間に逮捕すると決まってしまったのか。


「浅野さんはどうなるのですか」

「今のところ、浅野君は無期限の自宅謹慎処分だ。羽賀君に取り調べをして、君の指示に従っただけであれば、逮捕をしないことは約束しよう。逆に氷室智也が無実である方針を立てたのが浅野君であれば、彼女も逮捕するつもりだが」

「浅野さんは私の捜査方針に従って動いてくれただけです。私が氷室は無実であると考えて、彼女に指示を出しました」

「羽賀さん……」

「……あなたまで逮捕されたら、氷室が無実だと信じて捜査する警察官がいなくなってしまいます。今は臨時の休暇を与えられたと思って休んでください。近いうちに、再び私と捜査するときが来ると思いますから」


 事が上手く運んで、そのようになればいいのだが。

 いずれは私の逮捕もマスコミ関係者に伝わって、日本全国に報道されてしまうのか。氷室の親友という理由で悪く誇張されてしまうかもしれない。まあ、それはかまわないが。


「お父さん! 羽賀さん達にはもう全てを話したの! あたしがお父さんに頼んで、無実の氷室さんを逮捕させたことも! その計画は『TKS』と名乗る人が、あたしにTubutterで全て指示してきたことも!」

「……何のことだ?」

「えっ……」

「柚葉からもらった2枚の写真と、私が病院まで足を運んで発行してもらった朝比奈さんの診断書。これらがある以上、氷室智也が罪を犯したことは一目瞭然だろう? それが真実だと認められらこそ、逮捕状が発行されたんじゃないか」

「そんな……」


 佐相警視、どうしても氷室のことに不正があったことを認めたくないのか。もしかして、今回の不正を暴かれることをきっかけに、芋づる式で他に知られたくないことまで暴かれると危惧しているのだろうか。


「お父さんがそういう態度を取るんだったら、何が何でもこのことを世間にバラしてやるんだから!」

「落ち着くんだ、柚葉さん」

「だって……!」

「柚葉さんは私達にきちんと事実を伝えてくれたのだ。その勇気ある行動をしっかりと私達が活かす」


 そう言って周りを見渡すと、美来さんと詩織さんが真剣な表情をしながら、しっかりと頷いた。そんな2人の反応に何かを感じたのか、柚葉さんは2人のところまで駈け寄った。


「話を戻しましょうか。佐相警視、なぜ……この事件の担当が私からあなたに変わったことを伝えなかったのでしょうか。変わったのは昨晩のことだったのでしょう?」

「決まったのが君と浅野君が既に帰った後だったからだよ。だから、今朝、君が出勤したときに伝えようと思ったら、始業時間になってすぐに、君は浅野君と一緒に警視庁を後にしてしまったではないか」

「電話で一声かけることぐらいのことはできるでしょう。それさえもしなかったのは、私を逮捕させる口実を作るためではありませんか?」


 さっき、佐相警視が言ったように、彼が氷室の事件の捜査を指揮することになったのに、捜査方針に従わずに私と浅野さんが捜査を行なっていたと説明したいがために、担当が変わったことを伝えなかったのだろう。まあ、実際に担当が変わっていたかどうかも疑問ではあるが。


「何とでも言え。こういうことは、電話ではなく直接口で伝える主義なのだよ」

「そういう主義を持っていただいてもかまいませんが、事件の捜査はたくさんの人が関わるのです。担当が変わる際は引き継ぎをしなければなりません。そのための準備も必要です。昨晩の段階で電話の1つでもしていただければ、こちらもそれなりの対応はしていましたよ」

「私のやり方がいけないと言うのかね?」

「少なくともいいと言えませんね。柚葉さんから聞きましたよ。私に氷室の事件を担当させるのを決めたのはあなたではありませんか。そのときの引き継ぎ作業は非常に簡素で、疑問点がたくさんある状況でした。こちらが質問しても、前に担当していたという警察官はおざなりな対応で、うやむやな回答しかしていただけませんでした。それも佐相警視のご指示なのでしょうか。公務を執行するということを妨害しているのは、むしろあなたの方ではないのでしょうか」

「……その生意気な態度を改めるといい。逮捕という形でその機会を与えてやったのだよ。有り難いと思え、羽賀!」


 威圧するために怒りに満ちた表情を見せているのだろうが、私には通用しない。むしろ、腹立たしい人間だと思えてくるほどだ。反省の色も見受けられない。柚葉さんが父親に似なくて良かったと心底思っている。


「さあ、そろそろ手錠をかけて、警視庁の方に……おや、女の子が2人ほどいなくなっているが」


 気付けば、美来さんと詩織さんがここからちゃんといなくなっているな。


「彼女達は、私と浅野さんが柚葉さんに事件の話を聞くために協力してもらっただけです。ただ、私がこのような場合になってしまったときには、私から事情を説明しておくので、2人には去っていいと言っておきました。面倒なことに巻き込みたくなかったので」

「ほお、君にもそういう対応というのができるのだな」

「大人ですからね。あと……私も男なので、手錠をかけられるような姿を女子高生に見せたくないのですよ。せめても、そのくらいのプライドを貫き通したいのです」

「……そうか。では、その2人もいなくなったから、手錠をかけさせてもらうよ」


 すると、佐相警視は手錠を取り出して、私の両手に手錠をかける。

 ――カチッ。

 手錠の掛かる音を聞いた瞬間、何とも言えない虚しさが襲ってくる。一昨日、私は氷室に手錠をかけたが、そのときの氷室は今の私と同じような気持ちを抱いていたのだろうか。


「羽賀さん……」

「さっきも言いましたが、浅野さんは家でゆっくりと休んでください。大丈夫です、すぐにまた一緒に捜査できますから」

「……分かり、ました。羽賀さんのことを待ってます」

「浅野君を家に送らせるためのパトカーもある。君、先ほど、私が伝えた住所に彼女を送ってくれ」

「はっ!」


 私と浅野さんをこの事件の捜査から外させるために、佐相警視は事前に結構な準備をしていたようだ。まあ、準備をしているというのはこちらも同じだが。


「さあ、羽賀。行こうか。独房にな!」

「……今はそれしかないようですね」


 私は浅野さんと柚葉さんに見守られる中、佐相警視によってパトカーに乗せられて警視庁に連れて行かされる。

 警視庁に着くと、佐相警視はこれがせめての温情だと言って、氷室が収監されている独房へと連れて行かされた。私が到着したとき、氷室は1人で眠っていた。


「さあ、今日からはここがお前の住む場所だ」

「……ん? って、は、羽賀? どうしたんだ?」


 目が覚めた氷室は私が独房に入れられてしまうことに驚いているようだった。それは当たり前か。


「どのくらい一緒にいられるか分からないから、親友同士、一緒にいられる時間を今のうちに楽しんでおくことだ。しかし、犯罪者の親友は犯罪者だったか。類は友を呼ぶという言葉はこのことを言うのだな。最悪な形で学んだ。残念だよ、羽賀尊。君は優秀な警察官だったから、氷室智也に罪を認めさせる証拠や証言をすぐに取ってくれると思ったのだが……」

「そこまでして、私や浅野さんに氷室の事件の捜査をさせたくないあなたの方がよっぽど残念であり、みっともないと思いますが。さあ、佐相警視は事件の捜査があるでしょう? 私と捜査方針とは違うので話すことは何もありません。早くここから去っていただけませんか。親友との貴重な時間があなたのせいでなくなってしまうのは、私の本望ではありませんから」

「……そうだな。ここにいたら、私まで犯罪者に成り下がってしまうかもしれんからな」


 嫌味な笑顔を見せる佐相警視は独房から立ち去っていった。

 まさか、氷室との再会が独房の中とは。何とも言えない気分になるな。


「羽賀、いったいどうしたんだよ。ここに入れられるなんて……」

「逮捕されたのだよ。私の場合は公務執行妨害の疑いで」

「えええっ! まさか、佐相警視がお前や浅野さんに捜査させないために、お前を逮捕したっていうのか?」

「おそらく、そうだと思われる」

「汚いことをするんだな……」


 昨日の時点で、私と浅野さんの捜査を妨害するため、最悪の場合として逮捕も想定はしていたが、実際にそうなってしまうと憤りを感じるのだな。浅野さんまで逮捕されなかったのがせめてもの救いである。

 ただ、逮捕されてしまったことにいつまでも怒っていても無駄だ。氷室とじっくりと話せる時間ができたのだ。今朝、柚葉さんと話したことで掴んだ重要な事実を氷室に伝えなければいけないな。

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