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アリア  作者: 桜庭かなめ
本編-ARIA-
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第91話『自吐く-後編-』

 ――この事件には黒幕がいる。


 黒幕がTubutterのメッセージ機能を利用して、計画の指示を出し、例の2枚の写真を柚葉さんに送信したということか。


「柚葉さん、Tubutterを開いてそのメッセージを見せてくれないだろうか」

「はい、分かりました。スマートフォンのアプリにもあるので……」


 柚葉さんはスカートのポケットからスマートフォンを取り出す。

 Tubutterはスマートフォンでも利用することができるのか。SNSの1つなのだから、そのくらいの推理はしていたがな。


「あれ? その人とのメッセージが消えてる」

「もしかして、黒幕の人のアカウントが削除されたんじゃないですか?」

「検索してみます」


 浅野さんがいて良かった。メッセージが消えている理由は私には分からなかったからな。

 しかし、メッセージが消えているのは面倒だ。おそらく、黒幕は私が柚葉さんにまで捜査が及ぶ可能性を考えてアカウントを消したんだろう。


「羽賀さん。黒幕さんのアカウント、無くなってますね」

「アカウントが無くなると、メッセージというものも見られなくなってしまうのですか?」

「はい。こうなるとやっかいですね」

「あっ、メッセージの内容については大丈夫ですよ。メッセージの量が多くて、メモをするのが面倒だったので、画面キャプチャをしておいたんです」

「それはナイスプレーですね! これで黒幕さんから送られたメッセージを見られますよ!」

「それは良かったです。柚葉さん、その画像を見せてくれるだろうか」

「分かりました。ちょっと待っていてくださいね……」


 手間を省くためのちょっとした柚葉さんの行動が、捜査に大いに役立つとは。


「これです」


 テーブルの上に置かれた柚葉さんのスマートフォンには、メッセージのやり取りが表示されている。あと、例の2枚の写真も。上にある『TKS』というのがTubutterでの黒幕のアカウント名なのだな。


「佐相さんは『佐相柚葉』という名前で使っているんですね」

「はい。クラスメイトもたくさん使っていますし、分かりやすい方がいいらしくて。名前でやっている方が多いんですよ」


 なるほど、柚葉さんは実名でTubutterをやっているから、黒幕にもすぐに柚葉さんのアカウントが分かったということか。

 それにしても、不特定多数の人間が見られる場であるというのに、実名で利用するとは。有名人や企業とかで使うならともかく。しかし、そんなSNSという場所だからこそ、自分の名前を使いたくなってしまうのかもしれない。

 画像の検証に戻ろう。左右からの吹き出しの中に文字が書かれている。文面からして、右からの吹き出しには『佐相柚葉』のメッセージ。左からの吹き出しには『TKS』のメッセージが表示されているのだな。


『君の父親は警察官だろう? 父親に頼んで、氷室智也を逮捕するように動いてもらうといい。朝比奈美来も恨んでいるのだから、被害者は彼女にして罪状は強制わいせつにするのがいいだろう。』


 という『TKS』のメッセージから会話が始まっている。


「最初から計画について話されているが」

「メッセージをやり取りする前に、『TKS』からリプライツイート……私に向けたツイートがあったんです。氷室智也と朝比奈美来に復讐するいい方法があるって。『TKS』は既にあたしのアカウントをフォローしていたので、私はすぐにフォローを返しました」

「……なるほど」

「ちなみに、フォローするというのはそのアカウントの呟きを、ホーム画面で見られるようにすることですよ」

「そ、そのくらいのことは推理できていますよ」


 と言うが、浅野さんが説明してくれるまでフォローすることを、相手を助けるという意味だと思っていた。後でTubutterについて勉強しておかなければ。


「つまり、前段階の会話があったから、『TKS』からの計画についてからメッセージが始まっていたのだな」

「そうです」


 なるほど。『TKS』から柚葉さんへのリプライツイートを確認したいが、『TKS』のアカウントが消去されているので、この場では確認できないか。

 とりあえず、今はメッセージで何をやり取りしたのかを確認するのが重要だ。

 柚葉さんがキャプチャした複数枚の画像を見ると、これまで私達が捜査してきたことや、先ほど柚葉さんが話してくれた内容が『TKS』からメッセージとして送られていた。


「なるほど。柚葉さん、ありがとう」

「いえ……」

「羽賀さん。この『TKS』という人物はいったい誰なんでしょうね」

「……2枚の写真から考えて、諸澄司である可能性が高いでしょう。1年1組の生徒である諸澄司ならクラスの事情も分かっていますし、ストーカー行為をしていたので氷室と美来さんの関係性も把握しています。また、1度だけですが私とも面識がありますし」

「やっぱり、そうなりますよね」


 Tubutterを用いて、『TKS』として柚葉さんに計画を指示していたのは予想外だったが、氷室と考えたように、柚葉さんと諸澄司の2人が真犯人である可能性が高くなったな。


「ただ、仮に『TKS』が諸澄君だったとしたら、どうして美来ちゃんまで攻撃するような計画を柚葉ちゃんに伝えたのでしょう?」


 詩織さん、なかなか鋭い疑問をする。


「氷室によりショックを与えること。そして、不登校になるまで追い詰められたそもそもの発端が美来さんであるという柚葉さんの気持ちを利用するためだろう。そして、諸澄司にとっては氷室と会えない傷心の美来さんを慰めることで、自分に美来さんの気持ちを向けさせたかったのだろう」


 以前、岡村が言っていた華麗なる推理から拝借させてもらった。

 好意を抱き、ストーカー行為をするほどだ。将来的に美来さんを自分のものにするためならば、このような計画を柚葉さんに指示するだろう。自分の手を汚したくないから。


「……まったく。言葉は汚いですが、本当にそうだとしたら諸澄君はとんでもないゲス野郎ですね」


 低いトーンで美来さんはそう呟いた。その言葉を是非、諸澄司に聞かせてやりたいものだな。美来さんの気持ちは現在進行形で離れていっているのだと教えてやりたいところだ。


「よし、一通り聞きたいことは聞くことができた。柚葉さん、どうもありがとう」

「……いえ。あと、氷室さんに会えるのでしたら、謝りたいです。会えないのでしたら、本当にごめんなさいと伝えてくれませんか」

「……2人が死んだわけではない。氷室と会う機会は私が必ず作る」


 謝る気持ちを抱いているだけ、柚葉さんはいいのかもしれない。これで、佐相警視を追求する準備は整った。


「そうだ。Tubutterの『TKS』のことについて調べてもらうように、種田さんに連絡します」


 スマートフォンで種田さんに連絡する。


『はい、種田です。お疲れ様です』

「羽賀です。お疲れ様です。種田さんに調べていただきたいことがあるのですが、今は大丈夫でしょうか?」

『ええ、大丈夫ですよ。昨日の諸澄司という少年の聞き込み捜査についてまとめた資料をちょうど作り終えたところですから』


 警視庁に戻ったら、その資料を見せてもらおう。今、柚葉さんから聞いた事実と照らし合わせたら何か新しい事実が分かるかもしれない。


『それで何について調べてほしいのでしょうか?』

「Tubutterについてです。氷室智也が逮捕された事件の首謀者と思われるアカウントがありまして。今は消去されていますが、運営会社に問い合わせれば何か情報が得られるかもしれません」

『分かりました。ちなみに、私もTubutterやっているんですよ。アカウントのIDとアカウント名を教えていただけますか?』

「分かりました」


 私は種田さんに黒幕『TKS』のアカウント名とアカウントIDを教える。みんなTubutterをやっているとは……私が時代遅れな人間なのだろうか。


『分かりました。じゃあ、運営会社に問い合わせてみます。何か特に聞きたいこととかありますか?』

「そうですね。そのIDはどの端末からログインされているか調べてもらえますか」

『首謀者が使っている端末を特定するためですからね。承知しました』

「あと、事件とは関係ありませんが……今、佐相警視はいますか?」

『いえ、20分ほど前に捜査に行くと言って出て行きましたよ? 珍しいなと思って。何か伝えておくことがあれば、私から伝えますけど……』

「いや、ちょっと気になっただけで……」

「羽賀さん!」


 浅野さんが大きな声を出すと、公園の一番大きな入り口には複数台のパトカーが駐車していた。警察官がゾロゾロと公園に入ってきて、その中心に立っていたのは、


「佐相……警視……」


 佐相警視だった。調査に出かけると言って警視庁を出発したのは、この場所で私達と会うためだったのか。何だかとても嫌な予感がする。


「美来さん」

「……分かっています」


 私は美来さんと目を合わせ頷き合った。


「お父さん、どうして……」

「……柚葉。この羽賀という男はとんでもないことをしているのだよ」

「私が何をしたというのですか」


 とんでもないことをしていた記憶は全くないのだが。佐相警視こそとんでもないことをしているだろう。

 すると、佐相警視は胸ポケットから1枚の紙切れを取り出し、それを広げた状態にして私に見せてくる。


「羽賀尊。君を公務執行妨害の疑いで逮捕する」

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