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アリア  作者: 桜庭かなめ
本編-ARIA-
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第65話『ミスカス』

「浅野さん、取り調べの方は……って、どうしたんだ、氷室。そんなにぐったりとして。うちの浅野が君に何かしたのなら、私から謝るが……」

「いや、何でもない。ただ、羽賀が来てくれて嬉しく思うよ」

「……よしっ」


 浅野さん、小さくガッツポーズをしている。

 あれから、僕は浅野さんから羽賀との思い出をとことん質問され、それに素直に答えると彼女のBLフィルターによって、いつしか薔薇色に脚色されてしまう。このままでは羽賀にも悪いので、きちんと説明していたらどっと疲れが出てしまった。


「羽賀さんの親友と知ったので、昔話を聞いていたんです」

「……それにしては、氷室が疲れすぎているように見えますが。浅野さん、まさか私と氷室を使って変なことを妄想していたのでは?」

「何で分かってしまったんですか!」

「……普段のあなたの行動を見ていれば、そのくらいの想像はつきますよ」


 普段から浅野さんと行動を共にしているからか、彼女の腐女子要素を理解していたのか。そのことを普段通りの様子で指摘するのがさすがというか。


「氷室さんは羽賀さんとの仲をただの親友と主張するのですが、実際のところはどうなんですかっ!」

「ただの親友ですよ、氷室とは。浅野さんが想像しているような関係ではありません。まあ、性別関係なく恋をすることは素敵だとは思いますが」

「では、氷室さんと是非!」

「氷室には朝比奈さんや月村さんという大切な方がいますので。私とは……浅野さんの頭の中だけにしていただきましょうか」

「……しょうがないですね」


 凄いな、羽賀。冷静に話を持っていって、浅野さんを納得させて黙らせたぞ。あと、浅野さんの脳内で僕との変な妄想をされてしまっていいのだろうか。僕はあんまりしてほしくないなぁ。


「一切止めろと言いたいところだが、彼女の場合はある程度のところで妥協した方がいいと思ってな」


 羽賀に耳元でそう囁かれる。

 なるほど、さすがに一緒に仕事をしていると、浅野さんの性格までも理解しているってところか。こういうことまで妥協できるなんて、羽賀も優しい人間だな。それとも、諦めているのか。


「どうしたんですか、羽賀さん。氷室さんに愛の囁きですか? いいんですよ、私のようなカスのことは気にしなくても」


 自分のことをカスと呼ぶなんて。どうやら、取り調べをしているときにBL妄想をしてしまうのがいけなことは分かっているようだ。


「妄想は自由ですが、発言には気をつけていただきましょうか」

「そんなぁ。せっかくの楽しみを見つけたのに……」


 羽賀とのベストカップリングを見つけたと言っていたしなぁ。しょんぼりとした浅野さんに同情してしまうなんて。


「……そろそろ本題に入りましょうか」


 そういえば、さっき、羽賀は用事があると言って浅野さんに取調べを頼んでいた。何か進展があったのだろうか。


「氷室の勾留を解除するように申請をしたのだが、断られてしまった。氷室の逮捕に疑問点が多すぎると言ったが、逮捕状が出た意味を考えろと言われ、耳を貸そうともしなかった。逮捕状が出ることが疑問だから言ったのだがな……力が及ばずにすまない」

「気にするな。それに、羽賀にも立場があるだろう。あまりにも反論したら、僕の事件から外されるかもしれない」


 今のところ、僕にとっては羽賀が頼みの綱だ。羽賀が担当を離れてしまったら、おそらく、すぐに起訴されてしまうだろう。


「警察の上層部の中に、君を逮捕するように働きかけた人間がいると考えるべきだろう。それに、不気味なぐらいに君が16歳の少女にわいせつ行為をしたと報道されている。そんな状況で、君の勾留を解除するわけにはいかないのだろう」

「僕が犯罪者だと、より多くの人に印象づけたいわけか……」


 真犯人の目的は僕を犯罪者に仕立て上げ、1人でも多くの人に『氷室智也は犯罪者である』と認識させたいんだな。


「羽賀さん、仮に真犯人がいたとします。氷室さんにこんなことをさせるまでの恨みを買われそうなきっかけに、心当たりがあるのですか?」

「簡単に言うと、被害者とされている少女は通学している高校でいじめを受けました。その事実を追究したのが氷室なのです。被害者の通っていた高校は、クラスでのいじめを隠蔽しようとしていました。それを氷室が証明したんです」

「ああ、もしかして……月が丘高校であったいじめのことですか? 先週末くらいから報道されていますよね」

「そのことです。月が丘高校でいじめを受けた生徒が、今回の『被害者』と言われている少女である朝比奈美来という女の子なのですよ」

「なるほど。もしかして、羽賀さんと氷室さんは、真犯人が朝比奈さんの受けたいじめに関わった人物だと考えているのですか?」

「ええ」


 もっと正確に言えば、諸澄君か佐相さんのどちらかである可能性が高い。後藤さんなどの教職員の可能性もなくはないけれど。彼らはクラスでのいじめを隠蔽しようとしたことを理由に懲戒解雇処分になったし。


「なるほどです。分かりました。羽賀さんの親友である氷室さんが罪を犯すことなんてありませんもんね!」

「そう思ってくれると、氷室の親友として嬉しいです。しかし、今はまだ第三者によって嵌められている可能性が残っている方向で捜査していきましょう」

「分かりました」


 こうして見てみると、やっぱり羽賀の方が上司なんだなと思える。ついでに、年齢も羽賀の方が年上なんじゃないかと思えるよ。何に対しても非常に落ち着いている。


「羽賀、頼んだ」

「ああ、分かっている。氷室は堂々とすればいい。何もやっていないのだから」

「……分かった」


 羽賀なら信頼できる。絶対に真実を見つけてくれると。僕が囚われの身になっている間は美来や有紗さんのことを守ってくれると。


「たけとも最高だああっ!」


 突然、浅野さんはそう叫ぶと鼻血を出してその場で倒れてしまった。


「大丈夫ですか、って……何だか嬉しそうな表情をしてるな、彼女」

「彼女の妄想力は凄いからな。昼休みになると、恍惚とした表情で気を失っているときがしばしばある」

「ふ、普段からそうなのか……」


 警察署は男の園とかいう発言をする人だ。


「まあいい、彼女が目を覚ましたら私は捜査へ向かう。なるべく早く氷室が自由の身になれるように尽力する」

「ああ、分かった」


 今は羽賀に頼るしかない。僕にできることは真犯人が作り上げたストーリーを認めないことだ。

 程なくして浅野さんが目を覚ましたので、羽賀は彼女と一緒に捜査をしに出かけて、僕は留置所に連れて行かれるのであった。

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