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アリア  作者: 桜庭かなめ
特別編-ラブラブ!サンシャイン!!-
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第27話『君の声を聞かせて』

 ロープウェイが下に到着すると、美来がお手洗いに行きたいと言ったので、僕もお手洗いに行くことに。

 先に済ませた僕は、自動販売機で買ったボトル缶コーヒーを車の前で飲んでいる。美来には車の中を涼しくするから、車のところにいると言っておいた。


「美来、大丈夫かな……」


 ここに到着したとき、美来の顔が青白くなっていたから。ソフトクリームを食べて体が冷えたのか。それとも、ロープウェイが下っていくことが怖かったのか。戻ってきたら体調は大丈夫なのか訊いておこう。

 ――プルルッ。

 うん、スマートフォンが鳴っている。まさか、美来の身に何が起きたのかな。

 画面を確認すると、発信者は有紗さんからだった。何があったんだろう。


「はい、氷室ですが」

『有紗だよ。智也君、美来ちゃんと旅行楽しんでる?』

「ええ。満喫していますよ。それで、どうかしたんですか? 今週は確か有紗さんもずっとお休みを取られていましたよね」

『お休みを取ったのはそうだけど。その……智也君の声を聞いていないから、ひさしぶりに聞きたくなっちゃって。美来ちゃんとの旅行中に電話しない方がいいって思ったんだけど、我慢できなくて』

「そうですか」


 僕の声が聞きたいから電話を掛けてきたのか。可愛いな、有紗さんは。


『それで、今……電話を掛けちゃって大丈夫だったかな? 羽賀さんみたいに運転しているけれど、ホルダーに挿してあるから大丈夫だとか?』

「今はお昼ご飯とアイスクリームを食べた後の食休みですね。ですから、むしろナイスタイミングですよ」

『そっか』


 有紗さんの安堵のため息が聞こえる。

 あと、羽賀って運転中でも電話をするのか。ホルダーに挿してあるんだったら問題はないと思うけど。釈放されたときに羽賀の車の助手席に乗せてもらったけど、あのときは結構眠かったから、車の中がどんな感じだったのか覚えていないな。


「有紗さんは今、何をされているんですか?」

『智也君に借りているアニメのBlu-rayを観ているの。スクールアイドルのやつ』


 先週、夏休みにアニメを観たいからオススメのBlu-rayを貸してって言われて、有紗さんに録画したBlu-rayをいくつか貸したんだっけ。


「ああ、あれですか。もう第2期に入りましたか?」

『うん。入ったよ。金髪の子が美来ちゃんに似ていて可愛いなと思って観てる』

「なるほど」


 確かに、似ている人が知り合いにいると自然と気になるよな。


『明日ぐらいには見終わるから、もしお邪魔でなければ……明後日、2人の家に遊びに行ってもいい?』

「もちろん、いいですよ。美来には僕から話しておきます。あと、有紗さんにお土産も買ったのでそのときに渡しますよ」

『えっ、お土産があるの? ……なに?』

「それは……お楽しみということで」


 お土産がゆるキャラのぬいぐるみだと言ってもいいかもしれないけど、渡すまで知らない方が楽しみもあっていいんじゃないだろうか。


『分かった。楽しみにしているよ。じゃあ、土曜日に借りたBlu-rayを持って2人の家に行くから、また連絡するね』

「分かりました」

『じゃあ、美来ちゃんとのプレ・ハネムーンを楽しんでね』

「……は、はい」


 プレ・ハネムーンっていう言葉は意外と使われている言葉なのかな? それとも、旅行中に美来が有紗さんと連絡を取り合っているのかな。それならそれでいいけど。

 有紗さんの方から通話を切った。


「あれ、智也さん。電話をしていたんですか?」


 気付けば、美来がお手洗いから戻ってきていた。蓋付きのカップを持っているけど……ああ、お手洗いの側にあったカップ式の自動販売機で買ったんだな。


「うん、有紗さんから電話があってね。旅行楽しんでいるかって。あと、僕が貸したあのスクールアイドルのアニメの第1期は見終わったみたい」

「そうなんですか。有紗さん、きっと金髪の子が気になってそうですよね。私に似ているからって」

「その通りだよ、美来。第2期も明日までには見終わるみたいだから、明後日にBlu-rayを返すために家に来ることになったよ」

「そうなんですね、分かりました。智也さん、有紗さんにお土産買っていましたよね。私もどこかで買いたいな」

「じゃあ、そこに売店があるから行ってみる?」

「いえ、大丈夫です。お手洗いに行った後に、軽く見たので」

「そうなんだ」


 いつの間に……と思ったけど、僕は有紗さんと電話していたからな。その間に店内を軽く眺めるくらいのことはできるか。


「そうだ、美来。ロープウェイを降りたときに顔が青白かったけど大丈夫? 今は元に戻っているけれど」

「……行きのロープウェイでビックリしちゃったこともあって。ゆっくりでしたけど、下に降りていく感覚が意外と怖くて。小さい頃は大丈夫だったのに」

「なるほどね。僕も小さい頃は船に乗っても平気だったけど、今は酔いやすくなったな」

「ありますよね。昔は大丈夫だったのに、乗ってみたらあれ? ってなること。でも、ロープウェイは智也さんと一緒だったら大丈夫だと思います。いつも以上にかっこよくて、ドキドキしますから……」


 美来は恍惚とした表情を浮かべるけれど……今の様子を見る限り、妄想をすればロープウェイは大丈夫なんじゃないか? 僕がいなくても。


「車の中も涼しくなったと思うから、そろそろ恋人岬へと行こうか」

「そうですね」


 車の中に入ると、結構涼しくなっていた。その涼しさはさっきまでいた展望台での心地よさを思い出させる。


「やはり、涼しいのはいいですね」

「このくらいの涼しさで大丈夫かな」

「ええ。もうロープウェイの緊張も解けましたから、体調も元通りですよ」

「それなら良かったよ。でも、具合が悪くなったらいつでも言ってきてね」

「はい!」

「じゃあ、恋人岬へと出発しよう」


 カーナビに行き先として恋人岬を設定する。すると、ここからは40分くらいで付く予定だと表示された。


「午後2時過ぎくらいに着くみたいですね」

「みたいだね。それまでは涼しい車内でゆっくりと過ごそうか」


 僕は運転しなければいけないけど。美来と2人きりということもあってか、この旅行を通して段々と運転が好きになってきた。

 ロープウェイ乗り場を後にして、恋人岬へと向かい始める。


「それにしても、有紗さんは今頃電話を掛けてくるなんてどうしたんでしょうかね」

「本人は僕の声が聞きたかったって言っていたけど」

「へえ……」


 あ、あれ? 空気が微妙に重くなったような気がするのは気のせいかな。


「有紗さんなら智也さんの声が聞きたくなっても仕方ないですね。もしかしたら、もっと早く連絡したかったのかもしれませんが、夜だと……私達がえ、えっちをしていると思って遠慮したのではないのでしょうか」


 うふふっ、と美来は幸せな表情を浮かべている。そのことで、さっきまでのちょっと重たい空気がすっかりと消えていた。

 確かに、思い返せば僕のスマートフォンには夜中に電話やメール、メッセージは全然なかったな。あったのは広告メールくらいで。


「でも、有紗さんなら僕等に気を遣ってそうするかもしれないね」


 それに、美来の喘ぎ声を聞いたら、有紗さんが悶絶しそうな気がする。


「それでは、この写真を有紗さんに送ってみますか?」

「……ん?」


 ちょうど赤信号になって停車したので、美来にスマートフォンを見せてもらうと、そこには昨晩撮影したと思われる僕と美来のツーショット写真が写っていた。


「いつの間に取ったんだ……」


 僕の寝顔のすぐ側で、美来は笑顔になっている。幸いなことに僕も美来も胸から上だけなので、美来が持っていても問題はないけど。


「ねえ、美来。美来の胸だったり、僕の……アレだったり。写っていたらまずい写真は持っていないよね?」

「大丈夫ですよ」


 美来はスマートフォンの画面をスライドさせて、何枚か写真を見せてもらう。どうやら、昨日の夜にベッドの上で撮影した写真は今見せてもらったものだけで、その前後にあるのは夕食の写真や部屋の様子、酒入りコーヒーを呑む僕、バルコニーからの風景などの写真だった。


「うん、大丈夫みたいだね。良かったよ。いや、僕らは真剣交際をしているし、スマートフォンの中にあるだけだったらいいんだけれど、何かの拍子に誰かにそういった写真を見られたら色々と面倒だからさ」


 特に僕が。まあ、実際にそうなったときは、結婚を前提に美来と交際していると言って、美来に確認を取ってもらえれば十分なんだけど。


「僕らの関係を知っている人になら見せてもいいけど、できればそれ以外の人に見せたり、ネット上にアップしたりはしないでおいてくれるかな」

「分かりました」


 それに、さっきの写真を有紗さんが見たらどう思うか。


「あと、そういう夜の思い出を形に残したい気持ちも分からなくはないけど、できれば心だけに残しておきたいんだよ。あのときの美来の可愛くて……エ、エロい姿は他の誰にも見せたくないからさ」

「……智也さん」


 そう言うと、美来はいきなりキスしてきた。そのときの彼女はとても嬉しい笑顔を浮かべている。


「こらっ、美来。まだ赤信号だから良かったけど、不意に覗き込むような形でキスするんじゃありません」


 というか、美来もシートベルトをしていたのに、よく僕にキスできたな。


「ごめんなさい。でも、とても嬉しかったので。この写真は……誰も送らずに私のスマートフォンの中だけに置いておくことにします」

「……そうしてくれると嬉しいよ」


 そんなことを話していたら、信号が青になったので運転を再開する。


『できれば心だけに残しておきたいんだよ。あのときの美来の可愛くてエ、エロい姿は他の誰にも見せたくないからさ』


 あれ? 僕、何にも喋っていないのに、どうして僕の声が聞こえてくるんだろう。しかも、その言葉もついさっき僕が言ったことだと思うんだけど。


「……きっと、素敵な言葉を言ってくれると思って録音しておいたんです。ふふっ、智也さんったら……誰にも見せたくないなんて、独占欲強いですね」

「僕とイチャイチャしているときの恋人の姿を、僕以外の人間に見せたくないと思うのは普通だと思うけどね」


 それに、独占欲とかは美来の方がよっぽど強いと思う。


「智也さんが普通に他の誰にも見せたくないと思ってくれることが、とても嬉しいんですよ。智也さんにとって私がそういう存在になれたんだなって。だから、これからも智也さんにだけ……エロい姿を見せますからね」


 本当に、美来という女の子は。今のことで抱いた興奮はどこで発散すればいいんだろうか。今夜は昨晩以上に美来のことを求めないといけないかな。今は運転中なので、この興奮を抑えるために残っていたボトル缶コーヒーを飲む。

 美来は気分がとてもいいからなのか、リズムのいい鼻歌を歌い始める。それをBGMにして僕は恋人岬に向かって運転を続けるのであった。

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