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アリア  作者: 桜庭かなめ
特別編-浅野狂騒曲-
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第9話『Promise』

 午前8時45分。

 小雨の降るジメジメとした天気ですが、今日は元気に出勤することができました。すると、今日は既に羽賀さんが出勤していました。


「おはようございます、羽賀さん」

「おはようございます、浅野さん」


 羽賀さんは爽やかな笑みを浮かべてくれます。今日も彼は美しいです。

 そういえば、今日の羽賀さんは黒いベスト姿で、ワイシャツの袖を肘くらいまで捲っていますね。そんないつもとは違う羽賀さんの姿がかっこいいからか、彼に見惚れている女性警察官が何人もいます。


「どうかしましたか、そんなに私のことを見て」

「羽賀さんがベストを着ているところを見るのは初めてだな、って」

「そろそろ暑くなってきましたし、デスクワークのときはこのくらいの服装でいいかと思いまして」

「そうですか。よく……似合っていると思います」

「ありがとうございます。女性に似合うと言われると嬉しいものですね」


 そうは言いますが、羽賀さんはいつもの爽やかな笑みを浮かべています。

 しかし、なぜなのでしょう。羽賀さんにお礼を言われるととても嬉しい自分がいます。それは氷室さんの事件を捜査してからです。


「浅野さん、顔が赤いですが気分でも悪いのですか?」


 すると、羽賀さんはすっと立ち上がって、右手で私の額を触ってきます。


「……え、ええと……」

「ほんのりと温かいという感じでしょうか。今日は無理をなさらずに」

「は、はい……」


 羽賀さんは自分の席に座ってスマートフォンを見ています。

 あぁ、急に羽賀さんに額を触られたときはドキッとしてしまいましたよ。こういうこともさらりとやってのけるのが凄いところです。女性慣れしているのでしょうか。今のことで体温が上がった気がします。妄想するときの参考に……で、できるのかなぁ。

 私も自分の席に座って、パソコンを立ち上げます。

 そうだ、昨日のことを訊かないといけませんね。でも、さっき額を触られたからか緊張してしまいます。


「は、羽賀さん!」

「どうしましたか?」


 緊張のあまり、大きな声で言ってしまいました。恥ずかしいです。


「え、ええと……昨日、氷室さんや岡村さんとの呑み会はどんな感じだったのかなって」

「ああ、昨晩のことですか。そういえば、お話しする約束をしていましたね」

「それで、どうだったのでしょうか」


 興奮しすぎて、鼻血が出ないように気をつけないといけませんね。さあ、どんな話が聞けるのでしょうか。


「期待してもらって申し訳ありませんが、氷室は美来さんと付き合い、結婚することに決めたそうです。実際に結婚するのは当分先のようですが」

「それは昨日、朝比奈さんと話している中で察しがついていました……って、あれ? 2人は既に付き合っているのでは?」

「例の事件が解決するまでは、美来さんか月村さんのどちらと付き合うのか迷っていたそうです。それまでは、好意を持つ彼女達が週末だけ氷室の家に泊まりに来ていたんです」

「そうだったんですか」


 てっきり、氷室さんは朝比奈さんと以前から付き合っているのかと思いました。10年ぶりに再会して氷室さんは朝比奈さんから2度目のプロポーズされた、という話を聞いていましたから。


「それにしても、浅野さんは昨日、氷室の家に行ったんですね」

「……あのまま自宅に帰るのは癪でしたから。朝比奈さんや月村さんと一緒に女子会をしましたからね」


 3人でチキンカレーを食べて、月村さんとお酒を呑み、朝比奈さんにBL布教ができるかどうか試しただけですが。楽しかったですけど、BLについて注意されたときの朝比奈さんはとても恐かったです。


「なるほど。氷室の家で女子会が開かれていたのですね」

「私の話はいいじゃないですか。それよりも続きを」

「浅野さんにとって喜ぶ話は一切ありませんよ。あとは……そうですね。例の事件で氷室が一度逮捕されてしまったので、依願退職という形になりました。無実が証明されたので復帰できると思ったのですが」

「えっ、どうしてなんですか? 無実は証明され、大々的に報道もされたのに!」

「イメージダウンを懸念したのではないのでしょうか。本人が転職活動を頑張ると言っていましたから一安心ですが」

「そうですか」


 何だか、世の中の不条理の一つを知ってしまいました。


「こうなったら……警視庁に招くのはどうでしょう?」

「浅野さんならそう言うと思いました。ただ、彼はこれまでと同じくIT関連の仕事をしたいそうですね」

「そうですか」


 色々な意味で残念ですが、やりたい業種があるのでしたら、それに向かって転職活動をするのが一番ですもんね。


「でも、無実が証明されたら、おめでとうございます! じゃあ、これからも一緒に仕事を頑張っていきましょう! とはならないんですかね」

「浅野さんの言うのが理想だと思います。ただ、実際に罪を犯したかどうかよりも、逮捕されたということのイメージが鮮明に焼き付いてしまい、無実が証明されてもそれまでの生活を取り戻せなくなる可能性があるのが現実です。逮捕されるような事態に陥ってしまうのが悪いと考えているのでしょう。一生、誰かに犯罪歴のある人間だと見られてしまうと思っていた方がいいくらいです」

「冤罪で逮捕されてしまった人に優しくなれないものでしょうかね。ただ、そう考えると、今回の事件で氷室さんを嵌めようとした人達を許せませんね。不正を働いた警察関係者もいますし」

「そうですね。ですから……これからも私は氷室のサポートをしていくつもりですよ。警察官代表として。彼には美来さんという大切な存在もいますから」

「そうですか……」

「……そこで興奮はしないのですね」

「しませんよ。むしろ、興奮したらお二人に失礼かなと」


 氷室さんのサポートをしていくつもり、というその気持ちは素敵だと思いますが、そこで興奮はできませんでした。ただ、とても美しい友情だと思いました。そういう親友を2人もいる氷室さんはとても羨ましく思いますね。


「そうですか。そういえば、4人で呑むのはいつにしましょうか?」

「そ、そうですね……」


 できるだけ早い方がいいですが、3人が昨日呑んだことを考えたら、来週くらいがいいでしょうかね。


「来週のどこかで」

「分かりました。氷室も来週はまだ残りの有休を消化するので休むと言っていましたので、おそらく大丈夫でしょう」

「あ、あと……この前の土日の代休を来週の木曜日と金曜日に取りたいと思いまして。今からでも大丈夫ですか?」

「今は特に大きな事件を扱っているわけでもないですから、かまいませんよ」

「ありがとうございます」


 来週は3日出勤すれば4連休ですか。6月に4日連続で休めるのは嬉しいですね。


「私もできるだけ、今月中にどこか代休を2日取りたいですね。……そうだ、私は来週の水曜日と再来週の水曜日に代休を取ります」

「分かりました」


 水曜日が休みだと、2連勤を2回すれば週末に突入できるのでこれもいいですよね。例の事件のようなことがなければ、ですが。


「それで、来週の水曜日に私の家で4人で呑みましょうか。浅野さんも連休前であれば呑んでも大丈夫でしょう」

「そうですね。では、来週の水曜日にお願いします」

「分かりました。氷室と岡村には私から連絡しておきます」

「ありがとうございます。楽しみですね」


 これで、来週の水曜日までは呑み会を楽しみに仕事を頑張ることができそうです。その呑み会が終わったら4連休ですし。それまでに大きな事件が起こらないことを願いましょう。

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