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アリア  作者: 桜庭かなめ
本編-ARIA-

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第103話『ミダラナイト-後編-』

 最悪のタイミングで起きてしまった有紗さん。

 そんな彼女は僕らが寄り添っている様子を見て、段々と顔を赤くしていく。それはベッドライトの明かりだけでもはっきりと分かった。


「えっと、これはですね……」


 僕が今の状況を説明しようとすると、有紗さんの目からは一筋の涙が。


「……美来ちゃんと付き合うことに決めたんだね」


 何を言っているんだろう、有紗さんは。もしかして、今のこの状況を見て僕が美来と付き合うと勘違いしてしまったのかな。


「違いますよ、有紗さん。智也さんはまだ……」

「じゃあ、どうして美来ちゃんと寄り添っているの? ベッドライトだけ点けて、何だか2人でいい感じに見えるし。付き合うって決めて、これから……イチャイチャしようとするつもりなんでしょう?」


 やっぱり、有紗さんは僕と美来が恋人として付き合うことになったと勘違いしてしまっているようだ。早くこの誤解を解かないと。


「智也君、約束したじゃない。美来ちゃんとあたし、どちらと付き合うにしてもちゃんと答えを言ってくれるって。それなのに、何事も無かったように美来ちゃんと付き合うことに決めて、イチャイチャしようとするなんてひどいよ……」


 まだ酔いから醒めていないからなのか、それともこの状況を見てひどくショックを受けているからなのか、有紗さんはボロボロと涙をこぼしている。とにかく、普段の有紗さんと様子が違った。ただ、何にせよ、きちんと事実を彼女に伝えないと。


「有紗さん。落ち着いてください。僕と美来の話を――」

「あたしもする」


 すると、有紗さんは四足歩行の形で僕の目の前まで歩いてきて、


「……一度だけでもいいから、美来ちゃんの後にあたしともイチャイチャして」


 そんなことを言ってきたのだ。


「今のところ、あたしがイチャイチャしたいのは智也君だけなの。ひどいわがままだけれど、一生のお願いを聞いてくれる……かな?」

「有紗さん。もう一度言います。落ち着いてください。そして、深呼吸をしましょう」

「……うん」


 ――すー、はー。


 有紗さんは素直に深呼吸をする。こういうところが可愛いんだよな。


「有紗さんが落ち着いたところで話しますが、僕は美来と付き合うと決めたわけではありません。今の状況はその……美来と寄り添ってキスしただけです」

「……本当なの?」

「はい。智也さんとひさしぶりに一緒にいることが嬉しくなって。寄り添ってキスすることしかしていませんよ。智也さんとは恋人の関係ではありません」


 何だか、まるで有紗警察官から事情聴取を受けているようだな。

 すると、有紗さんは今の状況がようやく理解できたのか、笑みを浮かべて再び涙を流し始めた。


「良かった……」


 そう言うと、有紗さんは僕をぎゅっと抱きしめた。


「……ごめんね。今の2人を見たら、2人が付き合い始めたんだって勘違いしちゃって。本当にごめんなさい。ごめんなさい……」


 すると、有紗さんは号泣し始めた。おそらく、勘違いしてしまった罪悪感と僕と美来が付き合い始めていなくて良かったという安心感からだろう。


「んっ……」


 有紗さんは僕とキスする。釈放されて、ここに帰ってきたときのキスよりもずっと激しくて、ちょっと甘い。


「ま、まさか……んんっ!」


 有紗さんの甘さもあるけど……この甘さと匂い。もしかして夕食に呑んだ赤ワインのものなのか! 何時間も経っているはずなのに、有紗さんからほんのりとアルコールの匂いがするぞ。

 ――すぅ。

 僕に散々キスしてきたと思ったら、有紗さん……まだ酔いが完全に醒めていないからか、僕を抱きしめながら眠ってしまった。泣き疲れのせいかな。


「有紗さん、眠ってしまったみたいですね」

「そうだね」


 さっきよりもしっかりとした寝息を立てているし、有紗さんのことをふとんに寝かせる。


「これで大丈夫かな」

「ビックリしてしまいましたね。でも、何だか今のことで冷静になれた気がします」

「そっか」

「朝になったら、有紗さんに謝らないと。勘違いさせてしまいましたから」

「……まあ、色々と状況が重なっちゃったからなぁ」


 時刻は深夜1時過ぎ。部屋の明かりはベッドライトだけで、僕と美来はベッドに寄り添いながら座っていて、キスしていたら有紗さんが誤解するのも無理はない。


「智也さん、ちょっと汗掻いちゃったので……一緒にシャワーを浴びたり湯船に浸かったりして、汗を流しましょうか」

「うん、そうだね。有紗さんが起きたときに冷や汗掻いちゃったから」


 その後、僕は美来と一緒に湯船に浸かって汗を流した。

 美来とまた一緒にこんな時間をすぐに過ごせるなんて。とても幸せで、ちょっと切なかったのであった。

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