(お題) 神から不死の力を貰って異世界に転生したら勇者に祀り上げれたんだけど。えっ他は?
もう死ぬ……。いや、死ねないんだった、メチャ痛い……。
暗闇から浮かび上がった僕の意識は、耐え難い苦痛とともに現状を急速に認識しつつあった。痛みに似た痺れが全身を駆け巡るが、今となっては泣き喚いたり手足を振り回して暴れるような事はもうない。時折うめき声を上げてしまうことはあるけれども。思わず身を捩ろうとすると、覚醒した事に気が付いたのか、僕の麗しの君が声を掛けて来た。まだ目は見えないけど、透き通った天使の様な声を聞き間違える僕じゃない。この声を聞きたいから、まだ僕は頑張れる。
ああ、ようやく左のみだけど目が見えるようになった。お姫様はいつものようにそばで微笑んでいた。腰上まで伸びた青い髪は綺麗だなあ。仰向けのまま痺れる手を伸ばそうとして、まだ肘先がないことに気がつく。僕が諦めて腕を下ろすと彼女は一言云って、二の腕の切断部分にその先を付けてくれた。激痛と痺れが交じる中、熱を感じて結合が始まった事がわかる。
魔王軍と戦う戦場のさなか日が落ちきる前の野営地の一角を陣取り、かき集められた僕の体をお姫様が整えてくれて、体感で一時間。ようやく体のすべての機能を取り戻した僕は、血で赤く染まったこの身を湯で流していると、騎士さんに夕食の準備が整ったと告げられた。
白い天幕に入り王女様や将軍たちと一緒の席に着いて、今日の魔王軍との戦果を聞いた。わざと魔王軍の捕虜になった僕が勇者だと喧伝し、尋問に来た魔王軍の軍団長二人を巻き込んで自爆したため、それまでなんとか耐えていた戦線を一気に押し上げることが出来たようだ。こちらの損害も想定以下に抑えられたといい、神輿に担がれたように褒め称えられる。
まあ、剣も魔法も使えない僕が唯一出来るのは、不死であることを利用して敵陣深くで自爆するくらいだった。爆裂の属性を持つ魔石を僕の体に仕込むと、なぜか効果が上がる事を偶然お姫様が見つけた。遅延して発動するように細工した拳大の魔石を腹に仕込んでおけば、直径二キロメートルに渡って瓦礫の山を作ることが出来る。僕のそばにいた敵は逃げ場がないだろう。チリになっても消し炭になってもそのうち復活するこの呪いは、僕のヒョロイ姿に油断する相手であればあるほど凶悪な効果をもたらした。捕虜にされることなくその場で切り捨てられても、うまく敵を引き寄せれば敵の中に爆裂魔法を撃ち込むようなもので無駄にはならない。爆心地にいながら生き返れて、何度でも試せるっていうのは自分のことながら便利なものだな。
こんな化物じみた身体にさせられた神様と会った時のことを思い出して、怒りがこみ上げる。放課後、下駄箱に入れられた可愛い便箋を手にして、通っていた高校の裏山へと向かうと、そこにいたのは老齢でありながらガッシリとした体格の半裸の男性。野犬に病院送りにされる程度の僕の細腕では抵抗すら出来ずに、有無を言わさず崖から突き落とされた。そこで生きるか死ぬかを選択させられた僕は、結果として肉塊となってこっちの世界に召喚され、一日をかけて体を修復していったらしい。僕が目を覚ますと、そこではやはりお姫様が、両手を何故か血で染めながらそばに居てくれていたっけ。人の体は面白いと呟く、その時の無邪気な微笑みを思い出して思わず顔が綻んだ。
そろそろお開きにしましょうという王女様の声で夕食が終わった。席を立つ時にお姫様が、惚れ惚れする天使の様な声で可愛らしく囁く。
「明日も派手に散らかって下さいね、私の勇者様」
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⛔ ⛔ この作品の仕込みについて ⛔ ⛔
☀勇者はお姫様に惚れています。
☀お姫様は高い身分のある令嬢への呼びかけであって、皇族・王族に限定されたものではありません。市販されている辞典にも記述があるはずです。
☀今回の戦いでは勇者が一日もかからず復活したのに、こっちの世界に来た時は一日掛かっています。その最たる原因はお姫様です。
☀お姫様は目の前に肉塊があれば弄りたくなるのですが、それは仕方がないことです。この性癖に目覚めたのは勇者がこの世界に現れた時です。
☀魔石の属性には爆裂というものがあります (作者は紅マ族なんてもの全く知りません)。
☀改めて言いますが、爆裂の魔石を勇者に仕込むと効果が上がるということは、お姫様が見つけました。偶然です。
☀高校に通う勇者の下駄箱にラブレターのようなものを仕込んだのは半裸の神様です。可愛らしい文字を自在に操ります。