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7 ある暗殺者と忘れ去られた王妃様

アンクさん視点です。

色とりどりの薔薇が咲き誇る、整えられた豪華な庭園。そこに見知った顔ーー暗部の人間を見つけ、私は音もなく建物の屋根から地面に降り立った。

相手はさほど驚かずに私を視界に入れる。


「お久しぶりです。アンクさん」


燕尾服のワイシャツのボタンが弾け飛びそうな位、ゴツい……がっしりとした体格の男が私に向かって頭を下げた。

褐色の肌に厳つい顔、茶色の瞳にスキンヘッドの彼は、どこからどう見ても裏の悪い人にしか見えない。


これでも公爵令嬢の執事をやっていたのだから、人は見かけによらないとかなんとかは本当だ。


軽く手を挙げてそれに応じ、私は視線を辺りに彷徨わせた。


「セバスチャン、王妃様はどちらに?」


背丈も私より高い大男ーーセバスチャンが私の問いに答えるより先に、艶かしいしっとりした女の声が私を呼んだ。


「あら、アンクじゃない」

「……王妃様」


扇情的な鮮やかな紫色のドレスを身に纏い、艶やかに輝くプラチナブロンドの長い髪を結い上げた女性ーー王妃様は私を見るなり、ゆるゆると紅を引いた唇を緩める。

垂れがちの紫眼、左の目のきわには涙黒子があって、王妃様の魅力を一層高めていた。


「久しぶりね。あれからアルフレッドは元気にしてたかしら?」


大人の色香を漂わせながら、少女のように首を傾げる王妃様に私は無表情のまま、淡々と返事をした。


「女々しさとヘタレが加速しましたよ」

「あらまあ、アンクが呆れてるって事は、よっぽどなのねぇ」


……一応、無表情のままなんだが、と確認するように頬に手をやるが、案の定表情筋は全く動いていなかった。

こんなのでよく私の感情が分かるな、と思いながら追加の報告をしておく。


「王妃様に頼まれていた言伝、王子に伝えておきました」


王妃様は口元に手を当て、上品に美しく微笑む。


「ふふっ、丁度良い気分転換になるでしょう?」

「…………義理の息子にBL本買わせるなんて、王妃様も人が悪いですね」

「ちょっとした悪戯よ。もしこれが男爵令嬢にバレて幻滅でもしてくれれば、万々歳だけれど」

「王子の名誉に関わる問題かと」


冷静に突っ込んだ私に、王妃様はちょいちょいと手招きする。

大人しく付き従って行くと、いつの間に用意されたのか、テラスのテーブルの上に湯気を出している紅茶が2人分並べられた。


「立ち話も無粋でしょう?座って話しましょうよ、ね?」

「いえ、私は結構です」

「お話する時、女性を立たせるってアルフレッドに教えたのかしら?貴方はアルフレッドの教育係なのだから、アルフレッドの手本とならないといけないでしょう?」


主人の義理の母とお茶の席を一緒にして良い身分ではない。それ以前にまず私の存在自体、この世では元から居ない者だ。

元王女だった経験のせいか、本人の才能か、王妃様に口では勝てない。


元々暗部でも、個人個人で役割が違うのだ。

暗殺に特化している私には太刀打ち出来ない。


「……では、失礼します」


不本意だが、仕方ないと渋々席につく。

セバスチャンは、私達に一礼してからこの場を辞した。


「で、本当にアルフレッドは大丈夫なのかしら?いつ、誰が裏切っているか分からない状況で」

「……正直、このまま続けば危ないです。外交的にも、王子の精神的にも」

「……そう、早期解決が一番ね」


裏切り者を泳がせておくべきだった。勘付かれてはならなかったが、気付かれて自殺された。


「お兄様……リーゼンバイス国王には既に話を通しておきました。ですが、もしベルンハルトと戦争になった場合、王族に連なる全ての者の処刑は避けられないだろうと」

「そうですか。……そうでしょうね」


敗戦国の王族が辿る道は悲惨だ。

ただ殺されるのはまだ良い方、いたぶられたり、拷問の末に死んだり。


わたくしも例外ではないと。すまないと。お兄様は仰ってたわ。他国に嫁ぐという事はそういう事。私はずっとリーゼンバイスにあるこの屋敷に居て、王妃の責務を果たしていないけれど。それでも、肩書きはベルンハルト王妃なのよ」


背筋を真っ直ぐに伸ばし、王妃様は言い切った。


「お兄様は出来るだけベルンハルトと戦争はしたくないと仰っているわ。しかし、お兄様はリーゼンバイス国王。このリーゼンバイス王国の政治は、民と政治家と国王で成り立ってるの。お兄様が幾ら戦争をしたくなかったとしても、国王だから、危険分子排除のために非情にならなければいけない時がある」


ふっと色っぽく息をついた王妃様は、頬杖ついて私を見た。


「でも、私だって命は惜しいし、息子が殺されるのは嫌だわ。

でも、私に出来る事は限られてる。せいぜい貴方とアルフレッドの協力をするので精一杯」

「いえ、その協力は大きいですよ。リーゼンバイスの筆頭公爵家縁・・・・・・の姫を引き取って下さっているのですから」

「……まあ、私にしか出来ない事でしょうね」

「ええ」


私が頷くと、王妃様は花開くように、少女のように顔を輝かせてニコニコ笑う。


「あの子ったら、女の子なのに剣の腕が鈍るって言って、毎日魔物を狩りに出掛けているのよ」

「なんというか……タフですね」


声に若干呆れの色を滲ませてーーそれでも付き合いの浅い人にはわからない程度の声音で応じた私に、王妃様は少し困った表情を見せた。


「ええ、本当に元気にしてて……。ああ、そういえば、秘密裏に戸籍を公爵家の娘にしようと一度王城に上がったの」

「何か問題でも起こしたんですか?」

「起こしたんじゃなくて、起こったのよ。リーゼンバイスの王太子があの子に見惚れていたわ」

「それはまた……面倒な事になりましたね」


職業柄、紅茶は飲めないが、特に王妃様は咎めない。そういうとものだと分かっているから。

湯気の出なくなった紅茶を一瞥し、私は席を立った。


「あら、あの子に会っていかないの?」


キョトンとした表情で、王妃様は座ったまま私を見上げる。

それに私はほんの少し口元を緩める。


王子あるじに嫉妬されそうなんで止めておきます」

「心が狭いのねぇ。誰に似たのかしら?」

「王子は国王陛下にそっくりですよ。甘い所も気弱な所も、全部」

「いくら嫌っていても、親子は似るのね……」


ほうと息を吐いた王妃様は、暗めの紫眼にほんの少し挑戦的な色を宿して、紅い唇を三日月型に吊り上げた。


「ーーそれで、貴方は女の人と2人っきりで何のイベントも起こさないのかしら?」

「冗談キツイですよ」

「あらやだ。まだ誘惑が足りないのかしら?ドレス脱いだら落ちてくれる?」

「痴女みたいな真似は止めてください。王妃様なんだから」

「まあ!酷いわ!いつも貴方だけにしかしないのに!息子だって、もう私達の手掛からない位までだいぶ成長したでしょう?」

「掛けまくってますよ。というか、中年夫婦と誤解されるような発言はしないで下さい」


口元に手を当て、目を見開く王妃様に私は困惑した。

どこまで本気なんだろうか、この人。


「胸押し付けても、足を少し見せても中々落ちてくれないから、私貴方の事ゲイだと……!」

「何ですかその恐ろしい発想は。訓練してますから、欲と感情は薄いんですよ。っていうか、貴女は既婚者でしょう。不倫になりますよ」


私の至極真っ当な言葉に王妃様は口を尖らせた。


「いいじゃない。私だって、誰かと恋愛してみたいし、一途に愛されたいのよ。期限付きでも、制限付きでもいいから」


だから、なんでその役目が私なんですか。

愛なんて、理解できないんですよ。私達には。


「それなら、私は不適任ですね。恋愛どころか、ーー肉親の情さえ持っていませんから」


そう。血の繋がった家族でさえ、容赦なく殺せる。

そう訓練されてきたし、元々そんな感情を持っていなかったから。

妖艶美女、王妃様と雰囲気イケメン、アンクさんでした。

今の所一番王妃様がヒロイン。


さり気なくタグにホラーと付け加えておきました。

タグがカオスになった気がする……。


iPhoneって、空白のキー使えないんですかね?!ほんのちんまりしか空白空いてないような気がするんですけど……。


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