26 ベルンハルト国王崩御
お久しぶりです。更新遅くなりました……。
ごめんなさいっ!<(_ _)>
ーーベルンハルト国王が崩御した。
その情報は、次の日には瞬く間に王国中へと知れ渡った。
それと同時にどこから流れ出たのかわからないが、暗殺されたとも伝わった。
「殿下っ!貴族議会開催申請が来ております!」
「殿下!リーゼンバイス王国のフリードリヒ様とバイゼン皇国のハリス様が面会を求めておられます!」
国王が暗殺されてから2日。
俺の執務室にはひっきりなしに色々な仕事が舞い込んできていた。
第一妾妃様を、気にする暇がないくらいに。
気付かれてしまった。だから、俺は捕まえるのではなくもう殺す方向でアンク達と話を進めた。
向こうに暗殺者を送っているが、人員が足りない上に中々成功していない。
同時に俺の元にもひっきりなしに暗殺者が送られてきている。
あれからセイドリックの姿を見ない。
無事でいてくれるといいのだが、アンクはセイドリックの所在を掴んでいて、囚われているとだけは教えてくれた。
ジェニー嬢は暗部とマリオット辺境伯の協力を借りて、マリオット辺境伯の王都内にある屋敷の地下に厳重に監禁されている。
何かあれば殺さなければならないが、一応重要な情報源だ。
だがジェニー嬢は、全て自分の父親がやった事だとしか言わない。
ペティエット伯爵の屋敷の方にも暗部を送り込んで伯爵が逃げ出さないようにしているが、特に動きはないらしい。
「領地に帰っている者達をすぐに呼び戻して。集まり次第、貴族議会を開催する。それと、この後王子2人には別々に面会をしてくる。大事な客人だからね」
山積みになった仕事を捌きながら、重要なものから優先させていく。
ある程度一段落ついた所で、俺は上着を羽織って正装に近い格好をした。
そして、近くにいた文官を呼んだ。
「どっちが先に面会を希望したんだい?」
◇◆◇◆◇◆
「違う!俺達の国がそんな事する訳がないだろう?!メリットなんてないじゃないか、デメリットしかないっ!」
王城の客室の1部屋を訪れた俺を見るなり、銀髪紫眼の少年は酷く憔悴しきって俺に詰め寄る。
「うん。まずは落ち着こうか、フリード」
肩に手を置いてフリードを宥めながら、ソファーに座らせる。
真っ青な顔をして、フリードは頭を抱えた。
「ベルンハルト国王が暗殺されたって。犯人はリーゼンバイス人だって聞いて、居ても立っても居られなくなった」
そしてバッと顔を勢いよくあげて、フリードは俺に懇願する。
「俺達が暗殺する訳がない。そんな事したら、リーゼンバイスはベルンハルトの手で簡単に地図上から消されてしまう。小国であるが故に、俺達はベルンハルト王国の威光を頼りにして他国の侵略に怯えながら暮らしてきたんだ。だから、叔母上がベルンハルト王国の王妃なのに冷遇されてても、俺達は何も言えなかった。そしてエリザベス嬢が処刑された時だって、国民からの反発は大きくて、父上は板挾みになったけど国の存続の為に何も言わない事を選んだ。俺達が戦争を起こしたら、リーゼンバイス王籍から抜けた叔母上にも被害が及ぶ。俺達には何もメリットなんてないだろ?!むしろあるのは、滅亡だけだっ!」
堪えきれなくなったように瞳を潤ませるフリードを見て、俺はなんと言うべきか躊躇した。
眉を寄せたまま考え込む俺を、フリードは固唾を飲んで見る。
「私はリーゼンバイスがやった事ではない、と思っている。だけど、事態がどう転ぶかは分からない」
自分の身すら、危うい状況なのだ。
俺は、エリを迎えに行かなければならないのに。
「……アルフレッドがそう思ってくれてるだけでも、良かったよ」
フリードは少し肩を落とす。
きっと俺がリーゼンバイスに攻め込まないという言葉が欲しかったんだろうけど、俺は確実に守れる約束しかしたくないのだ。
もしリーゼンバイスが危なくなったら、また違う安全な場所へエリを移動させるようにと、セバスチャンにあらかじめ命令してある。
エリだけは、何としてでも守りたい。
王太子失格だという事は、とうの昔に自覚済みだ。
完全に萎れてしまったフリードに掛ける言葉が見つからないまま、俺は客室を後にした。
◇◆◇◆◇◆
「やあ、僕の方が後回しかい?」
部屋に入った瞬間、嫌味を飛ばしてきたバイゼンのハリス皇子に行き場のない怒りが湧いた。
狡猾なバイゼン皇国。直接的な証拠がないから何とも言えないが、十中八九この国の仕業だろう。
綺麗に怒りを笑顔で隠して、俺は案内された席につきながら首を傾げる。
「何の事を言ってるんだい?」
「やれやれ。僕じゃなくてベルンハルト国王陛下を暗殺したリーゼンバイス王国の王太子を優先させるなんて、君も酷いことをするなあ。父親を殺した奴らだよ?復讐したいと思わないの?」
「私は面会を希望した順に会っただけさ。リーゼンバイス王国もバイゼン皇国もベルンハルトにとっては大切な国だからね。それに直接的な証拠がないのに悪者だと決めつけるのは良くないと思うよ」
「何を言ってるんだい?ベルンハルト国王陛下を殺したのはリーゼンバイス王国だろう」
「何故そう断言できるんだい?」
眉をひそめて全く分からないというように首を傾げる。
ハリスは少し苛立ったように、テーブルに置かれた紅茶を一口飲んだ。
「ベルンハルト国王陛下を殺したのがリーゼンバイス人だからだよ」
「君はとてもよく知っているんだね?」
「そんなの当たり前だよ。噂は大抵耳に入るからね」
そういえば、フリードも知っていた。
近衛が口を割ったのか、……いや、誰かが意図的に流した可能性の方が高い。
どちらにせよ、追及する事も何かの証拠にする事も不可能だろう。裏の繋がりを暴けない限り。
そっと息を吐いて、俺は目の前の皇子を見た。
きっと俺が小国の王子を優先させたのが気に食わなかったのだろう。特にまともな同盟を結んでいない国と同盟国だったら、同盟国を優先させるに決まっている。
フリードの方が面会希望したのが早かったのもあるけれど。
「そこら辺は慎重に調べているさ。結果次第、という事だね」
「ふん、結果は見えているのにかい?」
「調べる前に決めつけてしまうのは、愚か者のする事だろう?」
遠回しに馬鹿にしたのが伝わったのか、ハリスはすごく不機嫌になった。
「……だが、迅速に対応しなければいけない事もあるだろう。腰が重ければ重いほど良いと言うわけではないんだぞ」
「さて、君は私に何を求めているのかさっぱり分からないな。迅速に対応すべき時とそうでない時の区別くらいはつくさ」
俺はさっさとリーゼンバイスへ攻め込め、と暗に勧めるハリスの会話をバッサリと切った。
自分有利に話が進んでいる事を好機として、俺は本題へと踏み込む。
「ああ、下らない話に時間を費やしてしまったね。本題へ移ろうか。君は何で私に面会を希望してきたんだい?」
「……ああ。一刻も早く祖国に帰りたくてね。物騒な所にはいれないよ」
苦虫を噛み潰したような顔をしたハリスは静かな声で求めた。
それに対して俺は申し訳なさそうに謝る。
「すまない。今はどこも混乱しているから、外は危ない。落ち着くまで王城にいてもらうよ」
ボロが出たら、それはそれで万々歳だからね。
元々通るとは思っていないようだった。
深々と溜め息をついたハリスは、分かったとそこまで残念そうでもない顔で頷いた。




