16 裏切り者は
長いので2話に分けました。後半も金曜日更新します。
今回少し短め。日付変わってしまった…、すみません。
各話タイトル付けて欲しいと要望あったので今回から付けていきます。前回までのは後から少しずつつけていくつもり。
ーー異変に気付いたのは、ほんの些細な事だった。
「アルフレッド」
夜遅くまで読書をしていた俺に声が掛かる。
リーゼンバイス王国に留学してきた俺は、与えられた寮の自室に沢山の書物を運び込ませて夜遅くまで読むのが習慣になっていた。
呼ばれた方を向くと、黒ずくめの美少年ーーリンクが無表情で側に立っていた。
「やあ、リンクどうしたんだい?」
「これ」
手元にあった本を閉じ、リンクから差し出された手紙を受け取る。
宛名も送り主も書かれていない、真っ白な封筒。
「ありがとう。今回は急がせてすまないね」
「いや、いい。おれの仕事だから」
首を振ったリンクは、音を立てずに去って行く。
それを見届けてから、引き出しからペーパーナイフを取り出し、手紙の封を切った。
この手紙には、誰かの名前は一切出てこない。
俺の名前もエリの名前も。
リンクに何かあって、誰かにこの手紙を読まれてもいいように。
誰にも隠さずにエリと手紙のやり取りをしているけれど、留学している時はどうしてもリーゼンバイスに手紙の中身を読まれてしまう。
国の内情を報告してくれる人はいる。リンクもその1人だ。
けれど、エリ目線からの国の内情を知ってあれこれ2人で考えて対策を立てるのも大切だと思っている。
でも、留学して日が浅いうちは大した問題は起きていないらしい。
リーゼンバイス王城を経由して届く手紙にも、リンクを使って届く手紙にも、国の内情をこまめに報告してくる人達も全員そう俺に告げる。
ジェニー嬢に心酔していた側近達がエリを非難していた事が気がかりだったが、リンクも説得してくれたらしく収まったらしい。
エリも学園生活が過ごしやすくなったと手紙に書いていた。
別に婚約者がいなければ、恋愛は自由だ。
既婚者でも外に愛人を作るのが当たり前の世界だから、他人の恋路を俺は阻む気はない。
仕事をきちんとこなして、忠誠を誓ってくれさえすれば俺は良かったのだ。
留学をして2ヶ月半が経った頃だった。
よくある話題。確か手紙にリーゼンバイスの学園の花がとても綺麗だと書いた事があった。
それの返事に、その花の花言葉が詳しく書いてあったのだ。
エリは花言葉が苦手だ。普通の令嬢だったら有名な花言葉は当たり前のように覚えているのに、政治に剣術に魔法ばっかりを磨いてしまっている。
統率力もあり、人の上に立つ才能もあるエリの弱点でもあった。
上手く隠しているけど。
珍しいと感じたが、調べたのかもしれないと思いつつ、念の為急ぎの手紙で聞いてみたのだ。
『貴女の1番大切にしている本はなんですか?』と。
2人だけが分かる暗号だった。
これに彼女は決まって答える。
『あら、約束忘れたの?』と。
質問を質問で返す。他の人が見たら成立していない会話。
だから手紙を書いたのがエリ以外だったら、答えるのだ。本の名前を。
筆跡なんてよく似せてあったら、専門の者に見てもらわなければ分からない。
だから、気付かなかったのだ。
綴られた文字に目を通して、俺は衝動的に便箋を握り潰した。そして立ち上がる。
この手紙もエリの字そっくりで、長年エリの字を見ている俺でも分からなかった。
いや、何よりリンクが運んでいたという信頼が大きかったのだろう。
王家の暗部は、誰よりも王家に忠誠を誓い、王家の為に働き、王家の為に死ぬ。
ーー裏切られた。
すっと、頭の中が冷えていく。
有名な政治学の本が好きと書かれた便箋を最後に一瞥し、天井を睨み付けた。
リンクが裏切った。何の為に?
後ろに何がついている?
単独の裏切りか?他に裏切り者はいるのか?
瞬時に沢山の疑問が浮かぶ。
それと一緒に、自分の情が混じった。
俺は、友達だと、思っていたのに。
学園に入って交友関係は広がったけれど、幼い頃から一緒にいたドイル、ユーゴ、レンドル、エリア、リンクとは相変わらず仲が良かった。
職業柄どうしてもリンクはこの世に存在しない筈の人間で、同じように学園にも表立って外に遊びにも行けなかったし、顔をあわせる機会は他の人達より少なかった。
でも、みんなで年相応に馬鹿みたいに騒ぐのは、楽しかったんだ。
どうして。
「リンク」
天井裏にいる人を呼ぶ声は、ほんの少し、震えていた。
感想ありがとうございます!
いつも励みにしてます。
ですが、ネタバレしそうなので、今回から完結まで感想のお返事返すのストップします(><)本当にごめんなさい……。完結してから一気に返します!




