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12 この世界でしか生きられない

初めて彼女に、俺が欠陥品だと告げた日。


彼女がどんな反応をするか。それが怖かったから、本当にサラッと、日常会話の片隅に言葉を載せた覚えがある。


その当時、俺は身体を毒に慣れさせる為、毒薬投与が開始された頃だった。


辛くて、苦しくて、王太子なんか望んでなった訳じゃないのにって、やさぐれた気持ちでいたけれど、毒薬投与については彼女に言えなかった。

彼女は優しすぎるから、きっと俺の苦しみを俺の事のように傷付いて、俺の立場上避けて通れない事に苦しむ。


だから、俺は精一杯強がってた。


彼女の前では無意味で、言わなくても俺が自暴自棄になっていると気付いていたけれど。


あの日の城下の大通りは、建国祭で人の往来が激しかった。

こっそり城から抜け出した俺達は、人と人の隙間をすり抜けながら、二人手を繋いで祭りを楽しんでいた。


きっと、何処かの貴族の子供だと回りに見られているだろうが、アンク達がこっそり近くで護衛しているので、身の危険はないだろう。


「ねぇねぇ!私、鶏の串焼きが食べたい!」

「鶏の串焼き?なにそれ美味しいの?」


数あるうちの1つの屋台に引っ張られ、ポケットから財布を出す。

こういう所は男が奢らないといけない、と暗部の奴等と王妃様に行く前に言われた。


「美味しいよ!前にアンクと一緒に行った事食べたの!」


財布の中の、王妃様から貰ったお小遣いを確認していた手が、ピタリと止まった。


「……へえ、アンクと」

「うん。アンクがね、アルが夜会終わった後で女の人に押し倒された話してくれてね。アル半泣きでアンクに助け呼んだんでしょ?」

「…………すごく楽しそうだね」


クスクスと笑う彼女に毒気を抜かれた……というか、その話を知られてしまって、半ば本気で落ち込んだ。

ちなみにアンクが何時の話をしたのか……押し倒された心当たりがありすぎて、正直分からない。まだ俺の年齢は漸く二桁に入った所なのに……。


「アンクってお兄ちゃんみたいだよね」

「え?エリに兄上いたの?」

「違う違う。お兄ちゃん居たら、こんなんかなあって感じ」

「ああ、それ、分かる」


面倒見が良いんだよね、アンクって。

先祖代々裏家業だから、アンクも裏家業をやっているけど、城下にいたら、大家族の長兄をやってそうだ。


今も隠れて護衛しているから、俺達の会話を聞いてるんだろうけど、真顔で照れてそうだ。


屋台で金を払い、少し空いた場所で二人で手を繋ぎながら、買った串焼きにかぶり付く。

炭で焼いた鶏にソースが掛かっていて、思わず言葉が漏れた。


「おいしい」

「でしょ?」


出来たてで、とても熱い食べ物がこんなにも美味しいのは、初めてだった。

王城のご飯は毒見のせいで、3食全て冷めきってしまっているから。


得意気な彼女もマナーや教養も全て捨てて、串焼きにかぶり付いていた。

その様子が新鮮だった。


ふと周囲を見渡すと、石畳が見えないくらい人がごった返している。皆笑顔で、楽しそうに祭りを楽しんで。

屋台は繁盛していて、忙しそうだ。長蛇の列が出来ている所もある。


国民が幸せそうに暮らしているのは、間違いなく国が豊かな証拠。

俺が父上の跡を継いで、この国の為に身を粉にして働かなければならない。


大通りの遥か先を見やると、巨大な白亜の王城がそびえ建っていて、ベルンハルトの国旗が揺らめいていた。


夕方までには、あの牢獄のような場所に戻らないといけない。

夜には国民に顔見せして、打ち上がる花火をバルコニーから見て、その後で夜会だ。


俺に与えられたのは、1時間にも満たない時間。すぐに帰らなければならない。


小さな子供を肩車する父親、ぐずる弟を必死でなだめる小さな兄、着飾った女の人達、それに声を掛ける数人の男。手を繋いだ熟年夫婦。屋台のおじさんにからかわれる若いカップル。パン屋の前に立って人を呼び込んでいる看板娘。両親と手を繋いだ俺達と同い年位の子供。


皆、本当に楽しそうだった。


それに俺は、壁を感じた。

決してそっちの楽しそうな世界に行けなくて、俺はアンク達暗部の奴等と王妃様と彼女だけしかいない、冷たい世界に閉じ込められたまま。


羨ましいと思った。

しがらみも何もない世界で生きられる彼等が。


でも、俺はこの世界でしか生きられない。

無い物ねだりはしたくない、と強制的に思考を止めた。


俺はきっと、この世界では恵まれてる。

一人じゃない。

アンク達も王妃様も彼女も、俺の側に居てくれる。俺自身を見てくれている。


例え上司と部下の立ち位置から出られなくても、本当の親じゃないことで壁を感じても。

それで良いじゃないか。

大切なものがちゃんとそこにあるんだから。


ふと、彼女が黙り込んでいるのが気になって隣を見る。

見て、俺は繋がった彼女の手を少しだけ強く握った。


「アル?」


不思議そうに目を瞬かせる彼女に、俺は何でもないと首を振った。

建国祭を見る彼女がとても寂しそうだったなんて、言えなかった。


彼女の家の事情は知っていた。

早くに実の母親を亡くし、後から来た後妻と異母弟に疎まれ、父親は後妻を可愛がってばかり。

下手すれば、俺よりも酷い環境かもしれない。


「俺、この国が嫌いだ」


それは流れるように出た。

コップに注ぎ続けた水がいっぱいいっぱいになって、溢れるように。


俺の大切な人達は、この国の為に頑張っているのに、この国は僕の大切な人達に優しくない。


アンク達は裏家業だから、存在自体居ないことにされている。

王妃様は父上から疎まれて、王城ではいない人として扱われている。巷では、第一妾妃様と国王陛下をモデルにした、身分の低い女の人と国王様の純愛小説が流行っていて、民衆からも王妃様は嫌われている。

エリは家族からつま弾きにされ、俺の婚約者だからって陰で嫌がらせされている。


本当、大嫌いだ。


「そうかしら?」


彼女は、透き通ったアメジスト色の瞳に俺を映す。


「これだけの人が笑ってるって事は、この国は豊かなんでしょう?沢山幸せがあるんでしょう?そんな国に生まれた私は、幸せ者だわ」


眩しい程にキラキラ輝いていて、彼女は希望に満ちた未来を見ているようだった。


「それにこの国でアルに会えたもの。私はこの国で絶対に幸せになるわ。だから、好きになっても、嫌いにはならないわよ」


そして、彼女は俺の手を力強く握って、顔を近付ける。彼女の左耳に付いている雫型のサファイアが大きく揺れた。


「ねぇ、アル。私は貴方に出会って、幸せになりたいと思えたのよ」


忘れもしない。感情も何もかも捨て去った人形のようだった彼女を。

唯一の母親を亡くして孤独だった彼女を。


彼女は俺の支えであり、俺は彼女の支えだ。時に俺を癒し、俺に寄り添い、時に共に戦う存在。

彼女がこの国を好きだと言うのなら、この国で幸せになると言うのなら、俺もなれる気がした。


大人達に決められた打算的な婚約だった。

用意された出会いだった。


それでも、俺は彼女を必要としていただろう。


「……本当、エリがいないと駄目だなあ。俺」


男前すぎる彼女に苦笑したが、俺の心が少し軽くなっているのを感じた。


俺の隣に彼女がいる。

彼女の隣が、俺の居たい場所。

だから、俺は何があっても、彼女の隣に帰ってこよう。








◇◆◇◆◇◆







「へえ、意外と王都って栄えてるんだな」

「意外とって?」

「……あ、いや、何でもねえ」


俺の指摘にフリードは慌てて自身の口元を押さえる。


他国から嫁いできた王妃様をないがしろにする愚行を犯した国だ。上が愚かなら、下の人間が苦労をする。

そう思ったのだろう。


実際、それは正しい。


優秀な文官達や役人が上手い事やってくれているお陰で、治安は保たれている。

しかし、それも長くは続かないだろう。


先代国王は賢王だった。しかし、10年前に持病で亡くなって、今代へと王位が移った。


今の治安は先代の影響が残っているから。

もう所々でガタが来はじめている。


俺はマリオット辺境伯の進言で、約半年ぶりに王都外れの孤児院へ馬を走らせて単身向かおうとしていた。

気分転換にと言われたが、思い詰めた表情をしてしまっていたのだろう。


しかし、丁度フリードと会ってしまい、付いて行きたいと駄々を捏ねられた。いくら影の護衛が付いているとはいえ、流石に他国の王太子と二人という訳にはいかない。


渋々騎士団に護衛を頼んだ所、騎士団長と6名の近衛騎士が護衛に就く事になった。全くお忍びの気分転換である意味がない。


おまけにエリザベス・フィレイゼル公爵令嬢を処刑した後から、騎士団から射殺されそうな程の殺気の籠った視線を向けられる事がある。騎士団が王族にそんな目を向けて良いのか、疑問だけど。


エリザベス嬢も、俺も騎士団の面々とは仲が良かった。メーラー侯爵とマリオット辺境伯のように、彼等は俺達が二人一緒に国を治める未来へ希望を持っていたのだろう。


それが失望に変わった。


本当に上手く嵌められたものだ。

色んな所への根回しはほとんど出来ていたんだろう。

脳裏に裏切り者の姿が浮かび、思わず下唇を噛んだ。


気が付かなかった俺も悪い。


今も騎士団長を含める護衛7名から、殺気を向けられている。

この針のむしろのような状況では、フリードは耐えられないらしく、所在なさげにしていた。全部俺に向けられたものだから大丈夫なのに。


あの断罪の後、騎士団長は息子のユーゴを叱り飛ばしたらしい。

ジェニー嬢は「酷い!」なんて言っていたけれど、俺に言わせると叱られただけ?って感じだ。

この騎士団長、息子にはどうやら甘いらしい。初めて知った。


「あ、あれか?!」

「うん!そうだよ」

「へえ、教会みたいだな!」

「教会みたいじゃなくて、教会だよ!シスターが子供達の面倒を見てくれてるんだ」


馬を操りながら、指差したフリードに俺は返事する。馬上なのでお互い少し声を張り上げた。


見えてきたのは、小さくてこじんまりとした可愛らしい教会。

敷地内で飼育されている鶏も、畑も、前来た時と変わっていない姿がそこにはあった。

たまにアルの一人称が俺ではなく、初期設定の僕になってしまってる箇所があるかもしれません……^^;

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