11 どんな願いも叶えましょう
半年間更新空いてしまってすみません……!
王城の裏には手の加えられていない森が広がっている。綺麗な湖もあるし、珍しい野性動物も生息している、王家管轄の保護区域だ。
高い城壁を越えて、王城から脱出した俺は、半刻程森の中を歩いていたが、少し開けた場所で立ち止まった。
「出てこい」
涼しい風が髪を遊んでいく。木が音をたてて、揺れた。木の葉が数枚散って、俺の視界を隠す。
すると次の瞬間には、俺の目の前に黒ずくめの服を着た男が佇んでいた。
年は二十代半ば位だろう。すぐに忘れてしまいそうな平凡な顔立ちの青年。
自身の黒髪の上に鳥を乗せていなければ、だが。
予想外の登場に、俺は彼を見たまま固まっていると、彼の黒眼は俺を真っ直ぐに見返した。
暫しの沈黙がその場に降りる。
遠い場所で鳥が鳴く声が響き、青年の頭上の鳥は応えるように飛び立っていく。
その数秒後、青年はゆっくりと淡々としたテノールの声を出した。
「新技、木の葉隠れです。相手の視界を木の葉で奪うんですよ。どうですか、王子」
「は……?」
呆気に取られて更にポカンとする俺に、彼は真顔で続けた。
「最近よく鳥に停まられるんですよ。私も隠密の腕を上げました」
もう出会ってから十年以上の仲になるが、未だによく分からない。
でも何となく彼が求めてる事が分かって、俺は思わず半眼になった。
「…………もしかして、突っ込みを待ってた?」
「当たり前じゃないですか」
「分かりにくいよ!」
声を上げると、男は「あ」と黒曜石みたいな黒眼を瞬かせた。
「やっと突っ込みましたね」
「もうお前、分からないんだけど……」
ぐったりと疲れきって肩を落とす俺に、男は淡々と事実を告げた。
「ストレスが溜まっているのでは、と。最近頻繁にピアスを触ってると部下から報告が上がったので」
執務室にいたら、突然天井裏にこの男の気配がしたので、何事かと思ったら、そんな事だったのか。
彼に言われて、左耳に手をやる。
気付かなかったけど、報告される程そんなに触っていただろうか?
「王子がそのピアスを触る時は、大抵怒っているか、悲しんでいる時ですから」
雫型のそれを一撫でして、手を下ろす。
この男に自身の感情の起伏を気付かれていないとは、俺も思っていない。
一番古い部下であるアンクは、それだけ長い間僕に仕えてくれている。
そして、俺に感情のコントロールを教え込んだのも、この男だから。
「相当精神的にキテますね。無理しすぎですよ、王子」
俺は黙り込む。図星だったから、何も言い返せなかった。
その前にこの男の前では、何言っても上手く取り繕えない気がした。
アンクは俺の隣に音もなく腰を下ろして、胡座をかく。
「王子、辛かったら少し休憩しても良いんですよ」
「いや、大丈夫だよ。俺は」
首を振る。彼はほんの少しだけ唇をつり上げて、俺を見上げた。
「大嫌いなこの国を好きになるまで、俺は立ち止まらない――でしたね。素が出てますよ」
相変わらず口調は淡々としていたけれど、指摘されて口元を押さえた俺に、アンクは纏う雰囲気を冷たいものから柔らかいものに変えた。
「全く……王子がまるで1週間便秘で苦しんでいるような顔をしていると、部下が深刻そうに報告してきたので何事かと思って、慌てて任務を切り上げてきたんですよ」
「……報告した部下は誰だ?」
そう聞きつつ、薄茶色のロン毛の男の姿がチラついた。
ちゃんと仕事しているのか不安な奴だが。
「まあ、でも便秘より酷くなさそうで良かったです。どちらかというと、姫が作った炭化した菓子を食べた時のような顔してました。せっかく買ってきた超強力と評判の下剤も、必要無さそうですね」
懐からドロリとした緑の液体が入った小瓶を取り出したアンクに、俺は自分の顔が引きつるのを感じた。
「お前達って俺の事何だと思ってるの……?」
「やだな。可愛いお茶目じゃないですか」
「どこが?!」
額に手を当て、深々と溜め息をついた俺に、アンクは白い紙束を差し出した。
「……これは?」
「これまで調べた事です。中間報告になりますが、大体王子の睨んだ通りですよ」
とりあえず一番上にあったものを読んでいくと、1つの国の名前が上がっていた。
「はあ、やっぱりバイゼン皇国か……」
「ええ。バイゼン皇国、別名、砂漠の永世中立国。我がベルンハルトの西に位置する国です。軍事に力を入れ、今ではリーゼンバイスやベルンハルトを凌ぐ勢いですね。砂漠が国土の半分を占める為、環境に恵まれていない分他国の肥沃な大地を狙って侵略しようとした歴史は何度もあります」
「リーゼンバイスは温厚だけど、バイゼンは狡猾で有名……。我が国は、敵を作りすぎたね」
「王子のせいではないですよ」
「うん。でも、俺が救えていた命だってあったんだ」
ただ、ほんの少し、気付くのが遅かった。動きが、後手に回ってた。
「それは、私だって同じです」
忘れられそうもない。
俺の手で殺した人が最後に見せた憎しみに満ちた微笑みは、きっと俺達の最悪な結末を予想していたのだろう。
実際にもう既に最悪だ。
それでも俺は、“約束”したんだ。
きっと俺の目指す目標は、約束の向こう側にある。
「それはそうと、王子。こんな所に呼び出した理由は何ですか。はっ、まさか告白ですか。いやん、気持ちは嬉しいですが、男は専門外です」
「お前……大根役者も度が過ぎるよ……」
真顔と抑揚のない口調だから、台詞丸読みしている感じになっている。本当、感情が読めない。
「嘘ですよ。書類仕事ばかりで肩凝りが激しいんでしょう?ちょっと遊びますか?」
どこから取り出したのか分からない程の早業で、アンクは両手に短剣を構える。
俺も腰に下げていた長剣を鞘ごと外し、懐から短剣2本を取り出した。
俺とアンクの得意な戦闘スタイルは、同じ。
小さい頃、俺の遊びは戦闘訓練そのものだった。
王妃様以外、俺は暗部の人間に囲まれていたので、自然と裏家業の常識を一般常識と捉えている節があった。後にそれに気付いた王妃様に軌道修正されたけど。
「王子、私に手加減は不要ですよ」
「当たり前だよ!むしろ俺がしてもらうべきだよね!」
「だいぶ調子戻りましたね」
あまりにもいきなり過ぎて、虚をつかれた。俺の武芸の師匠であり、一番の部下であるアンクは、ニヤリと歪な三日月形に口を歪ませて続ける。
「私は王子の目標と大切なものを守る為に存在する剣です。私達は姫のように貴方に寄り添う事は出来ないし、守る盾にも、攻める矛にもなれない。
しかし、貴方が望むのなら、どんな願いも全力で叶えましょう。
――私達は常に貴方の為に。それをお忘れ無きよう」
どうして、アンクも、彼女も、俺が一番欲しい言葉をくれるのだろうか。
俺の成している事をずっと知っていてくれる人がいる。俺の目指す目標を共に追い掛けてくれる人がいる。
俺はきっと、恵まれてる。
だから、俺は彼女もお前達も大切なんだ。
「うん」
参った。彼女は此処に居ないのに、泣きそうだ。
「じゃあ、始めますよ」
「え?!ちょ、いきなり?!」
予期なく襲い掛かってきた部下に驚きながら、俺も足を踏み込んで、応戦するために短剣を構えた。
◇◆◇◆◇◆
アンクと戦やり合って疲労困憊だが、どこかスッキリした気分になった。結果は惨敗だったけど。
1つも攻撃が当たらなかった。アンクは強すぎる。
執務室へ戻った俺を待ち構えていたのは、我が国の外務大臣、メーラー侯爵だった。
「殿下、フリードリヒ殿下が城下を散策したいと仰っているのですが……」
「フリードが?」
「はい」
王城に缶詰めにされていてはフリードも息が詰まるだろう。その気持ちは分かる。
だが、この王国で問題は起きてほしくないし、起こされたくない。
まだ、この王国の上層部は安定していないのだから。
「分かった……。ただし、フリードの動向をきっちり見ておいて、と騎士団に伝えて欲しい。フリードが危ない事しないようにとも」
「かしこまりました」
この時期に送られてきた留学生だ。
しっかりフリードの一挙一動を観察しておかなければならない。
騎士団だけでは安心できないので、忙しそうにしてるが暗部の奴も回して置こう。
メーラー侯爵が去った後、執務室に残っていた1人の文官の方へと向いた。
俺の視線に気付いているのかいないのか、黙々と手の中にある文書を捌いていく姿は、メーラー侯爵が寄越しただけあって速い。
「お前がアンクにふざけた報告したんだろ?セイドリック」
いかにも女を誑かしそうな甘い容姿をした薄茶色の長い髪の毛を持つ暗部の一員は、効果音が付きそうなウインクをした。
「だって殿下、ずっと思い詰めたような顔してましたから。そんなんだと女の子にモテませんよー?女の子引っ掛けるなら俺みたいにニコニコしておかないと」
「モテなくていい」
「殿下が死ぬと俺まで死ななきゃいけないんですよ?後生ですから女の子引っ掛けてベットインしまくれてついでに情報収集出来るこの天職から離れたくないんでどうか生きていてください俺は世界中の女の子を口説き落としたい」
「本音はそれか!」
半ば呆れつつ、手のひらを合わせて懇願する通常通りのセイドリックを見て溜め息をつく。
なんだかんだ分かりにくいけれど、セイドリックも俺の事を心配してくれているんだなと長年の付き合いからそう感じた。
気持ち的にはあと少しなんですけど、遅筆すぎて……それにあんまり駆け足になってしまうと強引感が出てしまうし進具合が遅すぎるのもなんだかなあと悩んでしまってます……。もうちょっと早くお話進めたい。けど、伏線……。
書くのって難しい……;;
10月いっぱいで完結目指してます。
次はお出かけ。




