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壊れた物語  作者: 松明
9/14

         ○


 時間ちょうどに山口はやってきた。場所は大学の北口近くの、学生向け居酒屋だ。山口が出した条件は三つ。酒を奢ること、嘘を吐いてもいいこと。

に、男の先輩に酒を奢るというのもどうかと思ったけれど、酒を入れると話すべきでないことも話すと聞いていたので、ちょうどいいのかもしれないとも思った。

「悪いね、下の女の子に金出させて」聞いた通りの赤いTシャツに、紺のジーンズを履いた彼は、軽く笑いながら言って席に着いた。少し太めのチェーンにリングがかけられたネックレスが、少し揺れる。髪は一応セットしているようだが適当で、気を使っているのかいないのか、分からない。狭い個室に、二人で向かい合う格好だった。

「いえ……。こちらがお願いしたことですから」

 そう言うと、「ん」と短く言って、メニュー表を取った。本当は、嗅ぎまわられたのだからこれぐらい当然、とでも思っているのかもしれない。

 酒を一杯ずつと軽い食事を頼んだ。山口はビールを、わたしはカクテルを選んだ。

 学生向けの居酒屋にしては内装に凝っている、暗めの店内。少人数向けのため、店内は比較的静かだった。わたしに、何人ぐらいに聞いて回ったのかを訊いた彼に、二十人だと答えた。彼は少し驚いたように笑って「ふぇー、お疲れさん」と、嘲るように労った。彼が例えば誰に聞いたのかを訊いて、それを答えているうちに酒はきた。

「三杯飲んでから話す」やって来たビールを手に取り、それを見ながら言った彼は、続けて「乾杯」と言って、わたしにグラスを向けた。わたしも「乾杯です」と、グラスを合わせた。

 キンッ。

 それから山口が三杯目を飲むまでは、事件と関係のない話しを続けた。身長が一八五センチだということ、キックボクシングは五年目だということ、もう今は、何のサークルにも部活にも入っていないことが、新しくわかったことだ。十五分ほどで山口は三杯目を飲み乾した。わたしは二杯目の途中だった。彼が頼んだ三杯は、すべてビールだった。

 店員を呼ぶボタンを押して、カミカゼを注文した。それから、少し酔ったようにも見える彼は大きなゲップをして、突然黙った。

 少しして酒を持ってきた店員に「ありがとうございます」と声をかけ、一口飲むと、

「じゃあ、いいよ」と言って、グラスを置いた。



「あなたにとって、恋とはなんですか?」山口は面食らったような顔をした。舌に興が乗るように、と思って用意した質問だったのだが、予想以上の反応だった。

「……それは、どういう意図の質問なの?」

「いえ、色々な面を見せてもらいたいと思っての質問です」恋愛が人の大きな部分を占めることは多いと思うので、と付け加えた。

 彼は少し考えるように黙ったが、少しすると口を開いた。

君が人に興味があるというのはわかる、と前置いて語りだす。

「だけど、君は俺を、人を馬鹿にしているんじゃないか?」

「君には知りたいことがあるんだろう。だけど、君が知りたい質問を投げかける、君の前の俺には、俺の感情があり激情もある」

「まぁ、答えてあげるがね。今回の件と深く関わっていて、知らずに本質はつかめない。これは、いい質問と言うべきだろう」彼は、尊大そうだ。

「俺にとっては、初恋以外は恋じゃない。初恋を叶えられなかった男は、初恋の彼女と似た女を求めて、恋をするものだと思っている」彼は、話している間も時折グラスを口にやり、

「俺にとってはSが初恋であって、Sだけが俺の恋なんだ」

「まぁ、続けさせてもらおう。その流れで勝手に弘人のことも話すから、そのまま聞いてくれ」なくなると店員を呼んで、同じカクテルを注文していた。


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