追記
夏期休暇中の大学で、何度か山口とすれ違えた。彼は高い身長に加え赤く、大股で胸をぐいと張り、肩を前後させて大きく歩くので、毎回すぐに気付けた。
わたしはその度にいくつか質問をして、彼はそれに答えたり、答えなかったりした。彼かわたしが冗談を言うと、ひゃはははは! と、周りが振り向くほど大きな声で笑った。それは少し、恥ずかしかった。
川野弘人がなぜ彼に執着するのかを聞くと、「自虐ネタばかりやる、イジラレる俺を下に見てたんだろう。その下であるはずの人間が自分を見下してるのが、認められないんだろ」と答え、川野との共通点を聞いたときは「自己愛が強すぎるところと空気が読めないとこ。それから、痛々しいところ」と答えた。真面目に答えもしたが、あいつ俺に惚れてんじゃねぇの? なんて冗談を言ってまた、ひゃははは! と笑ったりもした。
日の下で見る彼の目元には、深い隈が見えた。きっと、関羽のように尊大に歩き、張飛のように大声で笑う彼の精神は、荀彧のように脆いのだ。
川野が死ぬかもしれないとわかっていて殴ったのかを聞くと、俺はそんなに機転が利きそうに見えるんか? と言って、苦笑いした。
川野弘人は、すでに帰国している。明日はついに、川野に話しを聞く日だ。
川野弘人の山口亮太への執着は、どこから来るのだろうか。そして彼は、どんな男なのだろうか。