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「Sのことなんて全く考えとらん、おいの自己完結の自己満足って言うなら、言えばよか。ただ、おいが思う気持ちだけは、おいのもんやし」
今更恥ずかしくなったのか、山口は、さらに恥ずかしくなるような言い訳をして、グラスを一気に乾かした。ボタンを押して、また「カミカゼ」と注文した。
この話題は終わりだと言うように、氷を一つ口に入れ、ガリガリと噛んでいた。
少しの間、二人とも黙って酒を飲んだ。
二杯ほど飲んでから山口は、川野が山口の罪状などをA4用紙にまとめて教授に提出していたことや、川野が使っていた研究室のパソコンの検索履歴に、学科の女子の数人の名前と出身地が残っていたことを話した。自分はそれも、学科のやつに知られないようにしてやったと言って、優しかやろ? ひゃははは、と笑った。
「その、Sさんと連絡を取ろうとしていたことを知るまでの、二人の関係はどうだったんでしょうか?」と訊くと、
「おいは、話しても面白くなかやつとしか思っとらんやった。あいはその前からニヤついておいを貶すことばずっと言いよったけん、嫌いやったんじゃ?」と、頭をかいて答えた。
それからわたしが質問して、山口が答えるというのが続いた。しかし途中で山口は「煙草吸ってくる」と言って席を離れ、そのまま戻って来なかった。三十分ほど待つと、二時間の飲み放題の終わりを告げに来た店員が、「お連れ様から、時間になったら渡すよう言われました」と、千円札を一枚わたしに向けた。
それを受け取って会計をして、わたしも店を出た。席を離れる前に、彼のグラスに少しだけ残ったカミカゼを一口飲んでみた。飲んだことのないお酒に、興味がわいたのだ。それは融けた氷で薄まって、美味しくはなかった。