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you may crawl-2

■you may crawl-3


非情なマッチメイカーに従って、校内タイトルマッチを行ってから2週間ほどたって、変わった事がいくつかある。まずは、いいこと。どういうわけか、俺にフォロー申請してくる人が増えた。それはまあ、あれだけの大立ち回りをしていれば、仕方のない事かもしれないけれど、ちょっと意外だった。最初はクラスの大多数の人達だった。それまで俺の事をみ向きもしなかった人達。あとは、同学年に後輩たち。そして、友達の友達。なんだかんだでフォロワーは今300人ほどになっている。現在の俺のアセットは2,050万ギルほどになっていた。山岸玲子は「まぁそんなもんだ」と笑っていた。

あと、もう一つ。これはあまり良くない事だ。周りの人間がやたらと仁科一派の悪口や興味もない行動報告をしてくるところ。フェイスマッシュ上での謝罪動画はそれなりの反響だったらしく、仁科達は1週間ほど出席停止にされていた。そして、1週間ぶりに仁科一派が登校してみると、彼らの威信は地に墜ちていた。山岸玲子に言わせると、それも「まぁそんなもん」なんだそうだ。

学校の授業は相変わらず退屈だ。だけど、もっと退屈なのは「務め」だ。

「なぁ、大友、仁科ってウザくねぇ?」

つい数週間ほど前まで仁科の事を「ツレ」と呼んでいた平野が言う。

「まぁ……ウザいよね」

「こないだもさ、昼飯食ってるところでうろちょろしてさ。お前なんか誰が相手にするんだって。なぁ、今日の放課後、呼び出してシメちゃおうぜ」

「あ、ごめん。今日はバイトなんだ。苦学生なんでね」

半分は本当で、半分は嘘だ。コンビニのバイトは夜7時から。放課後はたっぷり時間があるから映画研究会に行くつもりだ。期末テストに向けて最後の追い込みのつもりだ。

「あ、そうか。じゃあさ、今度カラオケ行こうぜ。みんなお前と遊びたいって」

「考えとくよ」

不服そうな逸見。

「いや、バイトのシフト入るかもしれないからさ。多分大丈夫だと思うけど、予定わかったら連絡するよ」

「ほんとか?頼むよ。坂口さんや山田さんたちも呼ぶからさ」

別に会いたくはないんだけど、という言葉を飲み込んで、俺は「務め」を果たした。

「そりゃー楽しみだな。わかったよ。」

おれのこころは、こもっていない。期末テスト前最後の日曜日。カラオケに集まったのは、俺と平野、山田、坂口さん、そして名前も知らない同級生数人。H.S.E.Cの関係者だろうか。

「大友君!来てくれてありがとう」

坂口さんが満面の笑顔で迎えてきた。山田も笑顔で俺を迎える。ほんの数週間前まで、俺のことを汚物か何かとしか認識していなかった人間からこんなにも笑顔で迎えられると、俺はまた何かしでかしてしまったかと思ってしまう。

「さ、みんなもう来てるわよ」

個室までの道すがら、坂口は俺に囁きかける。

「ねぇ、大友君。よかったら、今度「セブンス」のサークルに参加しない?」

「どうして俺が」

「実は、夏休み中に何人か欠員ができちゃって。クラスをまとめるには、やっぱり7人いないと困るから」

逸見と後藤の事か。

「でも、俺は後藤君ともケンカしてしまったし、クラスのリーダーになんかなれないよ。俺なんかほら、いまだに一言も話していないクラスメイトが何人もいるんだから」

そういって、おどけてみても坂口さんは真剣だ。

「まぁ、すぐにって話ではないから、そのうち考えておいて」

「第一、仁科は俺なんか入ったら怒るんじゃないかな?」

苦し紛れに言った一言。

「うん、大丈夫なの。それは」

どういう意味だ、それ。だが、問いかけるには時間がなさすぎた。カラオケボックスの個室のドアが開いた。坂口さんはまた別の顔を見せる。坂口さんは今度、フェイスマッシュ上の有名アカウントと一緒にやるというプロジェクトの話を熱っぽく始めた。

「フェイスマッシュ上の各人のタイムラインを政治運動につなげていこうっていう社会的なものなの。これを使えば、タイムライン上での何気ないつぶやきが、そのまま社会を変える発言にする事ができるの。今、私、アシュクロフトさんっていう有名アカウントと一緒にそれを具体化するシステムを作る手伝いをしているの」

正直ピンと来ない、という顔をした参加者をしり目に坂口さんの熱弁は止まらない。

「みんな、もし趣旨に賛同してくれるんだったら少しだけでいい、アセットを援助してくれないかしら」

半信半疑といった顔のメンバー達。

「俺は賛同するぜ」

真っ先に言ったのは平野だった。その言葉が合図のように、他のメンバーも雪崩を打って坂口に賛同する。でも、政治運動って一体なんだ?そんな疑問は全力で放置され、不快なイントロが響いた。「配信の女王」とかいわれている女性歌手の歌だ。山田が、会いたくて、震えている。逸見達はビールを飲んでいる。俺は、カラオケの端末を操作して、ミスター・ディスコの名前を探した。「収録曲40万曲!」と表示されたテロップが痛々しい。さ来週の月曜日からは期末テスト。多分、明日からは皆テストモードに入るはずだ。だから今日は最後のストレス解消、といったところだろうか。俺にとってはこの場がストレス以外のなにものでもないのだが。

山田さんは相変わらず、会いたくて震えている。俺は、ウーロン茶を飲みながら、ぼんやりと、彼らの歌を聴いていた。山田はまだ会いたくて震えている。もう1時間は震えている。会いたい、会いたい。とっとと「フォロー」でもなんでもしろよ、と心の底から思う。外の空気に当たる。少し肌寒い空気が心地いい。そういえば、もうすぐ10月だ。そりゃ、寒くもなりますわな、と自分で自分にツッコミを入れていた。

駆け寄ってくる影。

影はいきなり、俺にハイキックを浴びせてきた。すんでのところで避ける。山岸だ。

「お勤め、ご苦労さん。」

「山岸……さん」

「あんまり遅いから迎えに来た。あんたの保護者か。私は。期末テストまであまり間がないんだからとっとと帰ってこいよ」

「そうか。もうこんな時間か。じゃあ、帰ろう」

「うん」

二人で自転車に乗って家に帰る。秋の夜の風が気持ちがいい。

「最近、調子いいじゃないか。」

山岸玲子が言う。

「なんだか、勝手にフォロワーが増えていくし、変な感じだよ」

「そんなもんだよ。「フォロー」されるかどうかっていうのは、あんたの評判だからな。そして、評判なんてものはどうでもいいことですぐに変化する。」

「だけど、フォロワーの皆さんが俺に仁科の悪口を言ってくるのは何とかしてほしい。興味ないし」

そう。今の俺のタイムラインには仁科がどこに行ったとか、何したとか、そんな情報ばかりだ。

「そういうもんだ。ちゃんと「務め」を果たさないと次はお前の番だぞ」

「「務め」って?」

「そのうちわかる。だけど、あの有象無象だって、別にお前の事を心の底から憎んでたわけじゃないってことだ」

よく理解できない俺を察したのか、山岸は別の話題を始めた。

「もうすぐ期末テストだけど、どう?」

「どうって、相変わらず勉強してるよ」

「だったらいいんだけど。期末テストの上位に入らないと付き合ってあげないから」

「別に付き合わなくていいよ」

「何言ってんのよ、せっかく私がつきあってやるっていってるのに」

「付き合いたくもないのに付き合ってくれなくてもいいよ」

「なんだか、言うようになったわね」

山岸は少しだけ嬉しそうだった。


■you may crawl-4


目の前で、何が起こっているか、全く理解できない。俺は、信じ難かった。きっかけは、フェイスマッシュ上の平野のいつもの悪口だった。俺に向けて【なぁ、今日の2時間目も仁科がまた女相手にカッコつけてしゃべってて正直キモかったわ】とツイートする平野。いつものおつとめご苦労様です。ただ、1つだけ違ったのは、平野はそれを、非公開ではなく公開ツイートとしてタイムライン上に表示させてしまったことだ。このツイートは当然、仁科の知るところにもなる。

「おい、平野、これどういう事だ」

フェイスマッシュの画面を見せられた平野は開き直るしかなかった。

「今までずっと思ってたことを改めてツイートしただけだよ」

「あ、お前、何調子乗ってんだよ」

「お前には関係ねぇだろ。それともまた竹刀でも使って殴るか?竹刀のくせに素手の相手に負けてダサすぎだろ」

「てめぇ、調子に乗りやがって。お前なんか素手で十分だよ」

つい数週間前には絶対に考えられない組み合わせの言い争い。興味深いマッチメイクに、ギャラリーたちが集まってくる。周りを見渡すと、おろおろして止めに入ろうとするクラスメイトたちをしり目に、山岸はわれ関せずといった体で自分のブックを操作していた。そして、坂口さん。彼女は何を考えているんだろう。

「ちょっと、2人とも止めてよ!ケンカしないで」

「美樹、俺だってこんなことしたくないよ。だけど、平野が調子に乗ってるから、思い知らせてあげないと」

平野は笑っている。

「仁科君、あなたみたいに粗暴な人をこのまま「セブンス」にいれておくわけにはいかないわね。仁科貴志、私は管理者としてあなたを「セブンス」から強制退会させる事にします」

仁科は自分が置かれている状況をいまだ把握できてないようだ。「おい、美樹、どういう事だ」というのがやっとの仁科。仁科の問いかけを坂口さんは無視している。そして、平野からとどめの一言が発せられた。

「あ、俺な「フォロー」はずしといたから。前から思ってたんだけど、お前、生意気なんだよ」

その一言を合図に「俺も」「俺も」の連鎖が教室中に響き渡る。仁科は呆然として動く気力すらなくしてしまったようだった。仁科にかろうじてできたのは、平野に殴りかかる事だけだった。今、まさに仁科の振りかぶった拳が平野に直撃しようとしたその瞬間。

一閃。

山岸玲子の蹴りが、仁科貴志の顔面を捉えていた。美しい足が仁科の顔に思いっきりめり込む。そして、その体は、2メートルは後ろの吹っ飛んで行った。一連の動作のあまりの美しさに、まるで、スローモーションを見ているようだった。

「うるさいわね、有象無象」

そう言って山岸は自分の世界へと戻って行った。


放課後の屋上。9月とはいえ、まだ外の日差しは厳しい。

「坂口さん、あれはどういうこと?」

「どう、って?」

「もしかして、ああなることを坂口さんは知っていたんじゃないの?」

「知らなかったわ。ところで、「セブンス」の件、考えてくれた?」

「ごめん、やっぱり俺には「セブンス」なんて無理だよ。もっとふさわしい人がいると思うけど」

「残念ね。大友君だったら大丈夫だと思うけど」

あっさりと認める坂口さん。だけど、その顔は能面のようだった。

「ねぇ、大友君。仁科はこのクラスの何を支配していたと思う?」

「支配?よくわからないよ」

「彼が支配していたのはこのクラスの「空気」。だけど、「空気」なんてものは一つの発言、一つの行動で簡単に変わってしまうものなのよ。でも、彼がそれを支配して、あのクラスの「王様」になっていたのは事実。だから、彼がいなくなったら新しい「王様」を見つけなければいけないわ。ねぇ、大友君。本当にやる気ない?」

「ごめん」

「わかった。じゃあ、もう頼まない。他の方法でなんとかするわ」

そう言って、坂口さんは屋上から出て行った。一体、どうするつもりなんだろうか。

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