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ギフト  作者: 貴水 玲
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【後編】

 目をさました時、シャーリーはベッドの上にいました。


 緑色の目をした女の子が、シャーリーをのぞきこんで笑いました。


「だいじょうぶ? モグラさん。はい、お水よ」


 急にのどのかわきがよみがえり、シャーリーは一気に水を飲み干しました。つめたくておいしい水でした。三杯飲み干して、シャーリーは女の子に尋ねました。


「ここは?」


「ケルンの村よ。あなた森の中で倒れてたの。お父さんが見つけたのよ。いったいどうしたの?」


 シャーリーは今までのいきさつを話しました。


 でも女の子は笑って信じてくれません。何か言い返したかったのですが、空腹すぎて怒る気力がありませんでした。


 それに気付いて女の子はあたたかいスープを持ってきてくれました。きらいな野菜がたくさん入っていましたが、シャーリーは夢中で全部たいらげました。


「ねえモグラさん、帰れなくなったならここにいたら?」


 女の子が言いました。シャーリーは驚きました。


「……僕がこわくないの?」


「どうして?」女の子が首をかしげます。


「モグラさんがいる場所はいい土地なんだって。だからみんな喜ぶわ」


 それを聞いてシャーリーはほっとしました。

 ほんとうに、心の底からほっとしたのでした。





 女の子はミルカという名前でした。

 ミルカとミルカの家族のおかげでシャーリーは元気になりました。



 ケルンは森の中を切り開いてつくられた、水と緑の豊かな小さな村でした。

 村には大きな水車があり、いくつもの小川が流れていました。畑がたくさんあり、そこでは作物がいきいきと育っています。


 シャーリーを見て村人たちは「こんにちは」「やあ」と明るく声をかけてくれました。

 シャーリーは“いのちのしずく”を知らないかと聞いてみましたが、誰も知らないようでした。ついでに本当は王子なんだと言ってみましたが、「へえ、そうかい」とみんな笑うだけでした。


 シャーリーは悲しくなりました。


 このままもとの姿に戻れなかったらどうしよう。


 そもそも“いのちのしずく”が何なのかすら知らないのです。何かの水かと思い井戸の水や川の水を飲んではみましたが、なんの変化もありませんでした。


「もしかしたら新しい井戸のお水かもしれないよ!」


 落ち込んでいるシャーリーにミルカが言いました。もうすぐ今の井戸が枯れてしまうから、村の男の人たちが新しい井戸を掘っているというのです。


 ミルカはシャーリーを新しい井戸の場所に連れて行ってくれました。そこでは村の男の人たちが、汗を流しどろだらけになって穴を掘っていました。


「水がほしいなら一緒に穴を掘るんだな。モグラなら穴掘りは得意だろう」


「どうして僕がそんなことするんだ? そんなの召使の仕事だ」


「召使だって? 自分で使うものは自分で作るんだ。それが当たり前なんだよ」


 体にロープを巻きつけられて、シャーリーは穴の中へ降ろされました。穴の中は暗くてじめじめとして不気味でした。シャーリーはこわごわ土を掘ろうとしましたが、


「うわあ! 手が汚れた! 気持ち悪い!」


 そう言って逃げようとします。男たちはそれを見て大笑いしました。


「なんだ、モグラのくせに土がこわいのか! 役立たずだなあ」


 ばかにされてシャーリーはとても腹がたちました。でもモグラの姿では言い返しようがありません。シャーリーは仕方なく、穴を掘り始めました。

 でもそのうちに掘り方がわかってきて、シャーリーは楽しくなりました。モグラの手はシャベルのような形になっていて、どんどん土をかきだしていけるのです。


「うまいじゃないか、その調子」


 みんなにほめられて、シャーリーはとくいになりました。

 そうして井戸掘りに夢中になっていると、ミルカのお母さんの声がしました。


「お昼にしましょう」


 手を止めて、シャーリーは穴の入り口を見上げました。丸い穴のむこうには、青い青い空が広がっています。


「きれいだなあ」


 シャーリーはまぶしそうに空を見上げました。



 穴から引き上げてもらい、みんなでお弁当を食べました。質素な食事でしたが、おなかがすいていたのでとてもおいしく感じました。

 

 冷たい水がのどを通り抜けた時、つかれが飛んでいってしまうようなすがすがしい気分にシャーリーはなったのでした。



 それから毎日シャーリーは井戸掘りを手伝うようになりました。一日たつごとにそのうでは上がり、みんなに頼られる穴掘り名人になりました。

 新しい井戸は大変喜ばれました。

 井戸掘りだけでなくシャーリーは畑仕事も習いました。なんでもすぐ覚えて早いので、みんなにとても感謝されました。

 村人たちは感謝のしるしに、村のはずれにシャーリーの家と家具を作ってくれました。それは手作りでいびつでしたが、心のこもったとても住み心地のいい場所になりました。



 シャーリーははじめてみんなに、「ありがとう」と言いました。





 そうして一ヶ月、二ヶ月と楽しい日々は過ぎ、シャーリーは“いのちのしずく”のことなどすっかり忘れてしまっていました。








 ところがシャーリーが村で暮らし始めてもうすぐ三ヶ月という頃、村は水不足におそわれました。前々からの日照り続きで、川の水がすっかり干上がってしまったのです。


 村に流れていた小川も絶え、作物も枯れてしまいました。

 人々が頼れるのは井戸だけでした。しかしその水もいつまでもつかわかりません。

 その間に食べ物も底をつくでしょう。

 遠くの町まで代表者が食料をわけてもらいに行くことになりました。そして残された人々で、また新しい井戸を掘ることになったのです。

 

 焼け付くような日差しの中、シャーリーもみんなと必死にがんばりました。けれど、掘っても掘っても水は出ては来なかったのです。


 四日たっても五日たっても他の町へ行った二人は戻ってはきませんでした。

 やがて井戸の水も枯れ、食べ物も足りなくなり村人は次々に倒れていきます。

 ミルカとミルカの家族も日に日に弱っていきました。


 わずかな水で看病するシャーリーに、弱々しい声でミルカが言いました。


「ずっと東に行けば大きな川があるんだって。モグラさんだけでも行って」


「だめだよ! 置いてはいけないよ」


 シャーリーは掘り続けました。

 空腹とのどのかわきに耐え、水が出なければ場所をかえて朝も昼も夜も。

 

 そのうちに村は穴だらけになりました。


 そう、お城の中庭のように――



 そこで初めて、シャーリーはモグラの気持ちに気付いたのです。


「誰かのために、掘ってたのかもしれない」


 こんな姿の自分にもやさしくしてくれた村人たちの顔が次々に浮かびました。追い出してしまった少女や死刑にした庭師や、たくさんの人たちの顔も。

 きりがないほどたくさんのことをシャーリーは思い出していました。そしてみんなのやさしさに気付こうともしなかったおろかな自分を恥じました。


「ごめんなさい、ごめんなさい」


 血だらけになった手でシャーリーは乾いた土を掘り続けました。手の感覚はもうありませんでした。


「もうわがままなんて言わない。だからどうかみんなを助けて」


 大きな涙のつぶがシャーリーの両目からこぼれて土の上に落ちました。


 すると――みるみるうちにシャーリーの足元から水がわき出してきたのです。



「それが“いのちのしずく”というのですよ、シャーリー」



 どこからか女神の声が聞こえてきました。


「誰かを思う優しい心、それがいのちのしずくなのです」


 水はどんどんわき出して、シャーリーを抱え上げて穴の外へ大きく噴き上がりました。


「水だ! 水だあ!」


 空高く噴き上がった水は村に、森に、遠くの町まで雨のように降り注ぎました。川に豊かな流れが戻り、枯れた作物も生き返りました。


 シャーリーは桶に水を汲んでせっせとみんなのもとに運びました。

 みんな笑顔で「ありがとう、シャーリー」と言ってくれました。



「みごと試練を乗り越えましたね。明日はあなたの十五歳の誕生日です。さあ、お城に帰りましょう」


 女神が現れて微笑みました。それを聞いていたミルカがシャーリーにたずねました。


「モグラさん行ってしまうの? でも探し物が見つかったのね」


 シャーリーは頷きました。



「うん、ずっと気付かなかっただけだったんだ」


「そう。じゃあもうなくしちゃだめだよ」




 空には大きな虹がかかっていました。








 夜明けとともにシャーリーは村を出ました。


 別れがつらいのでみんなにはさよならは言いませんでした。

 のぼる朝日がシャーリーを照らし始めました。両手からゆっくりと、人間の姿に戻っていきます。


「すてきなおくりものをもらいましたね、王子」


 立ち止まって五本の指に戻っていく手をながめていると、女神の声がしました。




 シャーリーが後ろを振り返ると、村の入り口でミルカや村人たちが手を振っていました。





――ああ、ほんとだ。




 シャーリーは笑顔になりました。

 そしてみんなに向かって大きく手を振り、歩き出しました。




 朝の光が、シャーリーの旅立ちをやさしい色に染めていました。


           



私を支えてくれる人たちに感謝の気持ちを込めて書いた童話です。

すこしでも温かい気持ちになっていただけたなら嬉しく思います☆

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