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ギフト  作者: 貴水 玲
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【前編】

 輝くはちみつ色の髪と青空色の瞳を持つ、美しい王子様がいました。



 王子は王様、お妃様だけでなくみんなにかわいがられて育ちました。



 王子も自分が好きでした。自分が一番でした。




 年月をかさねるごとに、それだけが王子にとって大事なことになっていました。









 シャーリー王子の毎日は不満だらけでした。

 まず今日は寝巻きのボタンがひとつはずれていたのが気に入りませんでした。


「おまえは僕に風邪をひかせたいのか!」


 世話役の少女をシャーリーは怒鳴りつけました。


 少女はあやまりましたが、シャーリーは聞きませんでした。そして少女を城から追い出してしまいました。




 朝食の席では、料理が冷めているといってコックに作り直させました。けれど今度は

「まずい」と言いだします。


「王子よ。今この国では雨が降らず、作物を作るのが大変なのだ。我慢しなさい」


 王様やお妃様がしかっても、シャーリーは聞きません。

 結局食事に手をつけないまま、食堂を出て行ってしまいました。





「ああ、腹が立つ!」


 一人怒りながらシャーリーは中庭に向かいました。


 夏も近づき、中庭はまぶしいほどの緑と色とりどりの花々であふれていました。

 自分のように美しい庭がシャーリーはお気に入りでした。

 ですが庭を見てぼう然としました。緑の芝生の上が穴ぼこだらけになっていたのです。庭師の老人がその穴をせっせと一つずつ埋めていました。


「どうしたんだこれは!」


 驚いたシャーリーが叫ぶと、庭師が振り向きました。


「へい。モグラのしわざです。好物のミミズを探して穴を掘ったんですわ」


 シャーリーは両手をふるわせるほど腹をたてました。


「ここは僕の庭だぞ! 今すぐ見つけ出して焼き殺せ!」


 こうして城中の侍女や兵士をかき集めてのモグラ退治が始まりました。


 けれどもあっちの穴、こっちの穴と逃げ回ってすばしこいモグラは捕まりません。みんな頑張りましたが、結局捕まえることなく日が暮れてしまいました。


 シャーリーはこれもお前のせいだと庭師を責め立てました。


「じゃが王子、モグラも必死なんですわ。わしらが作物を得るために土を掘るのと一緒です。そうしないと生きてはいけんのです」


 庭師は王子をさとそうとしましたが、怒りをあおるだけでした。


「うるさい、うるさい! モグラのことなど知るものか! 口答えするのなら、死刑にするぞ!」


 シャーリーは王様に庭師の首をちょん切るように頼みました。

 王様は驚き、それはだめだと言いましたが、シャーリーは一度怒り出すと誰にも止められません。

 王子の機嫌を損ねると死刑になってしまう。

 みんな庭師が悪くないと知っていても、反対することができませんでした。

 王様は仕方なく、庭師の首を切るように命じたのでした。





「ああ……どうしてあの子はあんなにも残酷なことばかりするのでしょうか。心がないのでしょうか。醜い姿でもいい、優しく慈しみ深き心をお与え下さい」



 お妃様は嘆きました。

 そして礼拝堂で神に祈りました。何度も何度も、それは熱心に祈りました。





 その夜。


 シャーリーが寝床につき、意識が夢の世界へと旅立とうとしていた時でした。


「王子」


 ふと呼ばれて、シャーリーは目を開けました。

 ベッドの向こうに、見知らぬ女の人が立っていたのです。

 

 それは美しい女神でした。

 真っ暗な部屋の中で、その人だけが月の光のように淡く輝いていました。


「あなたに試練を与えにきました」


「試練?」


 優しくおだやかな声にうっとりしそうになっていると、女神は手に持っていたステッキをシャーリーに向けました。

 すると突然シャーリーの体が風船のようにふくらみ始めたのです!

 寝巻きのボタンが次々とはじけ飛びました。足も腕もソーセージのように膨らんでいきます。


「うわあああ〜!」


 シャーリーはベッドから転がり落ち、大声をあげて部屋中を走り回りました。そして鏡に映った自分の姿に気付いたのです。


 それは足の短い、両手には大きなつめがついた、けむくじゃらのけものでした。


「な、なんだこいつは!」


「それがあなたが退治しようとしていたモグラですよ。これからその姿で旅に出なさい。あわれな者たちの気持ちを知り、生まれ変わるのです。三ヶ月後の十五歳の誕生日までに“いのちのしずく”を探しなさい。それがあればもとの姿に戻ることができます。見つからなければ、あなたは一生その姿のままです」


 そう告げると、女神は霧のように消えてしまいました。


「そんな! いやだ、いやだ! こんな醜い姿は! 早くもとに戻して!」


 シャーリーは泣き叫びました。ところがその時、王子の声を聞きつけた兵士たちが部屋に駆け込んできたのです。


「うわあ! ばけものだ!」


 シャーリーを見て、兵士たちは武器を構えました。


「中庭を荒らしたモグラの一味だな!」。


「違うよ! 僕だよ、シャーリーだ」


 そううったえますが、誰も聞く耳を持ってはくれません。


「つかまえて殺せ! 火を持ってこい!」


 恐怖に弾かれて、シャーリーは逃げ出しました。短い足で走るのはとても大変なことでしたが、必死に必死に逃げました。

 あちこちから兵士がたくさん出てきてシャーリーを追いかけます。


 みんなが自分を殺そうとしている! 信じられませんでした。


 城を飛び出し追っ手がいなくなるまでシャーリーは走り続け、やっとのことで町から離れた森の入り口まで逃げのびました。


「どうして僕がこんな目に」


 遠くなったお城が涙でにじみました。こんな姿ではもう帰ることはできません。戻れば殺されてしまうでしょう。

 シャーリーは“いのちのしずく”を探さねばなりませんでした。でもつかれはてて、入り口の木の下で眠ってしまいました。



 翌朝、目を覚ましたシャーリーは森の中を歩き始めました。

 おなかもすき、のどもからからでした。けれど食べ物も水もありません。太陽が高くなっても沈んでもシャーリーは歩くしかありませんでした。

 しかし二日間歩き続けても森はいよいよ深まるばかり。


 シャーリーはついに力つきて倒れてしまいました。




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