表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】薬師の冷遇妻が解く、公爵家の秘密 〜放置した旦那様が溺愛に変わるまで〜  作者: 木風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/6

第三話

それからというもの、颯介は時折澄乃の部屋を訪ねてくるようになった。


最初は頭痛の薬のためであった。

しかし次第に、薬の話から、澄乃の実家の話へ、母雪江の病気の話へ、薬の効用についての話へと、会話は少しずつ広がっていった。


澄乃はそれが嬉しかった。

孤独に慣れていた分、誰かが自分の言葉に耳を傾けてくれることが、じんわりと温かかった。


颯介は澄乃が思っていたよりも、知識欲のある人間であった。

澄乃が薬の話をすると、興味深そうに聞き、質問をしてくる。


「それはどういう仕組みで効くのか」

「成分は何か」

「西洋医学とはどう違うのか」


——彼の質問は的確で、澄乃はそれに答えるために自分も改めて考える必要があった。

ある日の夜、颯介が言った。


「お前は、この家に来て不満はないか」


突然の問いに、澄乃は少し戸惑った。


「……いきなりでございますね」

「聞きたかった。ずっと」


澄乃はしばらく考えた。


「不満というよりは、戸惑いがありました。最初は」

「今は」

「今も、この家での自分の場所がどこなのかは、まだよくわかりません。でも、居心地が悪いとは思っていません。お庭が美しいし、書物も豊富です。使用人の方々も親切にしてくださっています」


颯介は澄乃を見た。

その目には何かが宿っていた。後悔とも、痛みとも取れる表情。


「すまなかった」

「何がでしょう」

「……色々と」


颯介は短くそう言って、視線を庭の方へ向けた。

澄乃は何も問わなかった。問わなくても、何のことかはわかっていた。


「静花は、ああいう子なのだ。幼い頃から体が弱く、それが不安の元になっていた。私が離れると泣き止まない時期が長くて……ああいう習慣が抜けないままでいる」

「存じております」

「お前には、本当に苦労をかけた」

「旦那様も、ご苦労が多いのだと思います」


颯介はかすかに息を吐くと、苦笑ともため息ともつかない、静かな表情。


「……ありがとう」


そう言った颯介の声は、澄乃がこれまで聞いたことのない、柔らかなものだった。


秋になった。

颯介は以前に比べて、澄乃のいる部屋に来る回数が増えていた。

頭痛の薬だけでなく、話をしに来ることもある。

書斎で書類を広げながら、澄乃に薬の本を持ってきてもらうこともあった。


ある夕暮れ、颯介は庭で澄乃と並んで座っていた。

縁側に二人、茶を飲みながら。


「お前の母上は、今どんな具合だ」

「最近、少し落ち着いているようです。先月、新しい薬を調合して実家に送ったところ、父から良い知らせが届きました」

「そうか。手紙に書いていたな、先日。母上のことを心配していると」


澄乃は少し驚いた。


「お読みになっていたのですか」

「妻の手紙だ、気にもなる」


言ってから、颯介はわずかに視線をそらすと、澄乃も前を向いた。夕空が橙色に染まっていた。


「旦那様は、いつもこのお庭をご覧になりますか」

「昔はよく見ていた。今は忙しくて、なかなか」

「このお庭の梅は、春にとても美しゅうございますね」

「……気に入ってくれたか」

「はい」


颯介はそれを聞いて、また前を向いた。

その横顔は穏やかだった。以前の、近づきがたい硬さはなかった。


「来春は、一緒に見よう」


澄乃は颯介の横顔を見た。

颯介は庭を見たまま、しかしその言葉は確かに澄乃に向けられていた。


「……はい」


声が少し揺れた。

颯介は気づいたかもしれないけど、何も言わなかった。

ただ、二人は並んで夕暮れを見ていた。

ブックマーク、★★★★★、リアクション

よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ