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第一ピリオド前編 【杉下視点】

ものすごくややこしくなりました。

作者の力量不足です。すいません。

 ゲーム会場。11日目。6時。


「……それでは、“変則神経衰弱”第一ピリオドを行う」

 青白いホログラムで構成されたアケルナルは、高らかに言い放った。

 モノトーンの壁に囲まれ、プレイヤー達が一同を返していた。

 

 

 1番 岸本睡蓮

 2番 奥村守

 3番 永瀬杏

 4番 小田切雫

 5番 杉下和馬

 6番 萩原結城

 7番 桜木鼓太郎


 この七人のメンバーで非ゼロサムゲームを繰り広げるわけだ。

 


「まず、このゲームの中核を担うであろう“親決め”からだ。親決めはこの機械で行うぜ。親になってもらいたいプレイヤーの名前をタッチすれば、投票したことになる。これを1番の岸本から順に2番の奥村、3番の永瀬へと潤に投票してもらう。ここまでに何か質問は?」

 アケルナルは芝居がかった動きで辺りを見渡した。

 無言。

「……質問がないなら先に進める……では、1番の岸本。投票を」

 アケルナルが岸本に視線を向けた。呼応する様に椅子から立ち上がる。そのままゲーム会場の隅にある妙な機械へと歩む。

 遠ざかる足音。投票用の機械は俺の背中越しにあるので、岸本の投票を覗き見ることはできない。かといって後ろに振り向いていい雰囲気でもない。ほとんどのプレイヤーは油断なくみんなの動向を窺っており、互いが互いを牽制している感じだ。そんな空気の中で、下手に岸本の投票を見おうものなら、無言のブーイングを浴びせかけられるだろう。それに、岸本が誰かに投票するかを知ったところで、何かしらの解決策が生まれる訳はないし、普通に考えれば十中八九自分に投票する事は分かり切っている。


 なぜなら、岸本の順番は1番だからだ。

 もし岸本が親になった時を考えてほしい。

 その場合、岸本は自分の携帯に送られたアルファベットを声明するだろう。そして岸本は一番初めにカード指名の権利を有している。

 これによって発生する事態。

 それは誰にも邪魔されることなく、確実に一ポイントを取ることができる。

 故に岸本は自分に投票するのが最も合理的かつ効率的な選択であるといえる。

 ただそれよりも重要なのは、この事をプレイヤー全員が理解しているということだ。


 端的に言えばこの第一ピリオド、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ピッと言う気の抜けた機械音。どうやら親決め投票は終わったらしく、岸本がなに食わぬ顔ですたすたと元いた椅子に着席した。

 

「次は奥村だな。投票を」


 ずれた眼鏡を整えながら、奥村は立ち上がった。岸本と同じように投票へと向かう――――。


「次は杉下だ。投票を」

 奥村と永瀬、小田切が投票を終え、次は俺の番となった。

 小刻みに震える両足に喝を入れ、腹式呼吸の要領で起立。無言のみんなを尻目に、例の機械に向かう。

 無機質に投影された七人全員のフルネーム。勿論の俺の名前もある。

 後ろから憂鬱な圧迫感を感じる。まるで俺を押し潰そうかとする様な重圧だ。しかしその程度のプレッシャーで潰れるわけにもいかない。

 俺にはやらなければならないことがある。


 百合を救う。


 もしかしたらこのゲームの途中で、その奇跡のような方法に巡り合えるかもしれない。今はその可能性に賭けるしかない。そのためにこの馬鹿げたゲームに臨んだのだから。


 暫時の停滞。俺は硬直する人差し指で、()()()()()()()()()()()()()()


 頬に笑みを浮かべながら、5番の椅子に座る。そしてテーブルの上で頬杖をかく桜木を見た。


 ――――おまえのこと、利用させてもらうぞ。


 俺は心の中で小さく笑みを浮かべた。

 俺が考えに考え抜いた必勝法が萌芽した瞬間だった。

 その必勝法。

 ずばり俺のポケットに入っている小型レンズ。こいつに攻略法の真髄が集約されている。 

  

 

 こいつを手に入れたのは、俺が初めてファンの奥にある扉を抜けた時だった。

 前々から桜木と岸本の行動を不審に思っていた俺は、昼間の一二時くらいにこっそりトイレに侵入した。初めはただのトイレじゃないかと思ったが、床の一部分に不自然に埃が積もっていたことに気付いた。

 ()()()()()()()()()()

 そう思った俺は、通気口の方に視線を向けた。

 奇妙なことにファンのスクリュー部分が取り外された痕跡があったのだ。

 おそらくファンを取り外す過程で、埃が下に落ちたのだろうと推測することは容易だった。

 俺は半信半疑で、スクリューを外しダクト内に進行し――――見つけたのだ。Cブロック以外の空間の存在に。

 前衛的な装飾の施された扉を抜け、認められたのは巨大な円卓だった。

 驚いたことにテーブルには、パン屑らしきものが散在していた。

 これによって俺はとある結論にたどり着いた。


 ――――俺以外の人間がこの空間内にいる。


 俺は今まで気付かなかった恐るべき可能性に興奮し歓喜した。これで百合を救えるかもしれないと。


 そう思った俺は、手始めに目の前にある暗がりの通路に狙いを定めた。

 

『――――ようこそ、道具屋へ。あなたは選ばれた勇者です』

 パッパッパラー。

 やけにちんけな効果音が部屋の中に流れた。

 驚いて目を丸くしていると、髪の長い道化師の格好をした奴がディスプレイ上に出現した。Cブロックを統括するレグルスとは違う人工知能。

 通路の先にあったのは、モスグリーンの小部屋だった。上部には綺麗なシャンデリアが備え付けられていた。

『……選ばれた……勇者? それは俺のことか?』

 状況がうまく飲み込めず、疑問に上がったことを取り合えず詰問してみる。

 自らのことを“スピカ”と名乗った人工知能は、にんまりと頷いた。

『はい、貴方は七人目の通過者。まさに選ばれし者なのです』

『……七人目……! もしかして俺以外にもここに来た奴はいるのか!?』

『ええ、あそこに広い所がありましたね。あそこは中央広場と言って、扉を抜けた者がまず通る場所です。貴方は七番目に中央広場に辿り着いたという訳です。同時に貴方が最後のプレイヤーであり、私達に危害を及ぼす魔物――――“ジョーカー”を退治できる術を持った勇者でもあるのです』

 意味が分からない。

 俺の頭には大量の疑問符が浮かんだ。

『……ジョーカー? 新手の人工知能か?』

『いいえ、滅相もない。ジョーカーは私達が経営するゲームを邪魔する不届き者なのです。ですから私達はジョーカーを倒すことのできる勇者を待っていたのです』

『それが俺なのか?』

『はい。杉下様こそが勇者なのです』

 何か面倒なことになってきたな。

 そう思う間もなく、再びスピカは話しかけてきた。

『では杉下様。貴方はジョーカーを倒す勇者となって、私達に平和をもたらすと約束しますか?』

 だった。

 なんだか、妙な雰囲気になった。

 飴の様に伸びきった静寂の時。そんな空気に耐えれなくて、仕方なく俺は首肯し了承の意を伝えた。

『さすがは勇者様ですね。民のため私達のために頑張ってきてください』

 それと……。

 スピカは何かを付け足すように呟き、

『これは私からの選別です。魔物退治に一役買ってくれるでしょう』

 人工的な機械音がしたと思い、背後を見ると、そこにはせり上がった床パネルがあった。その上には小型のカメラの様なものがのっていた。

『受け取ってください』

 そうスピカに促され、メタリックな小型カメラを受け取る。

『これは計三回しか使用できません。ですので、使用時は慎重をきして使ってください』

 俺は精密に作られたカメラをまじまじと見た。

『下の階に言ってみてください。勇者の出現によりゲーム会場の扉が開いていると思いますから』

 


 その後、スピカから携帯電話を購入し、今にいたる。

 アケルナルから“変則神経衰弱”のルール説明を受けた後、この小型カメラの役割に疑問を持った俺はひたすらこのカメラの存在意義を考えた。

 そしてあることに気付いた。

 

 ――――もしかしたら、スピカの言うジョーカーとは“変則神経衰弱”におけるジョーカーのことではないか?


 “変則神経衰弱”におけるジョーカーの役目は、引いたプレイヤーを強制的にリタイヤさせること だ。プレイヤー側からしてみれば、まさに絶対に会いたくない()()のような存在である。

 ひょっとするとこの小型カメラ、ジョーカーに対抗しゆるものなのではないか。といった類推が成り立った。

 さんざん考えた結果、導き出された結論はテーブルのカードを写真に撮ることで、ジョーカーの位置が浮き彫りになる。というものだった。

 それはいまだ仮説の域にすぎないが、可能性としては十分にある。それを確かめるために桜木を親にしたのだから。

 


「――――今度は桜木だ」

 順調に親決めが進み6番の結城が投票した。その後親決め投票を最後に行うことになった桜木は、無音で立ち上がった。まるで桜木の周辺だけが瞬間冷凍したかのように冷え冷えしていた。

 その時桜木に対して少しばかりの罪悪感が募った。

 午前二時くらいに中央広場で、同情を誘うような嘘泣きをしたこと。

 その後小田切と永瀬に、桜木にのみ注意を向け俺へのマークを取り除いたこと。

 全てはこのゲームに勝つための演技。みんなを油断させるための嘘芝居だったのだ。

 そうでもしなければ、頭脳明晰の小田切や頭の切れる桜木に勝利することは極めて難しい。おそらくあの二人のことだ。何かゲームを一転させる切り札を隠し持っているに違いない。

 

 俺には百合を救うという使命がある。

 このゲームには何か裏があるはずだ。それさえ解明できれば百合をここから脱出させる突破口を開けるかもしれない。


 そのためにも皆には犠牲になってもらう。


 俺は内心ほくそ笑んだ。

 そのときだろうか。

 桜木の顔に笑みが浮かんでいたのは。



「……全員親決め投票は終わったな。よって投票結果を発表する」

 間違いなく親は桜木だろう。

 俺には確固たる確信があった。

 このゲームは親になれば圧倒的に有利になる。それに加えて、このゲームは協力不可能の非ゼロサムゲーム。別のプレイヤーを親にするデメリットこそあれど、メリットは全く持って皆無なのだ。

 桜木自身が自分に投票した一票と、俺が投票した一票で計二票。他のプレイヤーは例外なく自分を親にして投票しているだろう。

 よって、第一ピリオドの親は百パーセント桜木でしかありえない。

 桜木が自身に投票したという仮定がなければ成り立たない論理だが、正鵠を射ているのは間違いないだろう。

  

 心の中で早くも凱歌が上がっていた。


「親は……」焦らす様なアケルナルの声。


 もったいぶる必要はない。なんせ親は桜木で決定なのだから。

 意識せずとも頬に微笑が浮かぶのを堪え切れない。


 ()()()()()()()()()

 

  俺が勝利を確信した笑みを浮かべるその直前――――。


 

()()()()()()()()()


「はあああっ!?」

 

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