一つの答え 【岸本視点】
ゲーム会場。11日目。1時2分。
私――――岸本睡蓮はとある結論に行き当たった。
このゲーム、負けるかもしれない。
それは、あまりにも早すぎる敗北色の濃い諦め――――否。ゲーム攻略の糸口が見当たらないことに対する恐怖だった。
会場内は静まり返っていた。それこそ呼吸音や布の擦れる音すら、ない。
みんな沈黙していた。
無理もなかった。
私たちは今初めてルール説明を受けた身。この静けさは、ゲーム内容を咀嚼するが故の副産物でもあり、周りに対する懐疑の現れでもあった。ここにいる全員が信じられない。そう言った雰囲気。そして、このゲームに勝利するため策を考案しているに違いない。
自分以外のプレイヤーを出し抜くための――――攻略法を。
私は不意にこの空間が末恐ろしくなった。
本の数週間前までは、一介の高校生だった私達。一緒に勉学に励み、一緒にスポーツをして、一緒に遊んだ、俗にいうと私達は仲間だった。
なぜ、過去形で語らなければならないのか。
どうしようもない虚しさが胸裏を支配した。
おそらく、ここにいるプレイヤー全員は必死に思案している。
必ず死ぬ。必ず死ぬから必死。
軋轢のような笑みがこみ上げた。やがて、波が引くように終息した。
なぜなら、私もまたくだらないエゴを掲げる一人だったからだ。そんな人間に他者を笑う資格などない。それが、私を腹ただせ、言いようもない不快感を感じさせる要因の一つになった。
結局のところ、他人よりも自分の方が圧倒的に優先順位は上なのだ。
そんなことは達観しなくても分かり切っている。しかし、それでもなお、自分自身のためだけに私は考え続ける。
なんとしても、このゲームの勝者となって、自由への扉を潜り抜ける。そのためにかけなしの頭脳をフル回転させ、現状で確認される情報を詮索。勝つための手段を考察する。
しかし、何回とシュミレーションしても、答えは出なかった。袋小路に追い詰められた鼠と遜色ない状況。出口のない迷路に迷い込んだ私。どちらにしろ結果は同じだった。
……やがて、先ほどとはベクトルが違う別の確信が浮かびあがった。
もしかしてこのゲームには、解なんてものは存在しないのではないか?
思わず体が戦慄に震える。
それは恐るべき可能性だった。
「それがないこともないんだ」
「……?」
まるで、私の考えを読んだような声。それが、不思議と私の耳に届いた。
はっとなって、音源の方向を見る。
それは桜木君だった。彼はゲーム会場のただ一つのドアから、ゆっくりとした動作で私に手招きをした。一瞬、周りの目線が気になったが、いつの間にかみんなは探りの意味を込めた議論まがいを展開していた。私や彼に気付いた様子はない。躊躇の心はあったが、決心して彼に歩み寄った。勿論、みんなに気付かれないよう、そっと。
眼下には見慣れた彼の顔があった。
私は無意識に安堵していた。それは、彼に対する信頼の証のように思えた。何をしでかすか分からない男ではあるが、少なくとも信用に値する人間であることを私は十分承知していた。
ほっと息を吐く私を、彼は怪訝そうな表情で見たが、不意に悪戯っ子の様に無邪気に微笑んだ。
「大丈夫か?」
「うん……」
私は首肯した。
「それよりもどういう意味なの?」
それがないこともないんだ。
それは、私に一縷の希望を持たせるのに十分な言葉だった。
それは、このゲームに解があるという裏付けがあるから言えるのか?
私はその言葉の真意が知りたかった。
「そのまんまの意味さ。解があるんだよ。このゲームには」
そこで、一旦彼は口を閉ざし、数秒の間を置いて言った。
「しかも、その攻略法はな、一人で勝つことに焦点を置いたものじゃなく、俺と岸本両方ともが勝つことを前提に置いたものなのさ」
桜木の頭の切れは異常ですね。もはや、変です。