表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/12

間奏 sign2

――――早くも前途多難だぜ?

 塔の最上階。11日目。6時44分。


『これで桜木チームが一歩リードしましたね』


 蛍火のように光るディスプレイ。四角い画面から流れる光景を、さも嬉しそうに“スピカ”が言った。

 幾何学的な文様が施された仮面。複雑怪奇に曲線を画くそれは、スピカの顔全体を覆っていた。しかしスピカの流れるような白髪までは、隠しきれなかったらしい。肩につかる長さの髪の毛が、鮮やかに背中の上で舞を踊っていた。

 

『ふふふ。はたしてそれはどうかな?』


 スピカは“アケルナル”の方へと視線を向けた。結晶のように澄んだ双眸が、諧謔に笑うアケルナルの瞳を捉えた。


『それはどういう意味でしょうか? この状況は明らかに桜木チームが有利に見えますけど』

『確かに一見してみれば、桜木の謀略によって岸本が親を取り、見事一ポイントを獲得して風に見える。俺もその手腕は認めよう』

 ただ言えることがあるとすれば――――。

 アケルナルは花束を添えるかのように付け加え、


『裏で動き回っているのは、何も桜木だけではないということだ』


 と言ってアケルナルは、酔眼朦朧の様な目付きでディスプレイを見た。まるで異次元を覗きこむかのように。

 画面に映っているのは一人の男―――奥村守だった。

 そこは中央広場だった。“変則神経衰弱”に参加するメンバー全員揃い済みだ。ある者は椅子に座り、またある者は壁にもたれかかっていた。その中奥村は、身振り手振りを加えて、ある作戦の旨を皆に伝えようとしていた。

 

 『――――皆考えても見てくれ! 岸本と杉下は間違いなくチームを組んでる!』


 奥村は訴えかける様に言い放った。まるで犯人を追いつめる刑事の様に。

 皆の反応はそれぞれだった。

 まず話題の中心人物である杉下は、苦虫を潰した様な渋面を作り、先ほどのピリオドで一ポイントを獲得した岸本は、早くもこのゲームにおける勝利を確信していた。それを岸本の親友である小田切は複雑な面持ちで見つめ、萩原はひたすら虚空を睨んでいた。永瀬は所在なさげに辺りを見渡してため息をつき、事件の首謀者である桜木は、傍観を決めつけていた。

 何とも得体の知れない空気が流れた。

 奥村はその流れを断ち切るように、


『そこで俺に考えがあるんだ!』

『なんだよ、その考えって?』

『2人を軟禁するのさ』


 と皆に悪魔のような提案をした。

 

『なるほど。つまり睡蓮と杉下を一時的に切り離し、これ以上の協力を防ぐ……そういうことかな、奥村?』

『その通りだよ、小田切さん』

 

 奥村は首肯した。


『まぁ、かなり消極的な方法だけど、これが一番最善策だろうよ』

『……正直嫌だけど、仕方がないよね……』

『これで何もなければ、俺達は安泰ってわけ』

『……って、ちょっと待て! つまりお前らは岸本と杉下の人権を奪うつもりか?』 


 岸本と杉下が沈黙を守る中、桜木が阿鼻叫喚の声を上げた。

 

『お前ら馬鹿か! 何もそこまですることないだろ! 少しは岸本たちの身にもなってみろよ!』

『ほざけ偽善者。それとも何か? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? 桜木君?』

『……けどダメだろ…監禁はさすがに……』

『そこら辺は大丈夫。暴力、拷問とかはさすがにしないよ。後()()がするのは監禁じゃなくて軟禁だから』


 桜木の糾弾をいとも容易く一蹴する奥村。そこにはありありとした優越感が浮かび上がっていた。

 

『諦めろ桜木。こうするしか他に手立てはないんだ』

『……萩原まで……杉下の親友じゃないのかよ!』

『仕方ないだろ。とにかく割り切れ。このままじゃ岸本か和馬――――どちらかしかここから脱出できない。この上なくネガティブだが、これ以上下手にポイントを取られるわけにはいかないんだよ!』

『ごめんね、桜木君。こうするしか道がないの』

『……永瀬……』

『多数決で決定だな。どういう風に二人を軟禁するか話し合おうか』


 小田切の一言で、全てが決まった。




『ククク、こうなってしまっては、策も何もないプレイヤー達も奥村の策に乗るしか手はなくなる。もしこれらの事態を予期していたのなら、奥村もなかなかの策士ってことになるぜ』

 画面の中で必死に口論を繰り広げるプレイヤー達に向かって、冷笑を浮かべるアケルナル。どこまでも異様な奴がどこまでも異様に笑みを溢すと、異様を通り越して狂気という領域が浮き彫りになってしまう。

  

『しかし、一番したたかなのは桜木様でしょうね』

『ああ、さっきの制止は何も二人の身を案じた行動ではないということだろ? 恐れていたんだよ桜木は。本当の協力関係にある岸本と連絡が取れないことをな』

『でしょうね。運命共同体にある岸本様とコンタクトが取れなければ、いささか不備が生じますから』

『ただ親決めに関しては、親は岸本で統率されているからぶれることはないぜ』

『とはいえ、これで三人目のプレイヤーと契約することは困難を極めますね。なにせ岸本様と桜木様が裏切り防止を確かなものにするために契約書に書いた内容――――契約書に関することを一切他言しないというのが不利に効いてきます』

『これでは誰かを仲間にすることは、まず無理だろう。そのためにはどうしても契約書の内容を暴露する必要があるからな。しかしそれすらできない』

『三人目のプレイヤーと契約するための方法は、既存の契約書内容を打ち消す類の契約書を書けば全ては丸く収まります。ただそのためには両者のFカードが必要になってくる』

 『岸本が軟禁されちゃぁ、下手に岸本と落ち合うことは難しくなる……だから奥村の計画を止めたかったのさ』


 アケルナルはクククと、悪鬼のような相貌を見せた。

 

『だがそれは、叶わぬ夢に終わった』


 スピカがカナリアの様な口ずさむ。


『この瞬間、奥村は完全に主導権を握った。さてどう出る? 首謀者桜木に――――勇者杉下? 早くも前途多難だぜ?』 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ