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第一ピリオド後編 【杉下視点】

やけに!・?マークが多いです。

気を付けてご購読ください。

 ゲーム会場。11日目。6時10分。


 モノトーンの部屋にすっとんきょんな大声が上がった。


「はあああ?! なんで岸本が親なんだよっ?!」


 6番の席に座った結城が、信じられないといった声色で言った。それは皆も同じようで、会場にいるプレイヤーのほとんどは、瞳孔を拡大させて仰天していた。

 かくなる俺も、この不可解な現象に驚きを隠せなかった。


 ばかなっ! なんで岸本があの状況下で親が取れたんだっ――?! 


 心の中で咆哮を上げる。意味が分からない。その言葉が何度も連呼された。


 俺の描いたシナリオが早くも瓦解した瞬間だった。

 

 先ほどまでの静寂が一転して、潮騒のような騒音にまみれる。

 そんな中騒ぎの張本人である岸本は、涼しい顔で俺達を見ていた。頬には不敵な笑みが浮かび、さながら行住坐臥(ぎょうじゅうざが)の想定を呈していた。

 

「おいおい静かにしてくれよ。これじゃあ投票結果の詳細が発表できないじゃねーか」


 そんなアケルナルの一声で、一時みんなの怒号が止んだ。あっという間に狂瀾怒濤(きょうらんどとう)の空間が静けさを取り戻す。

 その様子を満足げに見つめたアケルナルは、もったいぶる様に小さく咳をした。


「今からこのディスプレイに一通りの結果を表示させる。それから親である岸本にアルファベットを声明してもらおうか」


 声明も何も、岸本がポイントを取ることは明白の境地。ただの形式上の確認だ。

 しかしそんなことをぼやいていても仕方がない。俺は在るべき未来を進まなければならない。そのために過ぎ去った過去を気にする余裕はないのだから。

 この現状を甘受するのではなく、あくまで次なる対策を立てるのが兵法の基本。これはある種の戦争だ。多大な犠牲を払ってでも、得らなければならないものがある。 


 固唾を飲んでディスプレイを見守るプレイヤー諸君。一同の視点が完全にディスプレイに集まったとき、うすぼんやりと画面から複数の文字と数字の羅列が出現した。


 それは驚愕に値する内容だった。



 1番 岸本睡蓮  2票

 2番 奥村守   1票

 3番 永瀬杏   1票

 4番 小田切雫  1票

 5番 杉下和馬  0票

 6番 萩原結城  1票

 7番 桜木鼓太郎 1票


 

「!!」

 俺は思わず息を飲んだ。

 黒いメタリックなディスプレイは鈍く黒光りし、俺に最悪な結果を突き付けた。


「……もしかして、杉下君が……岸本さんに入れたの?」


 永瀬の小さい一言が、会場に再び騒乱を巻き起こした。

 

「……って、ええええ!」

「…いったい何が起こってるんだ!?」

「ちょっと待った!! ってことは杉下と岸本はあらかじめ組んでたってことかぁ?!」


 まるで爆発物を投入したような大騒ぎ。尋常じゃない悲鳴にも似た叫びが辺りに木霊する。

 

「信じられないのはこの俺の方だよっ!」


 思わず椅子から立ち上がり、弁解するように言葉を紡ぎだす。俺は唇を必死に動かし皆に訴えかける。俺は無実だと。


 「それはこっちのセリフ!」

 「ならなんで、お前の票が零で、岸本の票が二票もあるんだよ!」

 「……それは……」


 俺は奥村の質疑に口を閉ざした。

 

 「つまりっ、()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


 奥村は、まるで俺にとどめをさす様に大きい声で言い放った。

 それがトリガーとなってか、俺に対する非難めいた罵声が飛び交った。

 

「違う、違うんだっ! 俺は岸本に投票していない。桜木に入れたんだ!」

「嘘に決まってる! そもそも杉下が桜木に入れて何かメリットでもあるのか? ないに決まってるだろ!」

 なら、俺が桜木に入れるメリットこそ皆無だろ! 

 思わずそう叫びたくなるのを堪える。

 奥村の追随の手は、緩む気配を見せない。かと言って奥村の至極もっともな正論に言い返せるわけでもなく、ただただ無言の体勢を取るしかなかった。

 唇を強く噛み締め、ひたすら堪える――――。

 暫くそうしていると、俺の中で明らかに不可解な疑問が浮上し始めた。

 俺は頭の中を緊褌一番のごとく整理し、思考のジャングルに考えを投影する。



 ――――確かに俺は桜木に入れた。これは相違ない事実だ。だが、なぜか親は桜木ではなく岸本だった。そして岸本は二票を獲得し、桜木は一票。そしてこの俺の票は零。


 ()()()()()()()()()()()()()


 俺は間違いなく桜木に入れた。しかし桜木に入った票は一票……!


 ということはつまり――――桜木は自分ではなく、岸本に投票したということになるまいか?


 だから、桜木はあたかも自分に投票したように映り、俺の票は零票だから、岸本に投票したように見える。


 よってこれらの仮定によって導き出される結論――――。

 

 間違いなく桜木は岸本と組んでいる!



 この結論が出来上がった直後、俺は桜木の方を見た。

 そこにはやじに一切参加しない、不気味な桜木の姿が見て取れた。まるで波の立たない水面の様に清澄に傍観する桜木。その表情には微かな微笑が浮かんでいた。

 唐突に俺は桜木のことが恐ろしく思えてきた。

 おそらく桜木は例の小型カメラの真相に気付いていないだろう。しかし俺とは別の手段を講じて、岸本と協定を締結したのだ。その際に桜木がどのような戦術を謀ったのかは分からない。


 これは由々しき事態だ。 

 スピカから渡された小型カメラ。その性能を試すためには、俺ではない誰かを親にする必要があった。出来れば俺を親にして検証したかったのだが、いかんせんプレイヤー全員は自分に投票するのが関の山。プレイヤーの票が全部一票ずつ並ぶことは目に見えていた。なら適当な誰かを親に仕立て上げてしまった方が、俺の計画はスムーズに運ぶ。そのためにクローズアップされたのが桜木だったという訳だ。

 正直親は誰でも良かったのだが、どうせなら、カード指名権利に対し後手に回る可能性が極めて高い桜木の方がいいだろうと判断したが、それが裏目に出てしまったらしい。


 結果として、俺は皆にあらぬ冤罪を掛けられた状態にある。そして水面下で動いている影に皆気付いている気配はない……。

 

 この瞬間、第一の波乱が俺に襲いかかった。

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