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Game Start 【桜木視点】

やっと、始めることができます。

 ゲーム会場。11日目。0時54分。


 モノトーン調の壁。君臨するテーブル。従者のような七つの椅子。俺を含めた()()()()()()()()


 “アケルナル”の言うように、ステージも参加者も完全に揃っていた。


「な、なんで……お前がいるんだ……?」

 まるで昼間に幽霊を見たような口ぶりで、萩原(はぎわら)が言った。

 辺りを包む静寂。皆の視線は突如出現した最後のプレイヤーに集まっていた。

 六分の好奇心と四分の不可思議の混ざった眼差し。それを杉下(すぎした)はどうでもいいような表情で受け止めた。

 かくなる俺も、杉下の不可解な介入に驚愕を隠せなかった。

 杉下はふぅーと息を吐いた。

 

「例の扉を抜けてきただけ。それになんだ、桜木(さくらぎ)岸本(きしもと)。時々Cブロックから姿を消すと思ったら、まさかこんな所にいたなんてな」

 杉下は俺と岸本を見た。それは、咎めるようなものではなく、どちらかというと諧謔のようなものだった。

「……気付いてたんだ……」

「まぁな。変だと思わないか。毎度毎度決まった時間に二人揃ってトイレに行くんだ。しかも、みんなが寝静まる夜。てっきり、妙な事をしていると勘繰ってもおかしくはないだろ」

 俺は心の中で歯ぎしりをした。

 俺は一歩前に進み、

「つまり、俺達の行動を不審に思った杉下は、あとでトイレに行っていろいろ調べたってわけか」

 と、言った。

「ご明答。桜木達にはつくずく感謝してるよ。おかげで、脱出のチャンスが生まれたからな」

 チャンス。それはゲームの参加権のことだろう。油断していた。確かに男女揃ってトイレは妙だ。それが原因で杉下にばれたのだろう。しかし、結果論で言うといち早くゲームを行うことができるのだから、良しとすることにした。

 

「おっと、お涙ちょうだいの邂逅はそこまでにしてもらうぜ」


 どこか、俺達の会話を面白がるような口調でアケルナルが言った。まるで、陳腐なサーカスを見た観客のように頬を歪める。

 

「さっさと、ゲームを進めようぜ。こちらとしても待ちに待った大勝負だからな」

 と、言って、バチンと指を鳴らした。

 同時に、卓上から奈落のように一つの箱が出てきた。

「それは、ゲームの順番を決めるくじ箱だ。一人ずつ引いてくれ」

 アケルナルが促す。

 しかし、みんなは動こうとしなかった。

 それは、不安と呼ばれる感情が俺達の動きを止めていた。

 それに加えて、俺達はゲームのルールを聞かされていない。それが、くじを引くという行動に歯止めをかけていた。

 このくじ引きという行為が何を意味するのかは分からない。しかし、少なくとも今後のゲーム展開に大きく関与していることは明白。それ故に、怖くてくじを引けないのかもしれない。


 と、思考の海にオールを漕いでいると、一人の女子生徒が動いた。


 小田切(おだきり)だ。


 小田切は決心したように、歩を進め箱からくじを引いた。辺りから形容しがたい雰囲気。さて、どうなるんだ。そういった、詮索の心が窺えた。


 小田切が引いたのは4という数字が描かれた紙切れだった。

「では、小田切は4の椅子に座ってもらおうか」

 アケルナルが小田切を呼び捨てで呼び、視線だけを4と描かれた椅子に移した。

 小田切は一瞬、俺達の方を見たが、岸本や永瀬(ながせ)が小さく頷くくらいで、他の生徒は目を合わせようともしなかった。

 小田切は紙切れをポケットに入れ、4の椅子に座った。

 おそらく、このくじ引きと椅子はリンクしている。だとしたら、あの箱に入っている番号は4を除く1~7の数字だと見当付ける。

 

 再び訪れる停滞。

 

「おいおい、勘弁してくれよ。たかが、くじ引きだぜ。所詮、運で左右されるものを恐れてどうするんだよ?」

 アケルナルの言うことはもっともだった。

 これ以上の静寂はうんざりだったので、しかたなく俺は動いた。

 テーブルの上には安っぽい作りをした箱。俺は右手をそれに突っ込んだ。

 ごさごそと手を動かして、適当な紙切れを取る。

 そこには、7と描かれていた。

「よし、桜木は7番の椅子だ。さぁ、座ってくれ」

 アケルナルの言葉通り、俺は7番の椅子に着席した。

 

 さすがに、これ以上躊躇っても仕方がないと思ったのか、みんなはくじを引きに動いた。

 その結果、椅子の順番はこうなった。


 1番 岸本睡蓮(きしもとすいれん)

 2番 奥村守(おくむらまもる)

 3番 永瀬杏(ながせあんず)

 4番 小田切雫

 5番 杉下和馬

 6番 萩原結城

 7番 桜木鼓太郎(さくらぎこたろう)


 役目を終えたくじ箱はいつの間にか消え、計七人のプレイヤーはくじの導きにより、テーブルに揃った。


「くくく。では、これより変則神経衰弱のルールを説明するとするか」


 あたりに糸を張るような緊張。みんなの顔が微かに強張った。背中に嫌な汗が蛇の様につたっていくのを感じた。

 それは当然の反応だった。

 もし、このゲームに勝利すれば、核シェルターのようなこの場所から脱出することができる。反面、敗北すればここから抜け出す見込みはない。

 まさに、命がけのゲームといっても過言ではない。

 

「まずはこれを見てくれ」

 と、言って、テーブルに目を向けた。

 そこには、八枚のトランプのような物。それが、縦に並んでいた。おそらく、先ほどの様にこのテーブルには特殊な仕掛けが施されているのだろう。


「見ての通りカードだ。これらにはA~Gと描かれた七枚のカードとジョーカー一枚含まれている。まぁ、数字のないトランプだと思ってくれてもいい。この計八枚のカードで勝敗を競ってもらう」


 トランプ。やはり、ゲーム名が神経衰弱とつくだけに、ある程度予想できたことだ。しかし、この八枚のカードでどうやって、勝敗を決めるのだろうか。


「確認しておくが、全員携帯は購入してあるな。今から、それに一つのアルファベットが描かれたものを送信する」

 と、アケルナルが言うのと同時に、俺の携帯が振動した。それはみんなも同じようで、杉下を含む全員の携帯がバイブレーションを繰り返していた。


 携帯の画面を開けてみると、八つの空欄が縦状に投影されていた。そして、それの上から四番めにEのマーク。


 「そのアルファベットと、テーブルのトランプは連動している。例えば、八つの空きスペースの上から一番目にAのマークの画面が送信されたら、そのまま、テーブル上のトランプにもそれが当てはまるんだよ」


 俺は携帯の隠された役目がここにあることを理解した。やはり、Fカード同様、脱出のためには欠かせないアイテム。これがなければ、ゲームに参加することができないからだ。


 とはいえ俺はアケルナルの言った意味が咀嚼できなかった。

 話がややこしくなったので、一回纏めてみよう。

 今、俺達は七つの椅子があるテーブルに座っている。テーブルの上には、それぞれA~Gのマークが振ってある七枚と、一枚のジョーカーを含む、計八枚が縦に置かれてある。また、各プレイヤーにはA~Gのマークが描かれた画面が送信されていて、画面には八個に区切られた空きスペース。その空欄のどれか一つにA~Gのマークが一個だけが描かれてある。その携帯のマークの位置と、卓上のトランプの位置は完全に一致しているというわけだ。


 ただ、不可解なのは、ジョーカーの存在だ。このゲームに置いて、ジョーカーはどのように機能するのだろうか。 


「ゲームの進行は、1番の岸本から順番に2番の奥村、3番の永瀬と続き、7番の桜木で終わる。そのワンサイクルが終わったら、再び岸本となる。次に、ゲームの中核を成す親決めだ。親決めは一回のピリオドで、今度はプレイヤー七名で親決めをしてもらい、親になった者が順番に好きなアルファベットを言ってもらう」

 アケルナルは後ろを指差した。

 がこん。

 機械的な音。それに同調するかのように一台のマシーンが出現した。

 それは、大きなディスプレイだった。高さは俺の身長と同じくらいで、俺や岸本たち七人のフルネームがデジタル調に掲示されていた。

「手順はこうだ。まず、親になってもらいたい奴の名前をタッチ。それを七人で繰り返す。あとは多数決で一番票の多いプレイヤーが親になる。また複数の同票プレイヤーが存在した場合、その同票のプレイヤーに限定して、再度親決め投票を行うの」

「……悪い意味が呑み込めない」

「まぁ、こういうことだ。仮に岸本と永瀬が三票ずつで同票だった場合、もう一度岸本と永瀬だけに投票するってことさ。この時岸本と永瀬以外のプレイヤーに投票することは不可能だぜ。そしてプレイヤーは七人の奇数。二人の内の一人にしか親になりえないってことだ」

 みんなは首肯した。理解したという意思表示。

 

 「親が提示したアルファベットを、手元の情報を駆使して、テーブルにあるカードをめくり当ててもらう。もし、それが提示されたアルファベットならばそのピリオドは終了し、当てたプレイヤーに一ポイントが与えられる。違うならば、次のプレイヤーに移行し、提示されたアルファベットが当たるまで続ける。それが終わったら再びアルファベットを送信し、ピリオドを七回繰り返す。最終的にポイントが高いプレイヤーが勝者になる」


 つまり、このゲームはアルファベットを提示する人間――――つまり、親が圧倒的に有利なゲームであることが言える。自分に送信されたアルファベットを提示すれば、間違いなく当てることができるからだ。

 要はこのゲーム、いかに親になるかが重要だと言える。


「A~Gの番号が各携帯に送られていることも、勝利条件もだいたい分かったが、このゲームにはジョーカーがあるんだろ。それはどうするんだよ」

 萩原が俺の疑問を代弁するように言った。

 ジョーカー。それは、どんなカードにもなれるワールドカード。恐るべき力を秘めたカードだ。このゲームでもその論理が当てはまるのだとしたら、特殊な役付けがされていることが予想できる。


 事実、それは大当たりだった。


「ジョーカーはいわば異端なカードだ。もし、それをめくってしまったプレイヤーは、即失格になる」


 俺は驚愕した。

 ジョーカーの破壊力の強大さ。

 それは、ただカードを捲るだけでも莫大なリスクが生じることを示している。これは由々しき事態だ。てっきり、提示されたカードの位置が分からなくても、適当にめくればどうにかなるという浅ましい考えはあっさりと瓦解した。これでは、下手に動くことはできない。


 それはみんなも同じようで、奥歯を機みしめるような表情をしていた。


「しかし、萩原。おまえは一つ勘違いをしている。確かにジョーカーに関する情報は一切のプレイヤーに知らされてはいない。しかし、仮に七人全員で携帯を見せ合えば、おのずとジョーカーの位置は分かるだろ?」


 はっと、萩原が口を開けた。

「た、確かに……分かるよな」

 アケルナルの助言は確かな理論に元ずくものだった。

 一見、自分に送信されたカードマークしか分からないように見えても、実はみんなと携帯の見せ合えばゲームを有利に進めることができるのだ。


 俺はこのゲームが個人戦ではなく、団体戦であることを悟った。

 しかし、勝利条件はプレイヤーの中で、一番多く得点を取ること。逆に言えば、勝者は一人しか存在しえないことを意味する。


「同点優勝はあり得るのか?」

 小田切が問うた。それは俺も気になっていたことだ。

「良い質問だ。だが、その場合にはじゃんけんでもして勝者を決めてもらうぜ。あくまで()()は一人だからな」


 摘み取られる僅かな可能性。どう足掻いても、()()は一人でしかない。


 俺は早くも、裏切りと陰謀の影が見て取れた。

 このゲームはどうしても、みんなと協力しなければ勝ち上がることは難しい。しかし、協力したところで裏切りにあう危険性は限りなく高い。平和的に見える協力は、実は破滅への階段。たった一人の勝者になるためにはどうしても他人を蹴り落とさなければならない。

 そんなゲームなのだ。


 「では、午前六時にゲームを始める。ピリオドは六時間ごとに区切るからな。二日間の長丁場だが、せいぜいがんばるんだな」


 アケルナルは人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべると、粒子を身き散らしどこかに消えた。


 ゲーム会場は重々しい沈黙が流れた。

 下手に協力しようものならば、相手にカモられることは明瞭。無理やり携帯を取り上げるということもできなくはないが、暴力の行使は禁止だとレグルスは警告している。もしかしたら、ペナルティを課せられるかもしれない。そんな危険を冒せるはずがない。なにより、それは人としてあるまじき行為。それだけはだめだと思う。


 この瞬間、俺達はジレンマに陥ってしまった。他者と協力すれば勝率は上がるものの、負ける可能性も上がるというパラドックス。矛盾したゲーム理論。突破口が見つからない。



 ――――ただ、俺にはある策が思いついていた。

 この状況を打開する作戦が。


 ――――このゲーム、間違いなく勝てる。


 俺の頬には勝利を確信した笑みが浮かんでいた。

 



ルールが複雑かつ面倒になったと思います。すみません。


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