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隠された幼子を託された神獣は、全力で子育てに励む?!〜母性を知った神獣は「嫁ぐ相手は我が見極める!」と譲らない〜(仮)  作者: 月城 蓮桜音
第二部

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第96話 剣術の授業とヘンリー

 魔道具の授業を終え、学食で昼食を済ませた俺たちは、着替えて訓練場に来ていた。次の授業は剣術の実技だからな。


「レオン殿。言われた通り、少し早めに来ました」


 ヘンリーが緊張した面持ちで、俺に声を掛けた。


「来たか。それでは、とりあえず構え方からだな。木剣はこれを使え。背筋は伸ばして、膝は少し曲げたほうが安定するぞ。腕はもう少し上…………そなた、腕力が無いな」


「やはり、そうでしょうか……」


「ああ。腹筋も無いな。脚力は人並みにありそうではあるが」


 大袈裟に絶望的な顔をするヘンリーは、思っていたより人間味があるんだな?


「ど、どうすれば良いのでしょうか?」


「剣術の授業では、最初に走り込みをしたら、あとは自由に練習していいんだよな?」


「はい、そうです」

 

 大きく頷きながら、何をさせられるのかドキドキしているヘンリーは、何だか少し可愛らしいな。そうだな、例えるなら……飼われている大型犬みたいだ。


「であれば、残りの時間はひたすら正しい姿勢での素振りをするしか無いだろう」


「そ、それでどうにかなるのでしょうか……」


「レオンくん、どうしたのー?」


 ちょうど良いタイミングで現れたクリスに、素振りするしか無いと結論づけてもらえれば簡単だよな?


「クリスか。そう言えば、クリスも最初は剣を振れなかったよな」


「うん。普通の剣より軽い剣にしてもらって、ずっと素振りしてたよ。筋肉をつけるトレーニングも教えてもらって、2カ月で普通の剣を振れるようになったんだ」


「そ、そうなのか……やはり、剣を振るしか無いのか?」


「剣術が上手くなりたいなら、そうだね。おうちでも朝晩と素振りしたら良いと思うよ」


「あー、いや。家では難しいんだ。親が反対しているから……」


「じゃあ、うちに来てやったら?兄様たちと毎日素振りとか、練習もやってるし、ひとり増えても困らないと思うよ?」


「え?クリス様の家って……宰相殿の家、ですよね?」


「あ……」


 クリスが固まってしまったな。モーリス公爵家の人間であることは、クリスの間は内緒にしなければならない。助け舟を出そうと、一歩前に足を踏み出したタイミングで、ラウルが来てくれた。


「クリス、うちに呼びたければ私を通しなさい。えっと、君は確かヘンリーだったかな」


「はい。ブラウン侯爵家のヘンリーです」


「モーリス公爵家に勉強しに行くとでも言えば、君のご両親も許してくれるんじゃないか?侯爵家の嫡男として、交流も必要な時期だろう?」


 ラウルはヘンリーに向かってウインクする。侯爵家の事情もそれなりに知っているようだ。


「あ、ありがとうございます!本当に助かります」


 ヘンリーはラウルに向かって深々と頭を下げた。賢いし、イーサンへの物言いからプライドが高そうだと思っていたが、そうでもないみたいだな?


「なに、構わないさ。レオンが気にかけて、クリスが手を差し伸べたのだから、私はそれを受け入れるだけだよ」


 ラウルは俺たちに慣れすぎていないか?まぁ、信じてくれるのはありがたいし、嬉しいことなのだがな。


「兄様、ありがとう!良かったね、ヘンリーさん。一緒に頑張ろうね!」


「君はもう頑張らなくても良さそうだけどね……」


 ぼそっと呟いたヘンリーに、ススッとラウルが近づく。


「ヘンリー、うちにはいつ遊びに来ても構わない。ただ、絶対にアリシアだけには近づくなよ?たまにうちに遊びに来るからな。何か起こった時に助けるためなら良いが、二人切りになったり、意味なく近づいたら許さないよ?ああ、ルシアンが、ね?ふふふ」


「き、肝に銘じておきます……」


「ふふっ、大丈夫だよ。モーリス公爵家も随分と落ち着いたからね。安心して遊びにおいで」


「あ、いえ、ちがっ!そちらは気にしていません。隣国との交易などで、ラウル様とルシアン様の能力は疑うまでもありませんし!」


 慌てるヘンリーに、ラウルは優しく微笑んだ。


「ふふっ、ありがとう。私も君の能力は評価しているんだよ?何か困ったことがあれば、クリスやレオンに言うと良い。二人の手に余る時は、私やルシーが手伝うこともできるからね。諦めずに頑張るんだよ」


 うん?ラウルはヘンリーの家の事情などを、かなり詳しく理解しているようだな?


「あ、ありがとうございますっ!」


「あー、ほら。泣かないで。ここがゴールじゃないでしょ?まだ始まってもいないのだから」


「は、はいっ、その通りです。ただ、理解していただけたのが嬉しくて」


「そうなんだね。今は剣術を……多少は形になるまでレオンに教えてもらうと良いよ。体を動かすとね、頭も働くらしいから。君にはきっと、必要なことだと思う」


「はいっ!」


「ヘンリー、話は終わったか? 授業が始まるぞ。走り込みだ、ついて来い!」


 訓練場を十周した頃には、ヘンリーはバテバテで辛そうだったが、フラフラしながらも、授業の最後まで素振りをやり切った。ほお、根性はあるんだな。くくく、面白い。俺たちはもう受ける授業が無いからモーリス公爵家に帰るが、ヘンリーはどうするんだろうな?今日から来るのだろうか?


「ヘンリー……おい、大丈夫か? 明日は筋肉痛が凄そうだ。今日の放課後はどうする?」


 チラリとラウルを見ると、クスクス笑いながら近づいて来た。


「ヘンリー、今日はやめとくかい?来るなら、うちの馬車に乗れば良いさ」


「ぜぃ、ぜぃ……い、行きます!」


「へえー、根性あるねー。お祖父様たちが気に入るんじゃないかな?」


 ルシアンが笑顔でラウルに話しかける。


「レオンとクリスが気にかけてるみたいだし、一緒に訓練しようと思ってるんだ。ルシーも良いだろう?」


「うん、良いよ。あれだけフラフラになりながらも、最後までやり切って、まだやる気なんて、昔のクリスみたいだね。私も気に入ったよ」


 悪いやつでは無いのは分かっていたからな。一緒に居たイーサンは殺気を放ったりと迷惑ではあったが、ヘンリーはそれを諫めていた側だしな。


「ラウル、ルシアン。俺たちは先に公爵家へ行ってるぞ。今日のオヤツはタルトタタンらしいからな。急いで帰らねば」


 学園へは必ず馬車で通い、帰りも馬車を使うようにと、学園長から念を押されたのだ。だから、そう遠くないとはいえ、40分近く馬車に揺られることになるからな。急がねば。


「ふふ、了解したよ。授業が終わったら、すぐに帰るからね。クリスも殿下も、気をつけて帰るんだよ」


「うんっ!」


 クリスの元気な返事にウィルも笑顔で頷くと、二人の頭をラウルとルシアンが撫でていた。皇太子の頭を撫でるなんて不敬だと……一時期周りの人間がうるさかったが、ウィルは双子に懐いているのだと、周囲に分からせたいらしい。クリスと同じように扱って欲しいとウィルに言われた双子は、当然の如く喜んで、幼い二人を全力で甘やかしていたのだった。

いつもお読みくださり、ありがとうございます!

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