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【完結】小さな光と、その軌跡 ―隠された幼子と神獣の物語―  作者: 月城 蓮桜音
第一部

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第68話 2つの報告 ★皇帝陛下 SIDE

 ウィリアムとクリスが楽しそうに話しながら、私の執務室を訪問した。それを見守るレオン殿も、とても優しげな雰囲気であった。私には、ほのぼのとしているように見えていたから、特に大変なことが起こっているとは思ってもいなかった。


「父上、今日のこととは関係がないのですが、僕にとって大事な報告がひとつあります。先に報告してもよろしいでしょうか?」


 ウィリアムが自ら大事だと言うのは珍しいな。確かに、今日の話は長くなるだろうから、聞き忘れないうちに聞いておこうか。


「そうか、では先に聞こう」


 ウィリアムはいつものように無表情で頷き、落ち着いた声でゆっくりと話し出した。


「僕が一歳の頃に、僕と母上が襲われた事件を覚えていらっしゃいますか?」


「あぁ、もちろんだとも。愛しい我が妃が腕に怪我を負った事件だな」


「はい、その事件です。父上と僕が必死に追っていたこの事件……クリスとレオンが、犯人を見つけてくれました」


「何だって!? 犯人は誰だったのだ? ど、どうして分かったのですか?!」


 なんてことだ……ウィリアムがいつも通りの無表情でサラリと話すから、私のほうが驚いてしまったではないか。


「父上、気持ちは分かりますが、落ち着いてください。昨晩、母上とクリスたちは初めて挨拶を交わしたそうなのですが、母上の腕の傷に残っている魔力が、元(・)皇妃の側仕えの者で間違いないということでした」


「そ、そうか……やはり、元皇妃が関わっていたのだな。クリス、レオン殿。本当にありがとう! この事件の犯人を、私とウィリアムは、ずっと探していたのだ。十年近く前の事件だからな、犯人は見つからずに終わるだろうと思ってはいたのだが、諦めきれなかったのだ。ウィリアムが怪我をしなかったのだから、これ以上のことはない、腕の怪我ぐらい問題ないと微笑む優しい妃に、私は我慢ばかりさせてしまったからな……」


「犯人が分かって良かったです。この証言が証拠になるかは分かりませんが……。もしかしたら、図書館のお兄さんなら証明できるかもしれませんね?」


 クリスは何でも知っているのではないか? そんなに昔のことを立証できるとは思えないのが普通だろう。ああ、そうだった。先日、ジョセフとジョエルに、「いちいち驚いていては身が持たないと理解してからは、『クリスだからな』『レオン殿やエルフ殿だから仕方ない』と思うようにしました。ですが、それでも驚くことはありますからね?」と言われたのだった。


「そうなのか?」


「うん。レオンくんも聞いていたでしょう? 今のところ、レオンくんとお兄さんやラビィのエルフたち、人間だとボクだけが分かる魔力の色を、人間にも分かるようにする魔道具を作ってるって。魔法の犯罪に役立つかもって、お祖父様とも話していたよね?」


 視線を振られたジョセフは、「あぁ!」と大きく頷いた。


「完成しているかは分からないけど、お願いして早めに出来上がれば解決できるんじゃないかなぁ? まだ、あの人の側仕えは生きているのでしょう?」


「あぁ、近々罰する予定だったのだが、まだ処罰はしていない。だがまさか、我が妃を狙うとは……処刑でも生温いな。首謀者であろう、元皇妃もだ」


「まあ、叩けば埃が出るような人間だったからな。しっかりと制裁して、ウィルの代では同じような事件が起こらぬようにせねばならんぞ」


 レオン殿の言う通りだな。だが、犯人が分かったのだから、吐かせるのは宰相の得意分野でもあるし、自分たちで何とかしたいところだ。すべてを頼るのは良くないし、私の妃に傷をつけたことを後悔させてやりたいのが本音だ。


「はい、徹底的に罪を暴こうと思います。しかし、今回は私たちの力で解決したい。クリス、色々と考えてくれてありがとうね。その気持ちがとても嬉しかった。犯人を見つけてくれて助かったよ」


 クリスは照れたように「えへへ」と可愛らしくモジモジしている。そんなクリスを、ジョセフやレオン殿も、優しげな瞳で愛でていた。


「ウィリアム、この話は私が一旦預かろう。クリス、それで良いかい?」


「はい。ボクはウィルが納得するのなら、何でも良いです。ウィルはボクの初めての友達だから、力になれたなら良かったです」


 ニコッとウィルに笑顔を向けたクリスに、ウィリアムは頬を染めていた。クリスの笑顔には破壊力があるよな。


「それでは、ウィリアム皇太子殿下を攻撃した人物と……」


「ジョセフ、いつも通りに第二皇子か、殿下とでも呼んでくれない? 外では仕方がないと思えるが、身内の間でそれはちょっと……」


 珍しく会話に割り込んできたウィリアムは、今日から皇太子と呼ばれることにまだ慣れていないようだな。恥ずかしいというか、モゾモゾする感じだろう。私にも過去に経験がある。


「ほほほ、そうですか? では、いつも通り殿下とお呼びしますね。殿下を狙ったのはロドリゲス公爵家の元(・)執事であるゴードンでした。動機もありますし、既に捕まえて『北の塔』の十階へ入れてあります」


「飛んで来た魔法は、かなりのスピードだったようだが、魔道具でも持っていたのか?」


「はい。違法の魔力を拡張する魔道具を持っていましたので没収し、証拠として保管してあります」


「良くやった。それでは、判決を待つだけだな?」


「はい」


 犯人を捕まえたのであれば、後は問題ないことが多い。身柄を確保することが一番難しいからな。身柄さえこちらにあれば、吐かせることもできるし、何とかなるのだ。


「そうか。では、レオン殿。もうひとつの殺気を放っていた人物をお教えいただけますか?」


「おっ、疑問形ではないのだな? ククッ」


「確実に、すぐ分かると判断したからこそ、クリスの側を離れたのだと思いました。曖昧であれば、恐らく放っておかれるでしょう」


 話を聞く限り、エルフ殿もそうだが、確実に出(・)来(・)る(・)ことにしかいつも動いていないのだ。恐らく、無駄なことを嫌うのだろう。


「ほお、良く分かったな。その通りだぞ。殺気を放っていたのは伯爵家の嫡男で、ブラウン侯爵家の嫡男とつるんでいた。元第一皇子の側近の中にいたのだろう?」


「はい、おりますな。ブラウン侯爵家の嫡男はヘンリー、伯爵家はゴードン伯爵家で、嫡男はイーサンですな」


 さすがジョセフ。すぐに名前が出て来るのはすごいな。私も考えれば出て来るが、パッと言えるのは格好良いと思う。覚えるべき情報は増えて行く一方だからなぁ……。ジョセフたちの前では言えない愚痴は妃に聞いてもらうのだが、少し前に「全体を把握して行動している彼らの頭の中を、わたくしたち凡人が分かるはずもありませんわ。味方で本当に良かったですわねぇ」と言われてしまったしな。


「俺が話を聞いた感じでは、伯爵家のイーサンは、プライドだけの男だろう。魔力の制御も下手だから、殺気も漏れるのだ。クリスに向かって殺気を放ったのは許し難いが、自滅するタイプだから放っておいても良いだろう。侯爵家のヘンリーは……そうだなぁ。己が侯爵家の嫡男という責任も理解した上で、上を目指すタイプだな。頭の回転も速いから、第一皇子の側近であれば活躍しただろうと感じたぞ」


「さすがはレオン殿ですな。私も彼らに対しては同じように感じました。三年ほど様子を見ていましたが、その考えは変わっていないので、恐らく彼らの信念が変わっていないのでしょうな」


 ウィリアムが話を聞いている顔で考え込んでいるな。それを横目に、クリスも考えているようだ。第一皇子が皇籍を抜かれた今、彼ら(元側近)はとても中途半端な立ち位置にいるのだから。


「僕としては、側近などの問題は、学園に入ってから考えようと思っているので、一旦放置したいと思います。今は出来る限り、勉強に時間を割きたいと思っています」


「うむ、私もそれで良いと思うぞ。ジョセフ、どうだ?」


「ええ、問題ありません。念のために、皇太子付きの『影』には、彼らの情報を伝えておきます」


「それで頼む。ああ、そうだった。ウィリアムに頼まれていた彼(・)女(・)に連絡が取れてな、明日なら登城できると返信が来たぞ?」


「ありがとうございます。思ったより早かったですね。クリス、レオン。明日、一緒に話を聞いて欲しいんだけど、空けてもらえるかなぁ?」


「もちろん、良いよ!」


「クリスが良いなら、構わん」


「ありがとう! 父上、夜のパーティーは顔を出して挨拶したら、部屋に戻って良いと聞きました」


「ククッ、ウィリアムは楽しみなことがあると、前日はしっかり寝たいタイプだものな」


「父上! 僕の秘密を、勝手に教えないでください!」


「わぁ、すごいね、ウィル。ボクは楽しみだと寝れないんだよ」


「ふふふ、そうなんだね。僕も昔はそうだったんだよ。今度、眠れるコツを教えてあげるね」


「本当に? 嬉しい! 寝たらあっという間に朝でしょう? だからね、楽しみな時ほど早く寝たいって思ってたんだ」


 可愛らしい会話に耳を傾けていると、「コンコン」と扉をノックする音が聞こえる。


「陛下、そろそろお時間です」


「もう、そんな時間か……ウィリアム、パーティーの挨拶を楽しみにしているよ。クリス、今日はウィリアムを守ってくれてありがとうね。レオン殿も――」


「分かった分かった。俺はクリスのために動いたまでだ。感謝しなくて良いといつも言ってるだろう? 動きたければ勝手に動くから、気にしなくて良い。ほら、クリスはウィルと明日も会えるのだから、帰って飯を食って寝るぞ」


「うんっ! ウィル、また明日ね! 皇帝陛下、お祖父様、お先に失礼します」


「あぁ、ご苦労だったな」


「今日は遅くなるから、婆さんをよろしくな」


 ジョセフに大きく頷いたクリスを抱き上げたレオン殿が、サクッと転移なさった。さて、我々は夜のパーティーの準備をしなくてはだな。私はジョセフに警備体制を昼間より厳重にするように伝え、身支度のために、自分の部屋に戻ったのだった。

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