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【完結】小さな光と、その軌跡 ―隠された幼子と神獣の物語―  作者: 月城 蓮桜音
第一部

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第66話 歩む方向が揃った日

 クリスが公爵家の森から解放され、証拠は十分だと『動画機』の中身の確認が終わった日の翌日から、クリスとウィルは、城と辺境伯邸を往復しながら共に勉強をするようになっていた。そんな落ち着いている日々が二ヶ月半ほど過ぎた頃。ウィルが皇太子になることを発表するパーティーが開かれることになった。勿論、その前に立太子の儀式がある。


 儀式では、ウィルが名を呼ばれ、皇太子だけが持つことを許されるブローチと懐中時計が、祝いの言葉と共に皇帝から手渡される。後はウィルが、皇太子として励むといったことを宣誓すれば終わりだ。我とクリスはその後に行われる、成人していない貴族の令息や令嬢が集まるパーティーだけに出る予定だった。大人は夜のパーティーに出るからだ。


 成人していない皇太子の場合、他国にお披露目するのは成人してからになる。なので、今回は帝国内だけのお披露目パーティーだ。未成年のパーティーでは、十歳未満の幼い子どもにだけは、保護者がつくことを許される。ウィルと近い年齢だからな、親が紹介しようと張り切るのも、分からんではない。

 

 だが、ウィルの近くには、誰も近寄ることができずにいる。それは、まだ側近が選ばれていないと思われているウィルの側に侍(はべ)っていたのが、クリスだからだ。この世の者とは思えぬ美しさ、微笑んだ時の愛らしさに、誰もが見惚れ、呆けてしまっていた。そして、まだ四歳になったばかりのクリスはとても小さく、誰もが庇護欲を駆り立てられるようだった。


 ウィルも中々のイケメンなのだが、クリスの隣にいると、少し霞むと言うか……恐らくウィルは、それを見込んでクリスを侍(はべ)らせているのだろうけどな。自分に向けられる秋波や、僻(ひが)みを分散させるためにも、見目の良い貴族を数人、側近にほしいところだろう。


 ああ、そうだった。クリスは、宰相の姓である『ガルシア』を名乗ることになった。ウィルに侍(はべ)るクリスを紹介する時に、辺境伯の名を出すのはマズイと。権力が辺境伯の身内に偏ってしまうことが公になるからだ。


 そこで、相談したのが宰相アルバート=ガルシアだった。ガルシア公爵家には跡取りがおらず、親戚の子を養子にする予定だったのだが、まだ決まっていなかった。クリスがティアに戻るまでの数年間だけだが、ガルシア公爵家の名前を借りられることになった。こんなにも美しい子どもが、爵位が低いことで無茶な命令でもされたらと心配していたから良かったと思っている。ウィルの隣に立っていても、文句を言える者はいなくなるからな。勿論、皇帝の許可ももらったぞ。


 恐らく、男の子の声変わりが目立つのが十四歳辺りらしいから、できるならば十歳前後には、クリスはティアに戻らなければならない。体型も女性らしくなっているかもしれないからな。それまでは、我もクリスとウィルの護衛として共に過ごすことになるようだ。そのために、我のサイズで騎士服も作ってもらったぞ。だから今日も、キラキラしている二人の近くで様子を見ていたのだった。


「ごきげんよう、騎士様。貴方様は初めて見るお顔ですわね? ウィリアム殿下の専属騎士なのかしら。お名前をうかがっても?」


 我の……俺の斜め後ろから声がする。今の俺は護衛だから、クリス達から目を離せない。仕方なく、クリスたちの方に視線を残したまま、対応する。


「ん? 俺はレオンだ。ウィリアム殿下とクリス……ガルシア様の護衛をしている」


「やっぱり、あの小さくてキレイな子も高貴な方なのね。わたくしに紹介してもらえないかしら?」


 ん? 自分で行けば良いだろう。ああ、人間は高貴な人間側から声をかけない限り、話すことができないのだったか? この令嬢は、公爵家より下の爵位なのだろう。どちらにしろ、俺は動く気はないがな。


「無理だ。俺に彼らを動かす権限はない」


「まあ! もう、仕方ないわね。じゃあ、貴方様がこちらを向いてくださいな」


 はあ? 今度は俺だと? ただの面食(めんく)いなだけじゃないか……これから何度も声をかけられるのは面倒だな。この令嬢をあしらったら、クリス達の近くへ戻ろう。ほんの少し離れただけで声をかけられるのだから、クリスたちに張りついておいたほうが良さそうだな。


「無理だ。俺は、二人から目を離すことはできない」


「つまらない人ね! ふんっ!」


 クルッと踵(きびす)を返して去って行く令嬢の気配が遠退くのを確認してから、クリスたちの下へ戻った。


「レオン殿、伯爵令嬢に声をかけられていたようですが、大丈夫でしたか?」


「ああ。ただの面食い令嬢だった。俺は騎士爵扱いだったか? こんなにすぐ声をかけられるとは、面倒だな……」


「ああ、そのことなのですが。父上に相談したのですが、レオン殿は、隣国の貴族で高貴な身分ってことにしませんか? レオン殿も見目が良いですから、恐らく女性たちから声をかけられることは避けられないでしょう。ですから訳アリで、僕たちの護衛という『建前』で、帝国に『留学』する予定なんてどうですか?」


 ほお? 俺も学園に通わせたいのか? 『留学』するなら、普通は学園に入るのだろう? まあ、それならどこであっても隠れずにクリスを守れるのだから、アリではあるか。


「ほお、それは助かるな。身分が上なら、話しかけることはできないのであろう?」


「学園に入るまでになりますが。それ以外であれば、どんな理由であっても、皇族や辺境伯、公爵家以外から声をかけられることはありませんから安心してください」


「学園では話すことが許されているのか?」


「そうですね。誰もが等しく学び、国を担う役職へ就くことを目標に入る人間ばかりですからね。お互いが切磋琢磨するために、皇子であっても話すことが許されるのです。特に帝国学園を卒業した文官は、とても優秀だと言われていますから、しっかりと勉強して成績を残せば、就職にかなり有利なのですよ。意欲的に学ぶ者が多いからこそ、垣根なく学ぶべきだと、五代ほど前の皇帝陛下が作ったルールだそうです。女性の場合も、女官や教師を目指す者が多いですね。それ以外は、将来のお相手を探したり……家の力を維持するために、仲間を作ったり?」


「なるほど……それでは、ウィルが入学した時には、学園は大変なことになるのではないか?」


「それが、学園には『飛び級』という制度があるのです」


「あぁ、早く卒業できるアレか」


「ご存知でしたか?」


「まぁな。新学期が始まるひと月前までに申告して、筆記試験に受かれば、半期の座学は免除。翌日の試験で、残り半期の座学も免除される結果を残せたら、実技の試験をするんだよな。基本学級へ出席し、数日後の実力テストをクリアすれば、次の学年からスタートできるんだったか」


「そうです。それが本(・)来(・)の(・)飛び級試験ですね」


 ん? 意味深な言い方だな。何だか面白そうではあるから、危険でなければ付き合うつもりだがな。


「ウィル、何を企んでいるのだ?」


「ふふっ、それは近々分かります。楽しみにしていてくださいね。この場で詳しくは話せないのですよ」


 楽しそうな皇太子と、目をキラキラさせて学園の話を聞いているガルシア公爵家の令息。それに皇太子相手に、不敬な物言いをする子ども(俺)。確かに、俺たちはかなり目立っていた。この視線の中、内緒話はできないだろう。それに、少しおかしい関係だしな。


「ウィル。俺が愛称で呼び捨てしているのだから、そなたも呼び捨てで良いぞ。『レオンくん』という呼び方は、クリスだけに許した呼び方だからな。そなたは呼び捨てにしてくれ」


「え? ……良いのかい? ちょっと恐れ多いのだけど」


「だがな。例えば俺が隣国の王子だったとしても、俺らの立場は対等でなければおかしくはないか?」


「そうなのですが……」


「ほら、未だに敬語が混ざるだろう? 俺とクリスとウィルは、お互いがお互いを対等に扱うと決めようじゃないか。クリスも良いよな? ウィルは友達なんだろう?」


「うんっ!」


 クリスがとても良い笑顔で大きく頷いた。ウィルも俺も、そんなクリスが可愛くて仕方がないと言う気持ちは同じだと思うしな。周りからは「キャー!」だの、「可愛いー!」だのと黄色い声が聞こえているが、俺らは振り向きもしない。


「そ、そうか。じゃあ、クリスは僕の親友だね。これから勉強もそうだし、色んなことを一緒に経験して行こう。僕が皇帝になる時には隣にいて、国を良くするために一緒に考えてくれないか?」


 な、何だかプロポーズみたいだな? だが、クリスは辺境伯であるジョセフの血を濃く継いでいるからな。国のために魔物の森を管理する祖父をとても尊敬しているのだ。そんなクリスの答えは……


「うんっ! ボクもウィルの役に立てるように……たくさんお手伝いができるように、勉強も魔法も頑張るね!」


「ありがとう、クリス! 君が隣にいてくれて、とても心強いよ! 僕は、皇帝という立場がどれだけ大変か分かるから、父上を羨ましいと思うことはほとんどなかったんだけれど、ジョセフやジョエル、宰相との関係だけは羨ましいと思っていたんだ。僕にも信用できる仲間ができて、とっても嬉しいよ!」


 ウィルとクリスの眩しい笑顔に、周りからはまたまた黄色い声が上がる。ハッキリとは何を言っているか分からないだろうが、これでクリス(ガルシア公爵令息)とウィル(皇太子)がとても仲が良いということだけは、周知の事実となっただろうな。

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