第62話 皇族との会食 ★皇帝陛下 SIDE
翌日の夕刻、約束の時間。食卓には、料理人が腕を振るった料理が所狭しと並んでいる。子供が好きそうなデザートなども大量に作らせた。そこへ、双子の爺さんとクリス、そして当たり前の様にレオン殿がいらっしゃった。『クリスの保護者』と言われていたレオン殿だ。こちらもしっかり人数に入れてある。
「良く来てくれたね。クリス、こちらにおいで」
子供……3歳児にしてはしっかりした足取りで……改めて見ると、姿勢も所作もピシッとしているな?子供の中に、貴族として長く生きて来た紳士が入っている様だ。顔つきは幼く、穏やかではあるのだが、息を呑むほどの美しさが、少々近づき難い印象にしているようだった。
「クリスよ、今日は存分に楽しんでおくれ?私の自慢の料理人が腕を振るったのだよ。好きな物を好きなだけ食べると良い」
「ありがとうございます、皇帝陛下」
「今日は、一昨日の騒動の褒美を与えたいと思ってな。クリスは何か欲しい物があるかい?土地でも爵位でも良いから、欲しい物を考えておいてくれるかな?」
子供が欲しがる物ではつまらないだろうと、先に与えたい物を伝えてみたのだが…………
「ありがとうございます、皇帝陛下。ですが、ボクは土地も爵位もいりません。それらに責任を取れる歳でもありません。可能であれば、祖父の手伝いをしたいです」
「そ、そうか。クリスはきっと、ジョセフに似たんだな……とても子供らしくない現実的な回答で、正直、驚いたよ……」
「「ブハッ!!」」
私とクリスのやり取りを見ていたジョセフとジョエルは、我慢出来ずに吹き出してしまった様だ。ウィリアムは必死に笑いを堪えているな。レオン殿だけが、ウンウンと頷いていた。恐らく、人間の『常識』を教えたのはレオン殿なのだろう。神獣のレオン殿が、1番人間っぽい考え方をしている気がするな。
「取り敢えず、先ずは食事にしよう。折角の料理が冷めてしまうからな。ジョセフ、席へ案内してやってくれ。クリス、飲み物は何が良い?」
「特に好きな飲み物はありません。珍しい物を飲んでみたいです」
「そうか、そうか。君、珍しいジュースを出してくれるか。レオン殿は…………」
片手にワイングラスを持ったまま、既に香りを楽しんでいるレオン殿の姿が見えた。見た目が子供のせいで、ちょっと危ない人に見えるが。
「やはり、レオン殿は賢者様と同じで、長く生きていらっしゃるのですね?」
そんな姿を見たウィリアムが、レオン殿に質問していた。
「あぁ、そうだ。我は賢者のエルフより長く生きているぞ。説明が面倒だから、正体はいつか教えてやろう。皇帝よ、早く食おう。我は腹が減っているのだ」
人型なのに、一人称が『我』になっていらっしゃるな。ほろ酔い気分なのだろうか?あまりお酒は強くないのか、気になるな。
「ははは!そうですな。それでは……ゴホン。この度はご苦労であった。これからも帝国のため、民のためによろしく頼む。乾杯!」
帝国の作法では、主催した者が乾杯の音頭を取り、参加者は手に持った杯を高く掲げ、同意を示す。このテーブルについている全員が掲げてくれた。ウィリアムが知っているのは当然だと思えるが、まさかクリスも知っているとはな。掲げるタイミングまでバッチリだった。
「クリスは、ジョセフの身内贔屓では無く、本当に賢いんだな。記憶力が凄いのか?それに魔法まで使えるのだろう?」
「陛下、クリスは興味のある事には集中力が途切れないのです。勉強はレオン殿と賢者殿が教えてくださった様ですが、きっと教え方も素晴らしかったのでしょう。今でも辺境伯にある本を全て読み尽くし、暇を持て余している様です」
ジョセフが自慢気に話している。自慢の孫なのは分かるが、自分の事のように嬉しそうだな。そうか、クリスは暇なのか。
「では、ウィリアムと勉強してみてはどうだ?皇太子になる事が決まったからな。帝国の歴史も、もう少し深く学ぶための資料もあるし、歴史に関する古語の秘蔵書も読めるのだが……」
『古語の秘蔵書』と、私が発音した瞬間……本当にその瞬間、透き通っている真っ赤な瞳がキラキラと輝き、興味を示したのが分かった。
「クリス、僕と一緒に勉強しよう?書庫の鍵は僕も持ってるから、僕と一緒に居れば、いつでも行けるからね」
クリスを側近にしたいと私に相談していたウィリアムは、ここぞとばかり、自分の権力をしっかり使って誘っているな。皇族であれば、そうあるべきだと思っている。欲しい物は、待っていても手に入らない。使えるものは何でも使って、自分から動いて掴み取るべきだ。
「うん。古語の本、もっと読みたい……」
本当に賢いんだな。まだ3歳だろう?あと数ヶ月で4歳だと言っていたか。それにしても、これこそ天才……神童と言うやつじゃないのか?ウィリアムの近くに居てくれたなら、お互い良い刺激になりそうではあるな。
「クリスは古語が好きなのかい?」
「はい。古語の方が、歴史書でも、物語でも、書いた人の感情を読み取りやすくて、とても興味深いです。ボクも、知らない古語の本を読みたいと思ってました」
「それは丁度良かった。なぁ、ジョセフ、ジョエル。クリスも一緒に城で勉強するのは構わないよな?」
ジョセフは何か言いたそうな表情でいるが、昨日の話をする訳にもいかず、言葉を躊躇っているな。ジョエルは普通に感心しているようだった。
「クリスはもう、古語も読めるんだな!じーちゃんは、古語だけはどうしても苦手だった……クリスは凄いなぁ!」
レオン殿やジョセフ、何故かウィリアムもウンウンと頷いている。
「ジョセフ、良いでしょう?僕も、1人で進めるより捗ると思うんだ。皇太子教育は、物凄い量を勉強すると聞いたよ。クリスは賢いから、きっと僕の成長にも良い効果があると思うんだよね」
お?勉強に対する意欲を伺える、ウィリアムの『お願い』に、少し揺れているな?これなら、もう一押しだな。
「お祖父様。ボク、ウィルと勉強したい。もっと沢山勉強して、誰かの役に立てるくらい賢くなりたい」
おぉ……珍しくジョセフの顔が崩れたな。これはクリスの勝ちだろう。クリスはあまり我が儘を言わないと聞いているしな。祖父としては、願いを叶えてやりたくなっているはずだ。
「クリスはもう既に、とても賢いと思うんだがなぁ……それに、第二皇子の近くに居るという事は、危険もあるんだぞ?それも皇太子になられるのだから、何かあった時には、臣下であるクリスは、体を張って守らなければならない」
「あ、そっか。じゃあ、ボクがウィルを守ってあげるよ。ボク、悪意からも守れる結界を張れるし、丁度良いんじゃないかな?」
ガックリと肩を落としたジョセフと、「勇ましいな!」とはしゃぐジョエル。これで決まりだな。
「ジョセフの爺さん。クリスは我が守ってやるから大丈夫だ。クリスの好きにさせてやってくれんか?」
完全に酔いが回って、目がトロンとしているレオン殿が、最後の一押しをしてくださった。
「はぁ、仕方ない。それでは当分の間、クリスはウィリアム殿下の護衛として、一緒に勉強をする事を許そう。但し……四六時中一緒に居るのは、今はまだ難しいのだよ」
「お家の事……?」
「あぁ、それなら良い手があるぞ。先ずは猪を狩って……むぐっ!」
レオン殿は酔っているから、ウィリアムに聞かせられない事まで話そうとしていた様だ。レオン殿の口に、大きなチキンレッグを突っ込んだのはジョエルだな。ジョセフはホッとしていた。
「モグモグ、ゴクン。悪い、悪い。おふざけが過ぎたな。皇帝よ、後でゆっくり話そう」
「分かりました。ウィリアム、クリス。デザートは応接室に準備させるから、そちらで一緒に今後の勉強について話して来ると良い。
大人の話はつまらないだろうからな。飽きたら図書館を案内してやってくれるか?ウィリアム」
「はい、かしこまりました、父上」
「ありがとうございます、皇帝陛下」
「うむ、楽しんでおいで」
子供たちが退室するのを見送って、我々大人は今後の事を話し合う事になったのだった。
いつもお読みくださり、ありがとうございます!
少しでも面白いと思ってくださった方は、是非★とリアクションのスタンプをお願いします♪




