第52話 森の異変
城から辺境伯の屋敷へ瞬時に移動して来た我々は、ジョセフを屋敷へ残し、我とクリスで魔物の森の中へ入った。ジョセフは、双子や戦力になる者を率いて後から来る様だ。コトラはいつも通り、何かあった時のために森の入り口で待機している。
「クリス、我がフェンリルの姿に戻り、サクッと森の奥まで行ってみるか?」
「そうだね、まだ全然遠いよね?気配は、国境を少し帝国側に入ったぐらいかなぁ?」
「と、言う事は……100km以上離れているな?やはり近くまで様子を見に行ってみるか?」
我はフェンリルの姿に戻り、感覚を研ぎ澄ませて国境辺りを念入りに確認する。
『ふむ、確かにいるな。こちらが対応出来ない様に、あの場で命令してから間髪入れず、それなりのスピードで移動して来ると思っていたのだが……これは、団体で固まっているな?まるで相談している様だ』
「ボクもそう感じるよ。魔物って意思の疎通が取れるんだね?」
『その可能性があるな。これまでは、魔物は知性がないと言われているから、新たな発見となるか。エルフには伝えなければ……』
「それは後で良いんじゃ無い?固まっている数が一気に森から現れたら防ぎ切れないと思う。お祖父様に、森から出て来た魔物を取り逃さない様に伝えて貰っても良い?」
『まさか、我らだけで突っ込む気か?』
「ボクが魔法を使えば、討ち漏らした数の方が少ないでしょう?弱いのはお祖父様や兄様たちに任せられるから、ボク達は『ヌシ』クラスの魔物を中心に減らそうよ。その方が被害は出ないと思う」
『ふむ、確かにな。『ヌシ』クラスはどれくらいの数いるか分かるか?』
「総勢7万匹ぐらいで、弱いのが6万匹。それなりが1万匹」
かなりの数だな。クリス1人で対応するには厳しい。そうなると、討ち漏らした魔物の数もそれなりになるだろう。
『そうか、ちと待て。爺さんに確認を取る』
こういう時は、辺境伯に詳しい爺さんに相談しておく方が良いだろうからな。何かあったとしても、柔軟に対応してくれるだろう。
『爺さん、クリスが言うには、総勢7万匹、雑魚6万匹、それなりが1万匹らしい。クリスの戦略としては、雑魚は最悪、爺さんと双子で何とかなるだろうから、我とクリスで『ヌシ』クラスを中心に斃すべきだと言っている』
『…………怪我をしたら引くように、約束させてください。そして、斃すのは森の真ん中より帝国寄りで。20km地点辺りがありがたいです。直ぐに我々が向かえるだけでは無く、素材の回収するのに国境近くでは面倒ですし、争いが起こっても困りますので……』
『分かった……こんな時でもそなたは現実的なのだな。さすが辺境伯だと言えよう。敵は団体で、固まっている事から相談している様だ。知性がある可能性も高い。充分気を付けてくれよ』
『なっ!?大丈夫なのですか?本当に魔物なのですよね?』
『あぁ、魔物で間違い無いと思うのだが……数匹、魔物では無い可能性があるんだよな。それでも、大量に向かって来るのは魔物で間違い無いから、問題は無いと思うのだが……』
『人間が居た場合、殺めない様にお願いします。こちらで尋問する必要がありますので。クリスの結界に閉じ込められたら良いのですが』
『分かった。可能であれば、そうしておこう。お、魔物が動き出したから、緊急時か終わってから連絡する』
『ご武運を!』
『クリス、お許しが出たぞ。但し、森の入り口から20km辺りで斃してくれと言っていた。後は、怪我をしたら引けと』
「20kmはギリギリのラインだね。21km地点で上から『ヌシ』クラスを斃して……余裕があれば、20km地点までに弱いのも斃そうか」
『一度に斃せる数はどれくらいだ?また増えたんだろう?』
「うん。動く敵の首を刎ねるだけなら1撃で100匹ぐらい?上から見てたらそれくらい余裕だと思う」
『そうか。我は21km地点にクリスを降ろしたら、人型に戻って雑魚を狩ってやろう。我に向かって来た魔物のみしか狩らないから、伯爵領側に多く流れない様に西側に立とうと思うぞ』
「それが良いね。あっちは地形が複雑だから、斃すのも面倒だもんね。ありがとう、レオン」
『あぁ、構わん。あ、そうだ。人が出て来たら、結界で閉じ込めて欲しいと言っていたぞ。それでは、21km地点に向かおうか』
「分かった!出発――――!」
ヒラリと我の背中に乗り、颯爽と森の中を駆け抜けるクリスは森の王者の様だ。普段から森へ足を運んで訓練をしているから、今では自分の家の庭だと思えるくらい、馴染みのある森となっていた。
我も、魔法を使うのは駄目らしいが、魔物を剣で斃す練習は大丈夫だった。どうやら神の力を使っていなければ、魔物を斃すぐらいは手伝っても良いらしい。
我の走るスピードは、時速80kmを超える。21km地点へは10分ちょっとで着いたぞ。我が走っている間、途中で邪魔になりそうな魔物を、クリスがサクサク斃していた。そう言えば、森のエルフは大丈夫なのか?別の空間に居るから問題無ければ良いが。
「森のエルフのお兄さんは、ボク達が居る事に気付いてるよ。だから、多分大丈夫だと思う」
『そうか。クリス、そなたは我の思考がハッキリと分かる様になって来ていないか?確かに、そなたの思考も読める事はあるが、感情が無いと全く感じられないのだが……』
我は考えが筒抜けなのは、少し恥ずかしいと思っている。クリスは多くを語らないが、的確に反応してくれるんだよな。
「あ、それは集中してる時だけだよ。のんびりしてる時は全く聞こえないから安心してね」
クリスの言葉にホッと息を吐いた我は瞬時に人型を取り、剣を握って振り向いた。
「我は西側に移動するが、クリスはもう上に行くか?」
「うん。何かあったら念話するね。レオンくんはボクが見えるギリギリの位置で狩るでしょう?」
良く分かっているな。我の目が届く範囲は10kmぐらいだから、我はクリスの位置から西に8km離れたぐらいで狩る予定だ。狩りに集中して、うっかり離れ過ぎてしまっても困るからな。
「あぁ、そうだな。何が起こっているかは我も分かるから、無茶しない程度に頑張るんだぞ?」
「うんっ!また後でね!」
我はクリスがシールドで小さな足場を作りながら、トントンと上へと向かっているのを確認しつつ、人型の姿を慣らすためにも軽く走りながら、西に8km移動するのだった。
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