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【完結】小さな光と、その軌跡 ―隠された幼子と神獣の物語―  作者: 月城 蓮桜音
第一部

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第51話 皇帝の愚痴 ★皇帝陛下 SIDE

「ウィリアム、今良いか」


 私は応接室を出てから直ぐにウィリアムの部屋を訪ね、扉を軽くノックしながら声をかけた。私の訪問に驚いたのだろう。部屋の中からは椅子がひっくり返る音がする。


「す、すぐに! クロウ!」


「はっ!」


 慌てて扉を開いてくれた護衛の横を通り抜け、書類仕事をしていたらしいウィリアムのデスクへ向かう。


「へ、陛下! ソファへおかけください。私もそちらへ参ります」


 立ち話をさせる訳にはいかないと慌てるウィリアムは、皇子ながらに気が利く男だと感心した。第一皇子ではあり得ないだろうな。これでまだ十歳。賢者のエルフ殿も知恵を授けたいと申し出てくださった。それ程の逸材だと言うことだろう。


「陛下? 大丈夫ですか?」


 心配そうに下から私を見上げるウィリアムは、本当に優しく良い男だ。きっと将来はモテるのだろうなぁなんて、つい現実逃避してしまっていた。


「あぁ、少し考え事をしていた。大丈夫だ。そなたも座ってくれ。長い話になるだろう」


「は、はい。皇妃と第一皇子、ロドリゲス公爵家と……侯爵家の当主も三人いましたね。そのことについてでしょうか?」


「あぁ、そうだ。さすがだな。そこの護衛は、話を聞かせても大丈夫だと思うか?」


 ウィリアムはしっかりしているから、これからはできるだけ彼に選択させよう。私が追い出せと言うのは容易いが、腹心だと思っているのであれば、この話を一緒に聞きたいと思うだろう。それとも、まだ若いから、自分で何とかしようと思うのだろうか。どちらにしろ、選択肢を与えないと自分で考えられない、第一皇子のような人間になられても困るからな。


「彼なら大丈夫かと思いますが……」


 私と皇子からの視線を受けて、護衛は慌てて手をブンブンと振っている。


「わ、私は直ぐに席を外します。今、お茶を用意しますので、少々お待ちいただけますでしょうか?」


「クククッ、そんなに緊張しなくても大丈夫だ。気遣い感謝する」


「は、はっ! ありがたき御言葉!」


 お茶を用意してくれた護衛は、感激しながら退室していった。まだ幼さが残っていて、一生懸命なところが可愛いな。


「陛下、それで……」


「誰もいないのだから、父上で良い。こちらへ訪れたことに深い意味はないから安心しなさい。私の部屋よりウィリアムの部屋の方が話しやすいと思ってな。それに、ジョエルに今の陛下では邪魔だと言われたのだぞ? 私が部屋を出るしかなかったのだ。気にするな」


 ガチガチに緊張しているウィリアムに、少しだけ笑顔が見えた。ジョエルはこういった時に緊張を和らげるのが上手いんだよな。それは私も見習いたいと思っている。まぁ、皇帝にはあまり必要のないスキルではあるが。


「ウィリアムも分かっているだろうが、第一皇子は廃嫡し、皇妃と共に北の塔へ幽閉か、最悪は処刑となるだろう。次の皇妃はそなたの母となるが、皇妃の座は空けておいても良い。いないほうがそなたがやりやすいのであれば、皇妃の仕事は今やってる者たちに回すからな。どうせ元(・)皇妃も、皇妃の仕事をしていたわけではなかろう?」


「あ、はい……皇妃の仕事ですが、後宮の管理以外の書類仕事は私が」


「何だって? 押し付けられたのか? 私のところには報告書が上がって来ていないが……」


「皇妃に押しつけられた際に、隠れて見ていたジョセフとジョエルが、私以外に任せると余計な仕事が増えるから頼むと……有無を言わさぬ威圧感で押し切られてしまいましたので……」


 あの二人が任せたのであれば、ウィリアムが適切な人材だったということだ。それもゴリ押しか……あの二人にしては珍しい。恐らく、彼らも次期皇帝の器であるかを確認したかった可能性があるな。先日成人した、第一皇子の勉強の進み具合などを報告して来たのもジョセフだった。きっと、帝国の未来を憂いたのだろう。あれが駄目なら、消去法で行けばウィリアムになることはほぼ確定している。だからこそ、ウィリアムの能力を試したかったのだろう。


「なるほどな……すまんな、知らぬうちに仕事を増やしていたようだ。そなたはまだ十歳。公務に携わるのは十五歳からだというのに……」


「それは問題ありません。図書館の本も殆ど読み終えてしまいましたし、学園は十二歳からですから余裕もあります。皇族として、他の者が進めている仕事を知ることも、勉強になりますので」


「そうか……それは殊勝(しゅしょう)な心がけだな。私は父としても皇帝としても、国のためにならない者を切り捨てなければならない。それが家族であっても、だ。そんな孤独な皇帝の座に就く後継者を、そなたが幼いからと言って放っておくことができない現状となった。近々、そなたを皇太子に任命しようと思う。これ以上、無駄な争いはすべきでない。分かってくれるか?」


「はい、父上。覚悟はしておりました。ですが、そうなると……」

 

 ウィリアムが言いたいことは、すぐに分かってしまった。そこまで彼女が気になるのか? 実際に会ってみて、ウィリアムの心が彼女に向いた理由は理解したが。まぁ、彼女は公爵家の長女クリスティアーナで間違いないことも分かったしな。当分はクリスとして身を守る必要はあるが、ウィリアムと婚約すれば帝国が彼女の後ろ盾にもなれる。ジョセフたちに相談してみるか。


「あの『願い』か? そうだな。彼女がそなたを受け入れてくれたなら、皇太子妃として私(・)が(・)認めよう」


「ほ、本当ですか? 奴隷かも知れないのに?」


 第二皇子であるウィリアムが、貴族図鑑を見ていないはずがない。公爵家の地下牢で軟禁されていた女の子をなぜクリスティアーナだと気づかないのか? ああ、確か公爵家の三男坊と仲が良かったか。妹を溺愛していたらしいからな。きっと、事故で双子がいなくなり、妹が攫われたと知って、打ちひしがれた彼を見ていたのだろう。そうであれば、彼女が公爵家にいる事自体を、あり得ないと思っていてもおかしくはない。次期皇帝らしく、事実から答えを導き出した結果なのであれば、皇帝の器だと褒めてやりたいぐらいだ。全てが明るみになってから聞いてみるか。


「ああ、そなたには苦労をかけるからな。彼女に無理強いしては駄目だぞ? ちゃんと口説いて、妃になると承諾させなければ、認めないからな。そなたの恋を応援するくらいはさせておくれ。私も、苦手だからと放置せず、元皇妃をもう少し大事にできていれば……少しは違っていたのかもしれないしな」


 大事にしていなかったわけではないが、分かり合えることはなかったな。元皇妃はロドリゲス公爵家の長子で、ロドリゲス公爵は私の行(おこな)う政治に口を出しては邪魔をしていたのだ。私が却下すれば、元皇妃が「お父様が可哀想だわ! もっと話を聞いて差し上げて!」と毎回懲りもせずキャンキャンキャンキャン……苦手にもなる。


「あれは……ゴホン。あの方に歩み寄るのは難しいかと。基盤を固めるための婚姻だったとお聞きしております」


「そなたの耳にも入っていたか。私の愛する妃は、そなたの母だけだ。あれが嫁では私が不憫だと、前皇帝が側妃を娶ることをお許しになった。元皇妃はそれを知っていたのだろうな。彼女に強く当たる姿が、どうしても許せなくなってしまった」


 つい、愚痴ってしまった。ウィリアムは聞き上手なのだ。そして、慰めるのも上手い……私が親なのだがな。


「陛下。この国は陛下と陛下の信頼出来る臣下によって、お祖父様の代より改革が進められたことで、より住みやすくなりました。その指揮をなさったのは、まだ皇太子だった父上だと聞いております。ですから、一つぐらい褒美をもらっても良いのではありませんか? 私の母は側妃ですが、父上の側にいることができて、自分はとても幸せなのだと、父上は素晴らしい方なのだと言われて私は育ちました。幸せになれる人間は、小さな幸せを見つけられる人間なのだと賢者のエルフ殿が仰っていました。あの方は、小さな幸せでは物足りず、全てを求めたから身を滅ぼしたのです。陛下のせいではありません」


「ウィリアム……そなたは男前だな。私もまだ、現役で頑張る予定ではあるが、そなたと妃がいてくれることで救われていた。本当にありがとう」


「父上、そんなに弱気にならないでください。私もジョエルたちの仕事を手伝いますので、今日だけは、どうぞ母上のところでおくつろぎください」


「ウィリアム――――――! そなたが私の息子で良かったぞ!」


 私は、早くに大人にならねばならなかった息子に感謝しつつ、直ぐに愛する妃の下へ行き、優しく慰めてもらったのだった。

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