第32話 森の中は素材の宝庫
森へと入った我らは、ゆっくりと先へ進む。その際に出て来る魔物を、ティアが片っ端から倒していた。
「そうそう!ティアは上手いね!これも素材になるよ」
最初、風の刃は3枚だったが、狙い通りに当てられるという事で、刃を1枚にして急所を一撃で倒す練習をしていた。斃した魔物を素材として回収するためだ。
「ティア、あそこの鹿の魔物は角が素材だよ。首を刎ねると良いよ」
「はーい!」スパンッ!
「ティア、あの魔物は魔石が素材なんだよ。魔石は首の下にあるから、胴体を真っ二つにするか、頭を頭蓋骨ごと真っ二つにするんだよ」
「はーい!」ズバッ!
テンポ良く魔物を狩り続けるティアは、言われた通りに狙いを定めて攻撃魔法を放っていた。素材の回収は爺さんと双子がやってくれるから、我はゆっくり前に進むだけだ。
「随分と進んだね。ティア、魔力はどれぐらい減ったか分かる?」
「んー、減って無い、かな?」
「うん、減って無いよ、ティア。使った分が、すぐに回復してるだけだけどね!」
アトラが元気に教えてくれる。ティアの具合が悪くなった時に、一番最初に気がつくのがアトラなのだ。だから、今日は初めての魔物の森という事もあり、アトラも同行させていた。
「ずっと風の刃を1枚だけだから、慣れちゃって減らないよね」
「そうか、減って無いか。魔法は使い慣れると使用する魔力量は減り、威力は上がるからなぁ。お祖父様、もう少し奥まで進みますか?」
ラウルが全く驚かなくなったな。ティアが可愛い妹である事実は変わらないと吹っ切れたのだろうか。
「そうだなぁ……これでは、ティアもつまらないだろうからな」
「属性の違う攻撃をしてみたらどうかな?氷も薄い刃にすれば、風には劣るけど、スパッと切れるんだよ」
ラウラが優しくアドバイスをしてくれる。イメージがしやすい様に説明が出来るのは、魔法が得意な者の特徴でもあるのだが、ラウラはさすがだと感心してしまうな。
「そうなの?じゃあ、次は氷でやってみようかな」
「ティア、あれは木に擬態してる魔物だよ。その奥にはさっきと同じ鹿の魔物もいるね」
「本当だー!魔力を感知して無かったら、すぐには気がつかないねー!」
氷の刃でもザシュ!ザシュッ!と全て1発で斃せたな。それにしても、ティアは魔物であっても、魔力の感知能力が高い様だ。
『さすがだな、ティア。あっという間に魔物の魔力を感知出来るようになったようだな』
「んー、そうだね?魔物かは分からなかったけど、何かいるのは気配で分かるでしょう?気配より魔力を感知する方が、少しだけラク?気配よりは気づくのが早いかな」
「ティアは魔物の気配も分かるのか……」
これには3人とも驚いていたが、精霊の存在をはっきり分かるティアであれば、魔物の気配の方が分かりやすいだろうに。まぁ、精霊が見えない、普通の人間の感覚では無理なのだろうな。恐らく、ティアの感覚が特別なのだろう。
「魔物の魔力を感知する能力は、沢山肌で感じて慣れるしかない。だから、本来ならば魔物と沢山戦うしかないのだが……」
爺さんも驚いていると言うか、呆れているか?何を教えれば良いのだ?とでも考えていそうだよな。まぁ、攻撃も今のところ属性を変えても100発100中だし、威力も申し分ないもんなぁ。現状は森の中を散歩しているついでに、魔物を狩っているだけだからな。
「兄様たちの教え方が上手だからだよ。本で読んだから少しだけ知ってたけど、使うのにはコツがいるよね」
「それを言葉で理解するのも凄いと思うけどね?ねぇ、ラウル」
「本当にね。このまま進んだら、『ヌシ』まで斃せるんじゃないかなぁ?」
『ん?ヌシとな?』
「魔物の森の奥にいる、大きくて強い魔物です。この森の魔物のボスと言いますか……」
『1匹だけなのか?』
「不思議な事に、今いる『ヌシ』を斃すと、翌日には新たな『ヌシ』が居るらしいのです。強さとしては、私たち双子とお祖父様の3人でギリギリでしょうか?」
『ほぉ?そなた達は戦った事がある様な言い草だな?』
「森の手前では魔物を狩るのも余裕になった頃、つい森の深くまで入ってしまった事があるのです。魔物は傷をつけてしまうと凶暴化する恐れがあるので斃すしか無いのですが……」
「その頃の私たちはまだ幼かった事もあり、流石に2人で斃すのは無理だったので、お祖父様たちに手伝って貰いました」
『なるほどな。だが、この森の奥にも、そんなに強そうな気配はしないがな?』
「ああ、『ヌシ』は森の奥に足を踏み入れないと現れないのです。恐らく、『ヌシ』のテリトリーに入った瞬間に現れるのだと思われます」
『ほぉ……それでは、『ヌシ』は魔物では無いのではないか?』
「「「えっ?」」」
『空間魔法を使えるのは、我やエルフの様に、長く生きた個体である事が多い。賢い魔物だったとしても、寿命の短い魔物が知恵を持ってテリトリーを築けるほどの魔法を使えるとは思わないな』
「じゃあ、レオンも一緒に行って確認したら良いよ。兄様たちとおじいちゃまがいれば斃せるんでしょ?そこまでは、このまま進んでみようよ」
「えっ!ティア、それは危ないと思うけど……」
「そうだよ、ティア。私たちも斃すのに必死になる必要があるから、ティアをちゃんと守れるか分からないしね?」
『そこは我が居るから問題なかろう。我はそなた達を見守りながら、ティアを守れば良いのだろう?それに、ティアの防御魔法が掛かっているからティアも危険は少ないし、そなた達もかなり有利に戦えると思うが』
「確かにそうですな。この状態であれば、いつもよりラクに斃せるでしょうな」
保護者である爺さんが大丈夫だと言うのであれば、恐らく問題は無いのだろう。双子が幼かった頃に出会ったと言っていたから、今の双子なら少し余裕があるかも知れないしな。そうで無ければ、爺さんから許しが出るとは思えない。
もしくは……そのテリトリーには、何か重要な秘密があるとか?この森に関する事なのかも知れないから、行くだけ行ってみるか。今のティアなら思った場所に攻撃出来ているし、後方から攻撃支援する事も出来るだろう。
『ふむ。取り敢えず、それらの荷物が邪魔だな』
「あ、確かにそうですね」
「仕方ありませんな。そこの木に括り付けて置きましょう。最悪は魔物に荒らされてしまうかも知れませんが、荷物がある事で戦闘に支障が出る事は避けたいですからな」
爺さんはさすがだな。双子とティアを優先するならば、やはり荷物は無い方がいいからな。……仕方ない。今回は折角ティアが斃して得た素材だし、ここは少し助けてやろう。
『そうか。爺さん、素材はどちらの屋敷に保管するのだ?』
「辺境伯の倉庫です」
『ふむ、良いだろう。今からここ辺りに、辺境伯の隠し部屋とを繋ぐ空間を作るから、取り敢えずはそこに放り込んだら良い』
「そんな事が出来るのですか?」
『空間魔法を使える者であれば……ちゃんと空間を閉じれる者なら使えるな。昔、空間を繋ぐ事は出来ても、閉じられないと大騒動した者が居たからな。空間魔法は個人差が出やすいから、誰しもが同じ様に使えると言う訳では無いのだぞ』
説明しながら辺境伯の隠し部屋と目の前の空間を繋ぐ。何も無い場所が四角く光り、そこを覗くと辺境伯の隠し部屋が見えた。
「す、凄い!レオン殿、ありがとうございます!」
「本当にありがとうございます。これらの素材は、我らが領の大事な資源なのです」
『ああ、分かっておる。畑や家畜を頑張って育てても、魔物の被害に遭えば、安定した収入が得られないからな』
「その通りです。レオン殿、心より感謝致します」
爺さんまで丁寧に礼をしてくれた。これで憂いは無くなっただろうから、早速出発しよう。
『これで安心して『ヌシ』の元へ向かえるだろう。我とティアが前を歩く。双子は我らの後ろを2人並んで着いて来てくれ。爺さんは殿を。最悪、分断されても爺さんなら生き残れるだろうからな』
「ほほほ、レオン殿に実力を認めて頂けた様で嬉しいですな。しっかりと殿を務めましょう」
我は大きく頷き、森の奥へゆっくりと足を踏み入れるのだった。




