第30話 魔物の森へ ★ジョセフ SIDE
今日はレオン殿に、魔物の森を案内する事になりました。予定通り、新しい服を着たティアも連れて行くと仰ったので、双子も一緒に連れて行く事にしました。まぁ、ティアが行くのであれば、双子も勝手に着いて来るのは分かっていたのですが。
ティアにとっては初めて魔物との対峙となりますから、驚いて声を上げる事で魔物の注意を引いてしまう可能性があるのです。そして、ティアはまだ3歳で小さいですから、魔物も狙うならティアを狙うでしょう。ティアの騎士でいたい双子であれば、必ずティアを守ってくれますからね。
『ティア、魔物と動物の違いを覚えているか?』
屋敷を出て、少し経った頃。レオン殿はやっとテンションの落ち着いて来たティアに、質問を始めました。勉強のおさらいの様ですね。
「うん!えっと、食べられるのが動物で、素材にしかならないのが魔物。魔物には心臓の代わりに魔石が入っていて、どうしても倒せない時は魔石を砕くように攻撃をするんだよね?」
『ああ、そうだ。今日は双子も居るし、弱い魔物を攻撃させてもらうと良い。魔物は動物や森を荒らす、害獣だからな。頑張って討伐するのが強い者の務めだぞ』
「そっか、分かった!」
レオン殿の背中に乗ったまま、魔物について話をしている2人に、双子が苦笑いしておりますな。恐らく、レオン殿が居たら魔物は寄って来ない可能性が高いと思っているからでしょう。レオン殿の質問の邪魔をしない様に、双子がコソコソと話を始めました。
「レオン殿は気配を消せると思うから、弱い魔物なら来るんじゃ無いかな」
「そうだね。多分、そこは大丈夫だと思うよ。それにしても、ティアが魔物を攻撃しやすい様に、魔物が『害獣』で『駆逐するのが務め』だと教えてたね。ティアの事をよく分かってくれているって感心しちゃったよ」
「本当にね。レオン殿には改めてお礼をしたいよね。公爵の件が落ち着いたら、ティアも喜ぶ様なパーティーをしようよ。パーティーだったら、ラウラが準備したいでしょ?」
「うん、私が準備したい。喜んでもらえるのは嬉しいからね」
「それにしても、ラウラの話し方、普通になっただけなのに違和感が半端ないね」
「ははっ、それは仕方ない。頑張って慣れてよ。私も慣れて無いから、たまに淑女っぽい話し方になりそうなんだ。喉には優しいけど、この声で淑女の話し方はちょっと自分でも嫌だしね」
「まぁ、そうだな。理由を知ってるから笑う様な事は無いけど、違和感は凄そうだもんね。それにしても、見た目はそっくりなのに、ラウラは喉を酷使していたからか、私とは声の高さが違うというより声の質が違うよな?」
「そう?まぁ、ラウルの声は男らしい感じで分かりやすくて良いんじゃない?見分けがつけられない人たちには声を出せば分かるだろうから便利だしね」
「わたしもラウラの今の声、好きだよ!」
双子の話にティアも入って来ましたな。ティアは何となく、ラウラがドレスを着なければならないのが大変そうだと思っていた様で、ラウラを慮った発言をよくしていたのですが、それがまた可愛いんですよね。
「ティアー!嬉しいわぁ!」
『くくく、淑女の癖が出ておるぞ、ラウラ。計画のためにも、少しずつ慣れて行かないとな』
「ん?計画?」
ティアがコテンと首を倒してレオン殿を見つめてますな。レオン殿は口を少し開いて「あ……」と音無く呟いた様に感じました。
『おっと、違ったな。今後の生活のためだ、せいかつ、な』
レオン殿が慌てて切り替えて訂正なさいましたが、上手いこと仰ったので感心しました。確かに、今後の生活に関わりますからな。
「そうだね!あ、そうだ。ラウラも兄様って呼んで良いの?」
「んー、そうだなぁ。私が、この姿と声に慣れたら呼んでくれるかい?まだ間違える事もあるから、兄様と呼ばれるのは恥ずかしいかなぁ。1年後の、ティアの誕生日までには頑張って慣れるから、その時から呼んでくれる?」
これまで、皆からラウラと呼ばれておりましたから、恥ずかしいのは本当だと思いますが、まだ気持ちの整理がついていないのだと思います。ラウラもあの男のせいで色々と大変な目に遭わされた被害者ですからな。これからは……復讐が終わるまでは難しいと思いますが、いつの日にか心穏やかに過ごししてくれたらと思います。
「うん、良いよー!でも、無理しないでね?動きが全く違うから、大変そうだなって思ってたの」
「ははっ、ティアは良く見てるね。さすがに10年以上、淑女教育を受けて来たから体が覚えちゃってるんだよね。潜入捜査するのには便利なんだろうなぁ」
賢いラウラは、経験を仕事にまで活かそうとしているようです。良かったのかは分かりませんが、強かな人間に育ってくれた様ですな……
『ラウラは諜報員になるつもりなのか?』
今のラウラの発言を受けて、レオン殿がラウラの今後が気になっていらっしゃる様ですな。
「はい。公爵家はラウルかジョバンニに継がせるでしょうから、私は最も得意とする、戦略や魔法を使った仕事に就きたいと、ジョバンニが生まれた頃から考えていたのです」
『であれば、魔導師で良いのではないか?名誉ある仕事だし、功績を挙げれば叙爵も受けられるだろう?』
「お茶会などで女性の本性を見てしまったと言いますか……なので、当分女性とは関わりたく無いのも本音ですが、出来るならば私は静かに暮らしたいのです。ティアが皇妃にでもなると言うのであれば、近衛騎士を目指しますけどね?」
ティアなら本当に皇妃にもなれそうですけどね。公爵家の令嬢で神聖力を使え、諜報員を動かせる女性ですからな?ほほほ。
『…………あり得るか』
「「ええっ!」」
「あ、あの、皇妃の話ですよね?あり得るのですか?」
冗談でなれそうだとは思いましたが、まさか本当になる可能性があると?
『いや、まだ公爵が代替わりするまではあり得ないだろう。その後は分からんがな。我の勘だから気にするな』
安心して良いのか悪いのか……
「レオン殿の勘というのが……違うと言い切れないですよね」
ラウラも同じ考えで安心しましたよ……
「確かに……だが、違って欲しい。第一皇子の妃なんて、苦労するのが目に見えてるじゃないか!」
一応、皇子は2人いるのですけどね。年齢的には第二皇子の方が釣り合うと思うのですが、『皇妃』と限定したから第一皇子だと思っているのでしょうな。第一皇子が皇太子に任命されるとは……私には思えないのですが。彼は既に23歳なのです。なのに、未だに立太子していないのが皇帝陛下の答えかと。陛下の御心を直接聞いたわけではありませんので、勝手な発言はしませんが。
『まだ先の話だ。そこまで心配する事は無いと思うぞ。ティアには我とエルフが居るからな。拒否しようと思えば可能だろう。なぁ、爺さん』
「確かに、そうですな。皇帝は信仰心の強いお方ですから。全面的に神話級の御二人が反対してくださるならば、どんなに求められても無理やり婚姻を結ぶのは難しいでしょう」
「ほっ、それなら安心ですね」
「まだお嫁に行っちゃ嫌だよ、ティア」
「うん?わたしは兄様たちやレオンみたいな人と結婚するよ!」
「『ティア!!』」
ティアのお陰で、何とか話がまとまった様ですな。まだまだ穏やかな老後は迎えられそうにもありません。ですが、退屈しない日々が待っていてくれそうですので、年甲斐もなくワクワクしている自分がいるのでした。




