第29話 早速の訪問
爺さんの屋敷から帰って来た翌日の朝。地下牢では沢山の動物たちと精霊が、わちゃわちゃしていた。早速、双子と爺さんが地下牢へ訪れたのだ。
「これは素晴らしいですな。魔力も少量で移動出来るので、何かあった時にはすぐに駆けつけられそうです。まさか、キッチンの食器棚の裏に出入口があるとは思いませんでしたが」
この家には小さなキッチンもあったのだ。当然今は誰も使っておらず、近づく者も居ない。そして、キッチンの食器棚の裏には、わざわざ覗き込まないと分からないが、ちょっとした空間というか隙間があったのだ。恐らく先人が、何かを隠していたのだろうと思われる。今では人がギリギリ通れる程度の隙間があるだけだった。
『我が許可した者しか転移出来ないとは言え、存在自体がバレないに越したことは無いからな』
「確かに。その通りですな」
頷きながら納得する爺さんの後ろでは、アトラたちがティアを揺すって起こしている。
「ティア、起きて〜！お兄さん達が、ティアに会いに来てくれたよ！」
「ウニャニャ！ウニャー！」
今日はアトラだけではなくコトラも参戦しているが、ティアは全く起きる気配が無いな……あれだけコトラの肉球で、ほっぺをぷにぷにされたら、ティアでなければ誰でも起きてしまうと思うのだがな。
「きゃあ！可愛い〜！ここには精霊たちが沢山いるのね！」
「本当だな……1年前も、こんなに多かったか？」
「いいえ。間違いなく、この1年で増えたんだと思うわ」
「あぁ、そうだろうね。それにしても、眠っているティアも可愛いなぁ」
「本当にね。早くまた一緒に住める様になりたいわね」
双子はほのぼのと精霊たちの行動やティアの寝相を眺めている。ティアはもっと頑張って起こさないと、ずっと起きないぞ？まぁ、子供だから仕方ないが。
「ふむ。今日はレオン殿を魔物の森へ案内しようかと思っていたのですが、明日にしましょうか？」
爺さんもティアたちを優しい目で見守りながら、今日は予告無く来たから仕方ないと思ってくれている様だな。
『ん？我はいつでも構わんから、そちらの都合で動いてくれるか』
「はい、ありがとうございます。ティアの服が明日には出来上がる様なので、折角ですから明日にしましょうか。きっとティアもその方が嬉しいでしょうからな」
ああ、昨日話していた、双子とお揃いの服の事だな。魔法や剣術を練習するには、ドレスでは無理だからな。早速準備してくれるとはありがたい。
『くくっ、それは良いな。こちらも精霊たちと上手く連携が取れる様になれば、もう少し長くそちらにも行けるだろうからな』
「可愛い精霊たちまでも手伝ってくれたのであれば、きっと上手く行く事でしょう。それで、ティアの剣術の稽古なのですが、体が小さいうちは基本を双子に教えさせようと思っておりますが、如何でしょう」
『ああ、剣術は任せるぞ。我には全く分からないからな。双子なら一生懸命教えてくれると信じられるし、爺さんがそうしたいならそうすれば良い。我は神聖力と魔法の方をしっかり教える予定なのだが、そなた達は魔法はどこまで使えるのだ？』
双子も一緒に練習すれば、ティアもきっと喜ぶだろうからな。そのためにも、双子の実力が如何程か確認しておきたい。ラウラも魔法は得意だと聞いているが、ざっくりし過ぎているからな。
「あ、その……これも秘密にして欲しいのですが、双子は魔法は帝国の魔術師並みに使えます。ラウラの魔法はそれ以上で、創作魔法も扱えます。神聖力も多少は持っているのですが、使えているのは防御魔法を少しだけですな。発現したのがティアの生まれた直後なので……」
『3歳までに出現していない場合、洗礼を受けている人間であれば報告の義務は無いからな』
「はい、その通りです。ですので、基本的に3歳で教会に囲われてしまう聖魔法使いが周りにはおりません。要は、神聖力の扱い方を教えられる者がおりませんので、彼らの防御魔法は独学なのです」
かと言って、教会に教えて欲しいと乞えば、神聖な神の信者として親元から離され、囲われてしまうからな。双子の場合は、神聖力なんぞ使えなくても魔法で何とか出来てしまうから、神聖力の習得は特に必要無いと判断したのであろう。
『なるほどな。では、エルフと我で、神聖力の制御から教えてやろう。ティアは既に神聖力も使いこなせるから、もう少し大きくなったら教えたりも出来るかもな？』
「「よろしいのですか？！」」
我と爺さんの話を聞いていた双子が声を揃えて喜んでいる。
『ああ、構わんよ。そなた達が聖魔法を使いこなせる様になれば、ティアはもっと安全に暮らせるのだろう？くくっ』
「もちろんです！」
「必ず守ってみせますわ！」
双子もティアと同じで、ティアのためになら頑張れるのだろう。ティアは周りの人間が傷ついたり苦しんだりすることを嫌うから、守れる人間が周りに増える事は良い事だと思うしな。
『学習意欲がある事は良い事だからな。若いうちに沢山学ぶと良い。近いうちにエルフも辺境伯領へ呼ぼうと思うのだが……許可は当日に取るべきだろうか。爺さん、どうしたら良い？』
「レオン殿とエルフ殿は、我が領への許可は必要ありません。私としましては、レオン殿が認めた人間……精霊たちも連れて来てくださっても大丈夫ですよ」
『それはありがたい。話が早くて助かるな。エルフは我が頼み事をするのもあるが、何気に日々忙しいからな。来れる時に勝手に来て教えてくれる様に言っておこう。最初だけは、我も同行して顔合わせはするがな』
エルフには直接会うのが難しい事も多いからな。あちらの都合で動いてくれた方が、我もラクなのだ。
「それは、こちらも大変助かります。必要な物がありましたら、双子か私に申し付けてください。辺境伯領であれば、何でも御用意出来ますから」
『それなら、ひとつ頼みがある。公爵の屋敷にも魔法の通行証の様な物があっただろう？確か『招待状』だな。それと同じ様に、我が認め、辺境伯に入る事を許したと分かるようにしたいのだ。しかし、それだけでは誰でも持つことが出来る』
「なるほど。それが何であっても、奪ったら使えてしまうから、個人を特定出来る『通行証』の様な物を、魔道具で作って欲しいと？」
『その通りだ。あんな説明で、よく分かったな』
「あはは……実は私も、公爵家へ潜入するためにと、『招待状』を捏造するなり、人から買い取るなりしたら良いと考えた事がありましたので」
『ああ、やはり考えたのか。我も気になっていたのだ。それで、公爵家には入れなかったのか？』
「あの男は、あれでも危機管理能力だけは高いのです。今回の様なパーティー以外では、毎回同じ人間しか入れない様にしておりました。食料品を持って来る者など毎日出入りする人間も、全て公爵の言うことを聞く……公爵家の事を口外出来ない様に脅されてる人間ばかりでした」
『何だと……ティアが寝ていて良かった。ティアには聞かせられない話だな。復讐の際には、その者達も解放してやれると良いな』
「はい。私もそう思います。魔道具ですが、難しい物では無いので、ティアにも手伝って貰って進めたいと思いますが……」
『ああ、それは良い。ティアも魔道具には興味があるからな。それにしても……正直、あれを難しくないと言うそなたも凄いと思うぞ。エルフなら作れるかも知れないがな』
「ほほほ、お褒めいただき光栄です。魔法はイメージが全てですからな。魔道具の場合は発想が全てです。人が考えられる物であれば、大体の物は作れます。それが人の暮らしを豊かにする魔道具であれば幸せだと……そう思いながら毎回作っておりますよ」
凄いな。作れると言い切ったぞ。エルフですら、「やってはみます」とか、「試作はしてみますが……」と口を濁す事が多いのだ。自信はこれまでの努力の裏付けだと我は思っているからな。きっと爺さんは途轍もない努力をして来たのだろう。そんな爺さんに育てられた双子も、これから習うティアも、きっと達人の域に達するんだろうなぁと……楽しみに思いつつも、やり過ぎない様に見守ろうと決意する我なのであった。
