第27話 朝の挨拶の為に暴露された秘密
風呂に飯にと、充実した時間を過ごした我とティアは、そろそろ帰る時間となった。あの意地悪な侍女が、地下牢を訪れる可能性があるからな。小鳥たちからの連絡も無いのでまだ大丈夫だとは思うが、念には念を、だ。そろそろ帰ると言った我の言葉に、双子と爺さんはとても寂しがり、せめて毎日挨拶だけでもしたいと我に願った。
「無茶なお願いだと分かってはいるのです。ただ、やっと会えたティアと、また1年間も離れ離れで暮らすなんて、耐えられません」
確かに、少し可哀想ではあるな。あの男を懲らしめる作戦を決行するための準備期間を1年間と定めたから、一緒に暮らせるのは更にその後となってしまうのだ。
『ふぅむ。地下牢……いや、それではバレた時に厄介か。そうだな、森の家を丸々一軒、我のテリトリーとするならば、この家と空間を繋ぐ事は出来るぞ』
「「本当ですか?!」」
『我が認めた人間しか通れないがな。他の人間が入った場合、悪意があれば弾かれるし、悪意無い人間が迷い込んでしまっても、そこへ戻って来るだけで転移はしないのだ。そして、森の家が我のテリトリーとなれば、公爵家に招かれていなかったとしても、家の中だけであれば公爵家にかけてある魔法も反応しないだろう』
「空間をテリトリーに出来るのですか?!凄いですわ、そんな事まで出来るなんて!わたくしたちですら、公爵家には入れませんでしたのに!」
まぁ、空間魔法を使える人間は少ないだろうから、仕方ないと思うぞ。エルフや我は、時間だけはたっぷりあるから使いこなせる様になったんだがな。
「お祖父様、伯爵領と繋いでもよろしいでしょうか?私が許可を得て参りましょうか?」
許可を得る?爺さんがそこにいるのにか?我がコテンと首を傾げたタイミングで、爺さんが「あっ」という顔をした。
「これも伝えておかねばなりませんな。こればかりは、ティアとレオン殿はご存じないはず。我が家の最大の秘密ですから、知らないのも当たり前と言いますか、知られていては困るのです。言葉では分かりづらいでしょうから……ラウル、呼んで来てくれるかい?」
「かしこまりました」
ラウルが扉を開けようと手を伸ばすと、ラウルが開ける前に扉がスーッと開いた。
「ワシはここじゃよ」
「何だ、話を聞いておったのか?」
「人聞きの悪い。ワシはティアに会いに来ただけじゃ!聞き耳を立てておった訳じゃないわい」
なんと、目の前に現れたのは、爺さんと同じ顔の男だった。もしかして、爺さんも双子なのか?
「ほほほ、もうお分かりかな?この者は私ジョセフの双子の弟でジョエル。我々は家族ですら見間違えるほど、似ていると言われるのですよ」
「じーちゃん!」
「お、おぉう!ティア、大きくなったなぁ!どーれどれ、じーちゃんが抱っこしてやろうな!」
「あぁ!じい様、腰に響きますよ!ティア、こっちにおいで。兄様が抱っこしてあげよう」
「あら、ダメよ。わたくしが先よ!」
いつの間にか、ティアを抱っこするのが誰かで争っているな……ん?ティアもじーちゃんと言っていたのだから、双子の爺さんの存在は知っていたでは無いか。それに、何かの許可を取るのだろう?我が困っているのに気付いた爺さんが説明してくれた。
「私とジョエルは、2人で伯爵領と辺境伯領を統治しているのです。どちらがどちらでも構わないのですが、一応別人として存在してなければおかしいですからな。辺境伯領は、半分が魔物の森に囲まれており、その森の終わり……辺境伯領の端が伯爵領と隣接しております。皇都に魔物が入らぬ様、魔物の森の魔物を間引いたり、森を抜けて訪れる隣国からの侵入者を捕える役目を担っております」
2人で……恐らく2つの家で、魔物の森を管理しているという事だろうな。1番強い魔物でも、爺さんや双子なら1人で倒せるだろう。練習や訓練にもなるからと、諜報員達も来るのであれば……なるほど、だから爺さんが未だに現役で教えているのだな。
『なるほどな。次回にでも見に行ってみるか』
「森に興味がおありですか?」
『まぁ、そうだな。魔物の森であればティアの魔法の練習にちょうど良いかと思ってな。魔物の様に動く相手がいなければ、いくら練習したって魔法も剣も、使い物にならんだろう?危なければ我が斃すから問題無いしな』
「それは良い考えですな。ラウル、ラウラ。2人とも辺境伯領で、ティアに作法や勉強などを教えてやったらどうだ?伯爵領でも人にバレる事は無いと思うが、辺境伯領なら間違い無くバレないだろうから、お前たちも動きやすいだろうし、ティアの事も安心だろう?」
「「やります!!」」
さすがは双子。声が被るのは当たり前なのだろうか。
「ねぇ、ラウラ。ラウラは森に行ってもドレスなの?」
ティアが、ラウラへ可愛い質問をしているな。きっと、ドレスでは戦いづらく無いのか?と言いたいのだろう。
「ふふふ。辺境伯領ではね、ラウルと同じ格好をしているわ。あの地なら、怖がりなお父様には絶対にバレないから、わたくしも自由なのよ」
「そうなの?」
「ええ。いつでも辺境伯領で待っているから、沢山遊びましょうね!」
「うん、楽しみにしてるね!でも、森に行く時は、ティアも兄様たちと同じ服が良いな」
「それは素敵ね!同じ服をすぐに注文しておきましょうね。サイズは測っておいたから、ピッタリで動きやすい服になると思うわよ」
「やったぁ!お揃いだね!楽しみにしてるね」
ニコニコと笑顔で話すティアは、年相応で可愛らしい。本来のティアは、この笑顔が当たり前だったのだろうな。それにしても、辺境伯領か……訓練するのを前提にするならば、辺境伯に転移出来る方が便利だよな。
『ふむ。ティアを公爵の森の家に帰してから、辺境伯の屋敷の部屋に細工をするかな。うーん……辺境伯には隠し部屋はあるのか?』
「ええ、ありますよ。私が案内致しましょう」
それは安心だな。我は大きく頷いた。爺さん達が管理している隠し部屋であれば、間違い無いだろう。
「辺境伯領の隠し部屋であれば問題無いと思いますが……レオン殿、もし可能であれば、辺境伯領の隠し部屋と、この伯爵領の隠し部屋も繋いでもらう事は可能でしょうか?辺境伯領は危険な場所です。子供たちがスムーズに逃げられるための保険と言いますか……」
『ああ、構わんぞ。そなた達が過保護である事は、この数日で充分に理解したからな。我が一緒なら大丈夫だとは思うが、だからこその『保険』なのだろう?くくっ』
「ご理解いただきまして、ありがとうございます。伯爵領の隠し部屋はあちらになりますが、先に見てから帰られますか?」
『そうだな。帰って来たら、すぐに辺境伯領へ飛びたいからな』
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
こうして、伯爵領の隠し部屋へ時空の綻びを作り、公爵の森へティアを送ってから、伯爵領へ戻って来た。
「お帰りなさいませ、レオン殿」
『こちから行くのは爺さん……ジョセフだけで良いのか?』
「可能であれば、双子も早めに移動させたいのですが……」
『確かに、その方が安心ではあるな。そうなると、セバスもか?』
「厳しいようでしたら、馬で駆けますのでご安心ください」
『4人だろう?それぐらいなら余裕だ。荷物があるなら、持って来ると良い。一緒に運んでやろうな』
「あ、ありがとうございます!助かります。荷物はいつでも動けるように常にまとめてあるのですが、後日馬車で運ぶ予定だったのです」
『よいよい。では、準備が出来たら呼んでくれ。爺さん、辺境伯の地図はあるか?どこら辺か座標を教えてくれ』
「かしこまりました。すぐにお持ちします」
こうしてバタバタしながらも、無事に辺境伯領へ到着し、隠し部屋同士を繋いだ。すぐに使えるから好きに使って良いと言ったら、爺さん達にとても感謝されたぞ。移動するためには、少し魔力を使うのだが、爺さん達なら大丈夫だろう。お土産にフィナンシェを貰ってから森へ帰り、我々の住む小さな家を丸々1軒、我のテリトリーにしたのだった。




