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第26話 義母との想い出

 我らは、公爵を失脚させるのは前提として、どうやって失脚させるか……いや、どんな復讐をするかを考えていた。当然、ティアの周りにいた人間や森の動物たち、そしてそれ以外にも復讐したいと思っている者は、少なからずいるだろう。だからこそ、あの男にとって、悪夢のような、酷い結末を迎えさせたいのだ。


「あの男の被害にあった者は、どれくらいの数いるのでしょうね」


 ラウルが顎に手を添えて考えている。この仕草は見たことがあるぞ。ティアが真似していたのは、ラウルのこのポーズだったのだな。


『我が知るのは、直接関与している3人。これは確実だな。後は、魔法が当たるまで追い掛け回された森の動物達や精霊も怒っていたか』


 直接では無く、被害にあった者たちのとばっちり……たとえばリリィの場合、代わりに仕事へ出る人間が必要だからと、休みを返上させられた者もいたからな。我々の知らぬところで迷惑を(こうむ)っている者も居るだろうが。


「なんと、森の動物まで……では、直接被害にあった人間は3人と言う事でしょうか?誰か分かりますか?」


 これまでの事を細かく把握しているのが、我とティアだけであると今さらながら気がついてしまった。しっかり共有しておかなければだ。


『1人目は……確か、グレンと言ったか?ティアの先読みで自分が刺される事を知った公爵が、その男で身を守ったようだ』


「叔父上ですね……公爵の弟にあたる……」


『そうだ、弟だと言っていたな。そして次が、ティアの侍女だったか?確か、リリィと言っていたな』


「くっ!リリィまで……彼女もティアの先読みで?」


 ラウルはティアの侍女ともいい関係を築いていたのだろう。とても悔しそうで悲しそうな顔をしている。


『そうだ。ティアはあの男にその事を伝える時、とても苦しんでいた。言わなければ自分が酷い目に遭い、言えば侍女が怒られると分かってしまったからだろう』


 その場に居た全員が納得したのであろう、ティアの気持ちを(おもんぱか)って、とても苦しそうな顔をしていた。


「リリィの現状は分かりますか?」


『あの男に殴られた事しか分からない。あの時はティアが傷つかぬ様に、リリィが殴られた事を誤魔化すので必死だったからな。それで……次は3人目だな。確か、あの男の乳母だと言っていたな。それもティアの先読みで知った。そして、自分のせいで苦しんだ人間がいると知ったティアは、今でも寝る前に祈りを捧げているし、昨晩も悪夢を見て泣いていたんだ』


「あの男め!優しいティアを散々苦しめやがって!」


 爺さんとラウルから、「ギリッ」という歯を食いしばる音が聞こえた。こんなにも怒ってくれる者が近くに居たというのにな。あの事故が、全てを狂わせた……いや、違うな。あの男が全て悪いのだ。あの男がティアを閉じ込めたりしなければ……せめて母親と共に居たならば……ティアは1年前の人生でも、皇都を焦土と化す事は無かっただろうと、今ならば思う。


『あとは……あえて言うなら、バーバラだろうな。ティアが攫われたと聞かされた時、探してくれと必死に(すが)りついて泣いていた。ある意味、1番の被害者なのかもな?』


「お義母様……ティアを溺愛していらっしゃいますからね。今もご存じでないのなら、苦しんでおられるのでは?」


「あぁ、それは問題ない。状況を確認してすぐ、バーバラの元へ急ぎ戻り、地下牢にいる事を伝えておいた。私が顔を出した時には、今にも消えてしまいそうだったのでな。知ってすぐに伝えてあるから安心しなさい」


 爺さんは、安心させる様にラウルに微笑んで見せた。やっぱり、爺さんは良い男だよな。さり気ない優しさがとても格好良いな。


「そうなのですか!それは本当に良かったです。お義母様も、私たち双子の恩人なのです。これ以上、苦しんで欲しくはありませんからね」


『ん?恩人とな?』


「ええ、そうです。私たちの生みの母が亡くなったのは、私たちが3歳になる少し前でした。私とラウラが入れ替わる前ですね。その時に、すぐに後妻を迎えると公爵が言い出したのです。前妻の子供である私たちなんて、邪魔でしか無いと思いませんか?」


『あぁ……まぁ、そうだな?やはり自分の子に、家を継がせたいだろうからな』


 ラウルの言わんとする事は分かる。一般的に考えれば、前妻の子は邪魔だと思われても仕方のない立場になるだろうからな。


「誰が考えてもそうですよね。それも、()()公爵ですから、いくらお金があっても、誰も後妻になりたいなんて思わなかったのです」


『そう言われると、確かにな……』


 ()()の妻なんて、物好きで無ければ嫁になんて来ないだろう。それも、跡取りが既に居る家に、だ。


「お義母様は、私たちの母と約束したからとおっしゃいましたが、だからと言って、あんな男と結婚したいなんて思わないでしょう。きっと、今でも辛い思いをなさっているはずです。なのに……それでも、私たちを実子のティア達と変わらず、愛してくれるのです」


 ラウルは何かを思い出したのか、ウルっとしている。


「私たちはまだ幼く、何も知らない子供でした。守られていたと理解したのは、ジョバンニが生まれた後でした。ジョバンニを私たちにも触れさせてくれ、「貴方達の弟よ。可愛がってあげてね」と微笑んでくれました。私たち双子に嫌味をいう者たちを、片っ端から解雇して守ってくれました。ティアが生まれてからも、お義母様は変わらず私たちを愛してくれました。その時にラウラと誓ったのです。お義母様と幼い弟妹(ていまい)を、守る力をつけよう、と……」


 ラウルは、はらりと一筋の涙を流した。イケメンは涙も美しく流れるのだな、なんて関係ない事を思ってしまった。そうでもしないと、実は我も涙もろいから泣いてしまうのだ。ん?爺さんも感動したのか、今にも溢れそうにウルウルしているぞ。


「この子達は辺境伯の地で、必死に自身をひたすら鍛え続けました。あの男には、学園の寮へ入ると偽り、皇都にある伯爵家のタウンハウスから通っておりました。ですので休みの日はもちろん、長期の休みに辺境伯へ来るのは容易(たやす)かったのです」


『そうか。そなた達は、周りにも恵まれていたのだな。神はよく見ていると感心したぞ』


「それはティアのお陰ではないでしょうか。私たちは、私たちに出来ることをやるだけです」


「ラウルの言う通りです。1人ひとりの力は限られている中で、皆が力を発揮しなければならない。そして、1番小さな集まりが、家族であり、大きな集まりが国となります。家族すら守れない者が、国を守れるなど片腹痛い。そう思い、我々は訓練して来たのです」


 スケールがでかいなぁ。そして、己に厳し過ぎないか?あまりの迫力に、感動してウルっとしていた涙も引っ込んだぞ。


『そなたらの国への忠誠心も、家族への愛情も、とても素晴らしいと思うが、かなり重いな?』


「当然です!私たちは守るべき愛する者たちを、命を()して守り抜く事が、生きる意味だと思っていますから」


 ラウルは爺さんと考え方がそっくりなのだな。


『ほぉ……そうか、それは素晴らしい考え方だな』


 ラウルも爺さんも、直接体を動かして解決するタイプなのだろうな。気持ちも言葉もストレートで重い。ラウラであれば、考え方は同じでも、こちらが引かない言葉選びをするだろうな。最終的な話し合いには、必ずラウラを中心にまとめさせようと、心に誓ったのだった。

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