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第25話 幻影魔法と空間魔法の使い道

 昼食後のまったりした時間は至福の時だな。そんな穏やかな時間を終わらせたのは、頬を膨らませたラウラだった。服の中は綺麗だとは言え、髪や顔が薄汚れているティアをラウラは許せないようで、お風呂に入れてあげたいと言い出したのだ。


「やっぱり、この状態は良くないわ!幼い女の子がこんなに汚れていたら、普通なら病気になっちゃうわよ。せめて1度綺麗にしてから汚れて見える様に、再現したらどうかしら」


「ラウラ、気持ちは分かるが、今あの男に勘繰られて良い事はない。賢いラウラなら分かっているだろう?」


 ラウルが困ったように眉を下げて宥めるも、ラウラは納得がいかない様子だ。


「分かっているわ。でも、ティアだけが……わたくし達のせいで、末妹だけがこんなに酷い生活をしているなんて!」


「ラウラ……そなた達のせいでは無い。全てはあの男が悪い。だがな、悔しいがラウルの言う通りだろう。今はまだ動く時ではない。これから作戦を練って、憎き公爵を懲らしめてやるのだからな」


 この家の者たちは、皆が皆優しいからか、自分のせいだと思ってしまう様だ。しかし、報復(ほうふく)する(したた)かさはあるみたいだがな?くくっ。


「お祖父様……確かにそちらの方が大事だとは思いますが……」


 ラウラの言う事も分かるし、ここは我が少し助けてやろうか。

 

『ふぅむ。自然に汚れが蓄積しているこの状態を再度汚して再現できるとは思えないが……我の幻影魔法なら、現状を細かく記憶させられるから、そう見えるようにであれば出来るとは思うが?』


「「幻影魔法が使えるのですか?!」」


『さ、さすが双子だと言うべきか?いや、そこでは無いな。ラウラはティアの汚れの再現が出来ると喜んだのであろう?』


「はい、もちろんです。ティア、さぁお風呂の準備をしましょうね!レオン様、服も洗ってよろしいですか?」


『あぁ、問題ない。ちゃんと記憶しておいたから、頭のテッペンから爪の先まで綺麗にしていいぞ』


「はい!ありがとうございます!」


 ラウラとティアはキャッキャ言いながら、嵐のように去って行った。ティアが、そんなに風呂に入りたいと思っていたとは。我では気が付かなかったな。


『ふぅ――。さて、ラウル。そなたは幻影魔法を何に使おうとしたのだ?』


 ラウルは風呂の事なんてどうでも良さそうだったからな。入れてやりたいのは分かるが、無理なら仕方ない、というような。他の使い方で何か考えているのだろう。


「あ、は、はい。私は、幻影魔法であれば、ティアを全く別人にできるのではないかと思いました。ティアではない『誰か』になって生きていく方が、ティアは幸せなのではないかと……そうすれば、今すぐにでもティアを公爵家から逃がす事が出来る」


 やはりな。ティアを想うあまりに視界が狭くなってしまうのだろうが、ラウルの年齢では仕方ないか。恐らくラウラなら、また違う答えを出しそうだがな。


『そなた達は、ティアが大好きなのだな。確かにその案は考えた事がある。だが、知識も常識も知らない幼子(おさなご)が、味方も無く生きて行く事は難しいと思ったのだ。我が居れば生活には困らないだろうが、それは人としての幸せを諦める事になるのだからな』


 ラウルはハッと目を丸くし、我に頭を下げた。


「レオン殿、そこまでティアの事を考えてくださっていたのですね。心から感謝いたします」


『それは気にしないでくれ。我も神に頼まれたのがきっかけだからな。ただ、爺さんには言ったが、我は復讐に手を貸す事ができないのだ。これでも神の遣いだからな。その代わり、ティアが自分で復讐したいと願った時のために、隠蔽工作が完璧に出来るよう、必要だと思われる知識は全て教えておいたからな!くくっ』


「あははは!さすがは神獣殿ですな。この年まで生きて来て、こんな気持ちになるとは思いませんでした。あの男への復讐……私の可愛い娘や孫たちを馬鹿にした事を後悔させてやりたいと思っておりました。早速ですがティアにバレない様に、作戦を考えましょうぞ」


 どうやら、爺さんには喜んでもらえたようだな。ラウルは少し呆れているように見えるが。


『あぁ、そうだな。その時に、ついでで良いから、ひとつ頼みがあるのだが……』


「レオン殿?どうなさいました?」


 あの公爵家には、絶対に許せない者が、もう1人居るからな。


『復讐がなんであれ、公爵家には乗り込むのだろう?その時に、あの地下牢でティアの侍女をしていた女にも制裁して欲しいんだ』


「地下牢に専用の侍女がいたのですか?」


『ああ、そうだ。だが、腕が折れた時もポーションを(うば)って治さなかった。飯も、金は貰っているのに、1日に小さなパンをたったの1つか2つ。それも、あの男に痩せ過ぎだと怒られてから、1つだったパンを2つにしたのだぞ?』


「な、なんですと?その間の食事はどうなさっていたのですか?干し肉は食べていたと言う事でしたが……今のティアは、そこまで痩せていないと思うのですが?」


 我が一緒に居て、餓死させるわけがなかろうて。ひもじいティアをそのまま放置するなんて、あり得ないだろう?


『あぁ、エルフに頼んで、我の狩った獲物を干し肉に加工して貰ったのだ。それに、森の動物たちが持って来てくれる木の実や果物もあったからな。何とか空腹は満たせていたのだ』


「そうですか。……エルフ、本当にいるのですね……」


「ラウル、そこでは無いのだろうが……私もそれが気になって、森の動物たちがどうしたのか、記憶が少し曖昧なのだがな」


 そうか、そうだったな。エルフを見たことのある人間が、あまりにも少ないから、存在自体が幻だと言っていたな。我からすれば、エルフとは1000年以上の付き合いがあるから、存在するのが当たり前なのだが。


『くくっ、エルフ(そっち)が気になったか。まぁ、そなた達であれば問題無かろう。ティアは既に仲良くなってるしな。お礼も兼ねて、今度この屋敷にでも招いたらどうだ?』


「ぎ、逆に、来てくださるのでしょうか……?」


「確かに。是非、お礼をしたいとは思うのですが……レオン殿、口利きを願ってもよろしいでしょうか?」


『あぁ、構わん。エルフもティアに会いたいだろうし、我が言い出した事だからな。都合がいい日を聞いておこう』


「「ありがとうございます!!」」


 人間は、我やエルフの存在を怖がったり、(おび)えたりする者が多かったのだが……爺さん達は、会える事を喜び、嬉しそうにしてくれるんだな。歓迎してくれるなら、エルフも喜んでくれるんじゃないか?干し肉も、残りが半月分もあるか分からないぐらいまで減ってきたから、連絡を取る予定ではあったしな。……あ、そう言えば、持って来ていたな。


『ああ、そうだった。間食にと、その干し肉を持って来たぞ。エルフの作った干し肉、そなた達は食いたいか?ティアは好んで食っていたが』


「よ、よろしいのでしょうか……?」


『何がだ?』


「そんな貴重な食べ物を……」


『ん?貴重でも無かろう?ただの干し肉だぞ?』


「レオン殿、その猪はレオン殿が狩り、加工したのがエルフ殿なのですよね?」


 爺さんが申し訳無さそうに、困った顔で聞いて来る。先程から、そうだと言っているだろうに。


『そうだが?』


「神獣様が狩った獲物というだけでもレアだと思いますが、それを干し肉に加工したのが幻の存在と言われているエルフ様なのですから、それは貴重なのではないでしょうか?」


 ラウルが興奮しながら、爺さんの言わんとする事を説明してくれるのだが…………


『なら、食わんのか?』


「「食べます!」」


 結局食うなら、何も言わなければ良いんじゃないか?


『…………人間は面倒だな』


 静かにボソッとつぶやいた我の事は気にせず、2人は干し肉を頬張っていた。猪の干し肉を初めて食ったかの様に、2人は目を輝かせて喜んでいる様だ。


「こ、これは、長い期間保存出来る様に、空間魔法もかかっておりますな。噛んだ瞬間に魔法が消える様です。こんな魔法の使い方、初めて見ました……」


「わぁ!凄く美味しいです!非常食ではなく、普段から食べたいと思うぐらい美味しいですね」


『既に何度か作って貰っているから、エルフと仲良くなったら一緒に作ったらどうだ?魔物の森の北側には、猪も出るだろう?作り方が分かれば、この地の名物にも出来るかもな?』


「それは良い考えです!」


「是非、前向きに検討したいですな!」


 違う事で盛り上がってしまったな。そろそろ、帰る時間もあるから話を進めたいのだが……


『それはある程度落ち着いてからな?いい加減、ティアが風呂から上がる前に、少し話を進めた方が良いのでは無いか?』


「「あ……」」


 呆れた顔をした我に、爺さんもラウルも申し訳無さそうに干し肉を飲み込んだのであった。

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