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【完結】小さな光と、その軌跡 ―隠された幼子と神獣の物語―  作者: 月城 蓮桜音
第一部

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第1話 神から下された神託

 まだ朝晩は冷え込むが、昼はポカポカの日が増えた、もうすぐ春になりそうな気持ち良い気候のある日。我(われ)は暖かな寝床で日向ぼっこをしながら昼寝をしようと、鼻歌を歌いながら狩った獲物(えもの)を咥(くわ)えて、寝ぐらへ向かっていた。


 そんな我の昼寝を邪魔したのは、麗(うるわ)しき姿の我らが主(あるじ)、この世界を創造した神であった。


『久しいのぉ、そなたも元気にしておるか?』


『確かに久しいが……神が、我に何の用だ?嫌な予感しかしないのだが……』


 我はつい、数歩後退(あとずさ)って顔を顰(しか)める。神に対して嫌がっても仕方がない事は当然、理解しているのだが。ただ、我はこれからのんびりと昼寝がしたかったのだ。神が来た事で、間違いなく邪魔される事が確定したのだから嫌がっても当然だよな。


『まぁまぁ、そう言うな。ちょっと手が足りないから手伝って欲しいのだよ』


『はぁ……我は、神の言う「ちょっと」はアテにならないと知っているからな。それに、面倒な話でなければ、神が我の前に姿を現(あらわ)す必要も無かったであろう?』


『ふっ、さすがだな。賢いそなたには、隠し事など出来ないな』


『…………神が我をその様(よう)に褒める時は、いつも決まって恐ろしく面倒な事を押し付けられる時なんだよな。はぁ……仕方ない。いつも通り、話だけは聞いておこうか』


 今更、何を言っても意味はないだろうと諦めた我は、神の『お願い』を話だけでも聞く事にした。


『くくっ、話が早くて助かるよ。そうだな、まずは……今、この世界は一年と少し、時間を巻き戻した世界になっているのだが、気づいていたかい?』


 我は丸い目を更に丸くして驚いた。我はいつも通り生活していたが、特に何事も起きた気配はしなかったからだ。


『なんだって? 全く気が付かなかったぞ。まさか、この世界に何か大変なことが起こったのか?!』


『あぁ、そうなんだ。実はな、この世界が破滅に向かうと分かっていたから、〝神の御遣(みつか)い〟を数年前に公爵家に産まれるように調整して、それ自体は成功したのだが……』


 神は困った顔で少し悩んで、「ふぅ――っ」と長いため息と共に説明を再開した。


『ふぅむ。そなたには全て教えておくのが良いと判断したから言うが、その公爵家で〝神の御遣い〟の持つ力が当主に悪用されてしまってな』


『当主が御遣いの持つ、神の力に気がついたから悪用したと?』


『いや、うむ、確かに悪用したんだが……地下牢へ閉じ込められた〝神の御遣い〟である娘が、悲しみや苦しみから力が暴走してな。公爵家の地下牢を中心として、皇都の約三割が焦土(しょうど)と化(か)してしまったのだよ』


『な、なんと!皇都の三割も……そんなに強い力を与えていたのか?』


 驚く我に神は頭(かぶり)を振り、またもや深い溜め息を吐いた。


『いや、彼女は当時まだ三歳だったか? 魔力も充分に練れないし、学ぶ事すらさせて貰えなかったようでな。恐らく、憎しみなどの感情から無意識に起こした暴走だったようだ』


『んん? 人間の娘が三歳で暴走するなんて、全く聞いたことは無いぞ? その子の置かれた環境は、そんなに酷かったのか? どんな環境にいたんだ?』


 神の言う内容は、我の常識を超えている。普通なら人間の三歳なんて、やっと歩く事に慣れ始めたぐらいだろう? 食事だってマナーよりも、成長するために量を食べさせる事を優先する時期だったはずだ。


『まず前提に、父親が「お前が兄様や母様を殺したんだ」と、その子が逆らえないように脅していてな』


『は? おいおい、まてまて! その前提がおかしいだろう! 暴走したのが三歳なら、当時の御遣いは二歳だろう!? そんな幼い娘に、実の父親が? 実の娘を脅したって?』


『あぁ、そうだ。この娘の魂(たましい)は心根(こころね)が優しく、多少であれば何が起こったとしても、神の遣いとして恥ずかしくない人格になる予定だったのに、だ』


 それはそうだろう。神が力を授(さず)けるぐらいなのだ、救世主として相応(ふさわ)しい、清(きよ)らかで強い魂(たましい)を選んだはずだからな。


『一年と少し、時間を巻き戻したと言ったな? 巻き戻さなければ、どうなっていたのだ?』


 困ったと言うよりは、少し変な……崩れた顔をして、言いにくそうに我を見る神が、それが悲惨(ひさん)な内容なのだと……言葉にせずとも告げているがな。


『少しだけだが記録用に撮っておいたから、そなただけには見せようと思うが……いや、まぁ、うん。兎(と)に角(かく)、心して見ておくれ』


 すぐに神から記憶が流れ込んで来た。慌てて瞳を閉じる。頭の中に浮かんで来た光景は、皇都を焦土と化した張本人であると思われる娘が力を使い果たして跪(ひざまず)いた所を取り押さえられ、魔女として皇都の街中を引き摺り回された上に公開処刑されるというものだった。その処刑の寸前に我の視界が途切れたため、処刑の有無は確認出来なかったが。


『何と、痛ましい……彼女は力を持っていただけなのにな。大人の狡(ずる)い事情に巻き込まれてしまっただけなのに……』


『そなたも可哀想だと思うだろう? まぁ時間を戻したから彼女に記憶は無いけれど、怖い思いをさせてしまったし、私としてもとても申し訳なく思っていてね。だから、私が誰よりも重用(ちょうよう)しているそなたに、彼女のこれからをサポートして欲しいのだ』


 このまま放っておけば、また同じ事が繰り返される訳だから、神の言わんとする事は分かるのだが……


『…………のせられている気がしないでも無いが……我は何をすれば良いのだ?』


『うーん、そうだねぇ。まずは……三ヶ月ほど、彼女の身に何が起こっているかを確認して欲しい。正直、二歳の幼児に起こる出来事にしては信じられない事が多くてね。あぁ、そなたが関与出来るのは彼女にだけだから気をつけておくれ。その他に関わり過ぎて、彼女以外を変えてしまうと、そなたにも罰が与えられる可能性がある事を……』


 云々(うんぬん)かんぬんだの、なんちゃらかんちゃらと、いつもの長い説明を省くために理解している事を伝える。神はこちら側のルールをしっかりと何度も、我が幼子かのように言って聞かせるのだ。


『分かっている。これまでも、いくつか関わって来たからな。今はどんな状況なのだ?』


『彼女が父親に脅される事となった事件の直後辺りのはずだよ。時間を巻き戻すと言っても、きっちりそのタイミングと言うのは難しくてね。この世界には一度しか使えない神の能力なんだ。二度と使えない能力だから、練習も出来なかったしね』


 くくっと笑う神はイタズラ好きの子供の様な笑顔を見せながら、有無を言わさない圧をかけて来た。


『はぁ――――。我に選択肢は無いのだろう? 三ヶ月だよな? 手に負えないと我が判断したら断るからな?』


『助かるよ! よろしく頼むね!』


『まてまて! まだ、三ヶ月の間、彼女の行動を探る事に関してだけ、同意したのだからな!?』


『あぁ、勿論だとも』


 機嫌良く返事をする神に、早まったかと少し後悔しそうになったが、あの光景を見ては……我にはハッキリとは断れない。そうと知って、神が我に〝神の御遣い〟のサポートを頼みに来たというのが正解な気もするが。


『はぁ――。あぁ、そうだった。ひとつだけ質問しても良いか?』


『うん? 何か気になることでも?』


『神が〝御遣い〟をこの世界に堕(お)とした理由だな。さっきは破滅に向かうからと言う事だったが。その様に何かしら理由があって堕としたのだろう?』


『あ、気づいちゃった?』


 神がペロッと舌を出して戯(おど)けている。これは確実に『破滅に向かうから』って理由は嘘だな。


『その反応……まさか、暇だったからとか言わないよな?』


『あー、うん……そうだね? 退屈だったから、新しい文化でも作ってくれるかなーって……』


 暇ってのを『退屈』に言葉を変えたとしても、ただ単に暇潰しって事には変わりないだろう……


『やはりな……神よ、当分は大人しくしていてくれ。これ以上はフォローし切れないからな? 他のヤツらにも断られたから我に話が来たのであろう?』


『…………相分(あいわ)かった』


 視線を逸(そ)らして遠くを眺めながらしゅんとする神だが、間違いなく百年もすれば怒られた事も忘れているに違いない。それまでに、今回の神託を遂行せねば。我はふぅ、と溜め息を吐いてから、その〝御遣い〟の娘の住む公爵家へ向かうのであった。

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