第二五話 (8日目) 「世界の俯瞰」
EP30!
サボり癖がついてしまいましたね。
数秒前、僕がマルクスの指示通りに円の中に入ると、パッと光が現れて視界に靄がかかったかのように暗がりが広がった。
と、思っていたのも束の間。
僕が目を開いた時には既に、
「遅いぞ少年」
と言いながら少し前方で浮遊している物体。
......あ。違う......
天使でもなければ悪魔でもない。
死神のマルクスがそこにはいる。
そして何より、気になること。
背面には僕の知らない景色が目に映ずる。
これだけ。
だけどかなり気がかり。
雑多な部屋だな、オイ。
僕は誰のともしれない部屋で、1人(と一匹?)しか居合わせないこの空間でつまらないツッコミを入れたくなる。
本当に、何処なんだよ!
僕の混乱状態を無視したように、マルクスは僕に静かにしろと言う。
ガチャ。
ドアが開くような、閉まるようなそんな音がして僕が驚く声を彼は必死になって止める。
「ミュラン?いるなら返事してよー。」
僕たちが物音を立てないようにする論争でわちゃわちゃとしていると、その辺にあった本の山が崩れて散らばる。
足音が段々と大きな音になって聞こえる。
見つからないか不安で心拍数が上がるもんだから心肺停止しないかなんとなく心配だったから、心身共に深呼吸で落ち着ける。
例の入ってきた人の声が聞こえる。
聞き覚えがある。
いや、寧ろ慣れ親しんだ声だとすら思った。
「そこにいることくらいわかっているんだ、」
「、よっと。」
そう言ってこの空間に入ってきた少女は縮こまる僕のいる此方を、少々腰を落として斜めに上目遣いで見上げる。
「あ......」
僕はその見知った顔を見て思わず声を出す。
「オイ、バカ!」
マルクスは、しまった、とばかりに僕の方を向いて少々青ざめた顔で立てた人差し指(?)を口元に添える。
いや、指は小刻みに振動しているから、焦りが見て取れる。
死神でも怖いとか、危機感の気持ちはあるんだと少々不可解にも思いはしたものの、流石の僕でもそんなことはわかったから悪い気にはなった。
でもなぜだ。
明日さんだぞ?
喋ったって、よくないか......?
しかもだ。
どうしてマルクスは彼女のいるこの部屋に僕を連れてきたのだろうか。
俄には信じがたいことだが、この間に見たあれは......齋藤ではないのか?
......だとしたら。
僕にはどうしようもなく落ち着いていられなかった。
頭が混乱に包まれる。
困って困り果てて、頭がくわんくわんとしている僕をさて置いて、マルクスは動揺し続けている。
この間気がついていなかった僕も、実に馬鹿だが、明日さんは僕の真ん前まで近づいていた。
「オイ!!!!息を止めろ。少年......なんならしゃがめ?!喋るなよ......」
僕は言われている意味と、そんな大声を出している理由がわからず、マルクスの浮遊する左側に顔を向けようとする。
すると僕の目の前に髪の毛がふわりとかかり、幸せな甘い香りが漂うことを理解する。
と、ほぼ同時に僕の頬が緩み、明日さんが後ろを振り返って歩いていた。
“あ、もう行かなきゃ!”っていう彼女の声が聞こえたから、立ち去ったのだろう。
僕ははにかみながら、溜め息を吐く。
マルクスも、同時に、同じことをしている。
しかしこの意味はそれぞれに異なっていた。
「説明不足だった俺様も、ちょっとばかし悪かったよ。」
相変わらずの上から目線だが、珍しく、マルクスが謝った。
こいつが誤りを認め、謝っているのを見ると言うのは少々、いや、かなり珍しいことと僕の目に捉えられた。(目以外の五感、その他にも。)
物珍しそうに僕が目をまんまるにしているのに気がついているのかいないのやらで、彼は話を続ける。
「もう、少年が気がつく前に言ってしまうが、こないだお前が死神見たっていうのは、齋藤じゃない、明日のだ。そんでもって、あれは死神じゃない。」
僕は、この天使、いきなり何を言うんだという具合で、ボケーっとしているのがバレたのか。
彼は、ちゃんと聞けと忠告を僕にした。
何だか不穏な空気は、薄黒くなって僕の目の前で散って行った。
妙に部屋の空気がこもって埃か何かが、電球の光を受けてキラキラと舞っていた。
これからの未来を待ち構えているかのように。




