第十四話 (5日目) 「憂鬱=体育祭」
神木会長の話が始まった。
「単刀直入に聞きます。」
「此処に呼んだ皆様方4人だけなんです。」
いきなり何の話をし始めるのだろう。
僕たちは何もしていない廊下を思いっきり走ったし、人に迷惑かけてるけれども...
いや、とにかく、何もやってないのにいきなりなんなんだろう。
そう思うと僕はなんだかこの生徒会長に腹が立ってくる。
「何か......今、この学校内で何が起こっているのか。知っているのではありませんか?」
僕達は(少なくとも僕は)大きくポカンと口を開け、理解が及ばず、覚束無い様子に陥った。
と、同時に生徒会室に静けさが訪れ、廊下の生徒の声がはっきりと聞こえてくるようになる。
果てしない沈黙の時はやがて神木生徒会長によって週末を迎えた。
「皆さん...本当に何も知らないのですね。」
明日さんはこくこくと頭を縦に振って本当なんです......と言うようにした。
「じゃあ、帰っていいですよ。」
そう、会長が言う。
これ程までにすんなりと帰すものなのだろうかと少々不思議に思った僕は、上の方に目を向ける。
なるほど、夏の夕方は長いらしい。
いつのまにか6時になろうとしていた。
僕等三人は(明日さん、怜、僕)バッグを持って家えと帰ろうとする。
......のだが、僕は思い出したように咄嗟に他の四人が見ていない隙に、とあるファイルの記録を本棚から自分の鞄へと移し替える。
「あれ?何かあった?」
明日さん?!!
いや、流石に気づかれてはいないだろう。
僕は冷静になって首を横に振る。
「それならいいんだけど......」
そうこうして、僕等三人が生徒会室のドアを開き、失礼しました、と一礼すると、そのドアの隙間に神木先輩ともう一人の男子が当然のように一緒についてくる。
気づいたらまあ、なんとなく想像はついていたが、帰り道をともにしている現状があった。
.......?!!!!!
何故こうなったんだ?!
僕は驚きが隠せず、横断歩道のど真ん中でズっこけた。
「ぷっ。」
他の四人が全員僕の方を振り返り吹き出す。
「そういえば。」
怜がこのムードを切り崩そうと何とか話を切り出してくれたらしい。
僕は怜が話を切り出すなんて珍しいな、と何年も前を思い出す。
「体育祭、近づいてきていたな。」
は?
おいおい。
体育祭?嘘だろ。
僕がそんなイベントに出たらどうだ。
一生人に合わせる顔が無くなるじゃないか。
「いつだったっけ。」
そんなことお構いなしに明日さんが問う。
「えっとな......」
怜も生徒手帳をペラペラとめくる。
と、思わせる隙もなく手が止まる
「6月、15日土曜日。」
怜は楽しげにニタリと笑い、僕の方を向く。
嗚呼。そうだった。
怜は昔から休み時間こそ校庭に出て遊ばなかったものの、校外で運動系の習い事をしたり、毎朝ランニングをしたりしていたもんな......
例の体つきを見れば一目瞭然。
僕と比べればすぐにそんなこと、分かるはずなのだが...
だがしかし、そこは変わっていないのか。
僕は怜が昔からあまり変わっていないことへの安堵で微笑する。
こんな柔らかでホッとする時間がいつまでも続くように。
そう思いたかった。
が、しかしだ。
体育祭?
いやいや、休もう。
とそこで同学年の男子も話し出す。
が、流石に明日さんも違和感を覚えていたのか、一つ、彼に質問をする。
「あのぅ。いやね。気になってたんだけど。自己紹介......してもらってもいいかなあ?」
「俺?あぁ。」
彼が話をしようとしているのにも関わらず、怜は横から口を挟む。
「知らないのか?」
「俺らの学年の問題児、和邇 汐恩様だぜ?」
「おい。辞めろって。その呼ばれ方はーー」
二人が軽い取っ組み合いを始める。
チリンチリンと自転車が来るのを華麗に避けながら。
「君には一生を賭けてもできない芸当だな。」
マルクスは僕をそうやって蔑む。
「君を見ると哀れで、面白すぎて、ぷぷ。涙が.......止まらんっ。」
マルクスは笑い続ける。
たまにはこんな日も必要だろう。
しかしながら、僕はと言うと、リュックに背負った不吉なファイナルだけが気掛かりで、家に帰るまで誰とも話すことができなかった。
紅く染まっていた空が、段々と和邇君と怜につられて足取りを速くする僕らよりも速く、灰色の雲に覆われていくのだけを、僕はただただ眺めていた。




