66スコットランド沖の砲火⑧
”光の船”との対決以上に今回の戦いはアーティガル号に犠牲者をもたらします。マリサは久しぶりにキレてしまいました。
戦いの描写、わかりにくいのは私の文才の無さです。
フレッドもそれなりに出番があります。
テイラー子爵は大砲の階層へ来ると士官さながら砲撃の指揮を執った。今までならオルソンがその役目を受けていたのだが、オルソンが不在の船ではこのような戦いの場で指揮を執る者が必要だったため、テイラー子爵は喜んでその役をかって出たのである。
「ノアズアーク号とカトリーヌ号は上手く連携しているようだ。ただ、ジェニングスの船の動向が気になる。なぜか海賊船団の最後尾に来ているが、行動を起こそうとしない。何を企んでいる……」
彼のこの不安に満ちた疑問はディクソン氏やリトル・ジョン船長も感じていた。さしものディクソン氏も海戦において全く行動をしない敵船というものに遭遇したことがない。
「リトル・ジョン船長、君たちはジェニングスと何か取り引きしたのか?奴は攻撃しようと思えばできるのだぞ。それをしないというのは取引か企みのどちらかだと私は思うのだ」
ディクソン氏がコツコツと義足の音を立てて甲板を歩いてくる。
「取り引きなんて……むしろ我々は奴らに騙されたんですよ。マリサの家族を拉致し、我々が傘下に入るように仕向けたんですから。奴は何かを企んでいる。向こうが攻撃をしてこなくてもこちらが攻撃を仕掛けていったらいい」
「そうか……。ならば遠慮はいらん。奴が砲門を開いたら攻撃を仕掛けてくるということだ。まずは射程から離れて目の前のこざかしい海賊どもを一掃しなければならん。船の動きが停まったら移乗を仕掛けろ」
ディクソンの言葉は皆が待ち望むものだった。
ドーン!ドーン!ドーン!
アーティガル号から海賊船へ向けて砲撃がなされる。向こうも砲門を開いて狙っている状態であり、何発か船をかすめるかのように砲弾が飛んでいった。波によって狙いが外れたようだ。
船内ではテイラー子爵の指揮のもと、砲手長代理となっているラビットが連中に指示をだす。僅か数分の間に砲弾を込めると、波による狙いのずれを見ながら狙いを定め、火薬をつけた導火線代わりの鳥の羽をさしこんんでは火をつけるのだ。スパロウ号のように多くの砲を備えていないのがむしろ良かった。アーティガル号やノアズアーク号など元々海賊船だった船は海軍ほど重装備ではない。人員数だって圧倒的に少ないのだ。
普段はあんなに冗談を言い合っている連中も皆真顔である。丁寧にそして素早い砲撃がなされていく。互いに接近しておりディクソン氏は決断をする。
「乗り込み組の諸君!君たちに舞台を与える。準備をしたまえ」
武器を持って待機していた乗り込み組。落ち着きを取り戻したマリサもそこにいる。
接近するということは射程により近づくものである。そしてやられるかもしえないというリスクがあった。
マスカット銃の射撃によっていくらかの海賊たちが排除されたのち、乗り込み組が次々に移乗していく。
バン!バン!
銃撃と刀による戦いが海賊船の甲板上で繰り広げられる。
バン!バン!バン!
船長も相手としてきている。髭を伸ばしたやせ型の男だ。
「お前たちは海賊の裏切り者だ!お前たちが裏切らなければ海賊共和国の崩壊はなかったはずだ」
銃口を向けてマリサに叫ぶ船長。
「言いがかりだ!海賊共和国は統率が取れている様でできていなかった。自分たちの欲望でつぶしたようなものだ」
マリサも銃口を向ける。
バーン!
銃撃の音とともに船長が倒れる。撃ったのはアーサーだ。
「感情に流されるな!」
アーサーの声で目が覚めたマリサは生き残っている海賊たちを切りつけ、銃撃していく。
バン!バン!
船長が亡くなったことで意気消沈したのか、海賊たちは抵抗しながらも倒れていく。この海賊船はマリサたちに征圧をされたのだ。
一方、スパロウ号ではフレッドが砲手隊に指示して散弾を砲に込めさせていた。彼らに向かっている海賊船もまた、接近して激しい砲撃をくらわすつもりでいるようだ。
「撃て!」
フレッドの声で海賊船側の大砲から散弾が撃ち込まれる。散弾はピストルの弾を円筒に詰めたものである。これは明らかに人員の損傷を狙ったものだ。激しい硝煙とともに海賊船の甲板上にいた海賊たちが次々に倒れていく。
緊張と声を荒げる状態が続いたためか、フレッドの頭の傷口から血がにじんでくる。思わず船の揺れに足をとられてふらつくフレッド。
「スチーブンソン中尉!」
そう言って慌てて誰かが身体を支える。それはラッセル少尉だ。
「……ラッセル少尉、艦長は君に休めと命令を出したはずだぞ」
「ケガをしていますが声は十分出るので中尉の代わりに叫ぶこともできますよ。だから僕もお手伝いします……田舎の母さんも同じことを考えるでしょう」
ラッセル少尉の言葉は正直フレッドにとってありがたいものだった。ラッセル少尉の協力を得て、フレッドの指揮のもとでそれぞれの大砲隊が砲撃をしていく。大砲長が照準器で狙いを定めると、引き金につながるロープを素早く引く。火花とともに弾薬が発火する。
ボーン!
砲弾が海賊船めがけて飛んでいく。
甲板にいる海賊たちを海兵隊員がマスカット銃で銃撃している。しぶとく抵抗を続ける海賊たち。
ここでエヴァンズ艦長がある船の動きを察知していた。ジェニングスの船ベルシェバ号が動きを見せたのである。海賊船の隊列の最後尾に就き、攻撃態勢へ入っているベルシェバ号はジワリとその距離を縮めているではないか。当然ながら海軍側の最後尾で戦っているバラクーダ号でもベルシェバ号の動きを察知している。
ボーン!ボボーン!
激しい砲撃とともにスパロウ号の目の前の海賊船が横腹のいたるところに穴が開き、甲板をスパロウ号側に向けて大きく傾く。傾いた船からは海賊たちが海上へ投げ出されただけでなく、亡くなった海賊たちの体が散らばって海上に浮かんでいる。この海賊船は既に無力化されたも同然だ。
「ベルシェバ号を迎え撃つぞ!バラクーダ号の後へ続け!」
無力化を確認したエヴァンズ艦長の声にスパロウ号は舵を切った。旋回し、バラクーダ号へ近づいているベルシェバ号と戦うのだ。それらは艦内へも伝達されていく。
「ジェニングスの旦那、ヒーローの登場が遅すぎるぜ」
共に大西洋からやってきた海賊たちはベルシェバ号が動きを見せたことに安堵する。戦争目的で作られた海軍のスパロウ号やバラクーダ号には海賊船以上の艤装と相当数の人員がいる。抵抗しても太刀打ちできないこともあるのだ。
ピュー。ドガーン。
ジェニングスとともに大西洋からやってきた海賊船の砲弾がバラクーダ号の砲列甲板を直撃する。狭い砲列甲板内に破片が飛び散り、その場にいた砲兵たちが瞬時に命を落とした。船大工たちは遺体の合間を縫って船に開けられた穴をふさいでいく。
バラクーダ号を砲撃した海賊船から2発目。しかしバラクーダ号に同じ手は通用しなかった。ベルシェバ号を撃つために旋回してきたスパロウ号が海賊船の左舷側に回っており、砲撃をしてきたのだ。バラクーダ号とスパロウ号に挟み込まれる形となった海賊船。そして列の最後尾から距離を縮めてきたベルシェバ号。甲板ではジェニングスがうやうやしく帽子を取り、礼をした。
「何を考えているのだ、ジェニングス!」
エヴァンズ艦長の横で海兵隊が銃口をジェニングスに向けた。しばらくの沈黙が訪れる。それはまるで海底にいる怨霊の声を聴くかのようである。
彼らの目の前でベルシェバ号は船首を回したかと思うと海賊船めがけて砲弾を飛ばした。しかも2個の砲弾を一台の大砲から撃ってきたのだ。
ドガーン!
大量の火薬とともに2個の砲弾が撃ち込まれた海賊船は船首から船内へかけて大きく穴が開き、中の海賊たちが一掃される。
何が起きたのか驚くバラクーダ号とスパロウ号の乗員たち。そんな彼らの驚きの顔を確認したジェニングスは笑みを浮かべて再び帽子を取り礼をした。そしてそのまま他の海賊船のもとへ向かっていく。
「ベルシェバ号は我らに力を貸すというのか?」
とにかくそう考えるしかなかったエヴァンズ艦長は次の掃討へ向かう。すでに攻撃態勢が崩れている。やはり海賊船に海軍のセオリーは通用しないようだ。
「さて、国王陛下の海軍への挨拶を済ませた。お前たち、上等の酒と女がほしいか。元海賊のお前たちならその味を知っておろう?ならば自分の意に従って進むまでだ。海賊共和国の2大巨頭といわれた私に恥じることのない働きを見せてくれ。私は十分な酒と女を用意する」
ジェニングスが乗員たちに声をかけるとあちこちから歓声が上がった。ジェニングスが投降してからというもの、職を失い、路頭に迷った彼らは食いつなぐことに必死だったが、思うように食べられない者もいた。そんな時、声をかけたのがジェニングスだ。かつての仲間が飢えるのを見ていられなかっただけでなく、今回のこの計画を実行するために人手を捜していたのである。
海上でいち早く移乗戦に挑んで目の前の海賊船を制圧したマリサたちは、いちはやくアーティガル号へ戻ると次の掃討へ向かう。この際、ディクソン氏は乗り込み組たちにベルシェバ号の動きを伝える。
「なぜかはわからないがジェニングスは我らに味方をしているようだ。理由がわからない以上、何か企んでいるかもしれん。油断するな、気を抜くな」
ディクソン氏の言葉に顔を見合わせる乗り込み組。そこには砲撃を終えたばかりのテイラー子爵もいた。
やがて隊列を崩した海賊船がアーティガル号の前に立ちはだかる。2層甲板の船だ。
「俺達よりも豪華な船だと言いたいらしい。ほら、攻撃する気満々だ」
リトル・ジョンのいう通り、敵船はすでにアーティガル号へ狙いを定めており、砲門が開かれている。
「射程外へ出るぞ!奴らに横腹を見せるほどこの船は上品じゃないんだ」
リトル・ジョンの声で大きく舵が取られ、距離をとろうとするが、敵船もそれぐらいは予想していたようだ。
ボーン!
一発の砲弾が飛び、アーティガル号の索具がばらばらと落ちていく。被弾したのだ。索具だけでなくロープが切れたことによりメインスルの帆桁が落ち、甲板にいた連中を直撃した。これにより何人かの連中が下敷きになってしまう。
周りの連中が慌てて下敷きになった仲間を救おうと動き出す。だがすでにこと切れている仲間もいた。意識ある者が次々と船内へ運び込まれる。しかしこの状況は敵船を有利にしてしまう。アーティガル号は手薄となってしまったのだ。
「移乗戦をけしかけてくるぞ!連中を呼び戻せ」
ディクソン氏が叫ぶまでもなく、接近した海賊船から次々と海賊たちが移乗してきた。乗り込み組を中心に海賊たちを迎え撃っていく。剣や槍、短剣などを使い乗り込み組以外の連中も総出の戦いである。片足が義足のディクソン氏をかばいながらテイラー子爵も剣をとった。
「どうやら彼らは相当経験を積んだ海賊のようですね。手練れが多い」
テイラー子爵はディクソン氏を狙ってくる海賊を相手にしたものの、最後の一撃となるのにかなり時間を要していた。それだけ抵抗も強いということだ。海賊は義足のディクソン氏の動きが早くないことに気付いており、次々に襲ってくる。しかしディクソン氏も負けていられない。ピストルをとると素早く撃鉄を起こす。
バーン!
「元提督が海賊に負けたとあってはコーヒーハウスのネタにされてしまうからな」
そう言って2発目の弾を装填した。
甲板上では敵味方入り乱れての戦いとなっており、銃で狙っても味方を傷つける可能性があったため、慎重にやらねばならなかった。
海賊たちが移乗してきたことで船を守りながら戦うこととなった連中。操舵を奪われないようにリトル・ジョンとギルバートが守っている。
うおーっつ!
操舵を奪うために5名の海賊たちが襲ってくる。この人数に対してリトル・ジョン、ギルバート、操舵手という人数差は彼らの余裕をなくしていた。
海賊達にどんどん押され、操舵手が狙われた。これに気付いたオオヤマが海賊たちの背後から次々と袈裟切りにしていく。背後を狙われた海賊たちは血をながして倒れ込む。
「俺たちが何とかする。船長、操舵を死守してくれ」
そう言ってオオヤマは再び刀を振り上げる。
マリサたちほかの乗り込み組も余裕のない戦いをしていた。敵船へ乗り込んで攻撃をするだけとは違い、守りながらの戦いなのである。
バーン!
一発の銃撃とともに血しぶきをあげて倒れる男。オオヤマである。
「オオヤマ!」
マリサが駆け寄る。
「船を守れ……」
オオヤマはそれだけ言うと動かなくなってしまった。このことでマリサの何かが切れてしまう。
マリサは自分のサーベルを投げ捨てるとオオヤマの手から刀をとり、海賊達に向かっていった。海賊になりたての頃、オオヤマとギルバートから稽古をつけてもらっていたマリサ。刀を持つオオヤマの動きをよく見ていたので使い方を心得ていた。
「この野郎!ぶっ殺す!」
カットラスやサーベルなどと違い、戦い方の異なる異国の武器に海賊たちは迎え方を知らず、次々に切られていく。そんなマリサにひとりの海賊の銃口を向けた。
バーン!
海賊はピストルを撃つことなく倒れ込む。彼よりも先に撃ったのはディクソン氏である。
彼は義足の自分をかばいつつマリサを狙う海賊を撃ったのだ。彼はマリサに目くばせすると、テイラー子爵と共に海賊を迎え撃っていた。
操舵を奪われないようにかつてないほどの戦いがアーティガル号の甲板上で繰り広げられている。いや、船内へ入った者もいた。
船内へ入った海賊が顔を見せた瞬間、連中は剣やこん棒などを使い、寄ってたかって無力化していく。
「よし!今のうちに撃つぞ」
ラビットの声で連中は砲撃態勢に入る。
ドーン!ドーン!
移乗攻撃に気がそがれていたのか敵船の砲撃回数が減っていたのを見逃さなかった。ラビットたちの砲撃は確実に敵船のメインマスト基部に命中し、マストが大きく折れてしまった。
ギーッ。
折れたマストの重みが傾きを誘発し、軋み音と共に敵船はアーティガル号に横腹を見せるかのように大きく傾いていく。
これはマリサたちに希望を投げかけた格好だ。そして移乗してきて戦っていた海賊たちは戻ることもできず、かといってマリサたちの抵抗でその人数が激減しており戦意を失ってしまう。
「さあ、これでも戦うか。今ここであんたたちを殺してもいいんだぜ」
そう言って銃口を向けたマリサだが、その手を引きとめる者がいた。
「裁くのは我々の仕事ではないぞ。彼らはこの事件の証人としてまだ仕事がある」
テイラー子爵は連中に指示すると、海賊達を拘束し見張り付きで船倉へ送り込む事とした。あくまでも自分たちは反乱が起きる前の征圧である。しかしこの戦いはもはや反乱といってよかった。
相手を殺したい気持ちは仲間を失った感情の行きつくところである。テイラー子爵に促されたマリサはようやくピストルをもつ手を降ろした。
「さあ、我らはまだ負けてはいない!敵を迎え撃つぞ」
ディクソン氏は連中を鼓舞すると崩れた戦闘態勢の立て直しにかかる。
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