65スコットランド沖の砲火⑦
ちょっと戦いらしくなりました。海戦ものを書くのは本当に難しい。
海戦中の船の中の様子、自分本位な書き方ですみません。
スコットランド沖でケント伯爵の領地を守るかのように点在している海賊たち。昨日あれだけそれぞれの距離を縮めたにもかかわらず、天候悪化と日没によりスパロウ号の船団は上陸部隊を送り込んで撤退している。しかし、何かしら陸地において大規模な爆破を確認しており、フレッド救出時に何かあったのではと誰もは詳細を知りたがっていた。
必死にオールを漕ぎ続けるスパロウ号の上陸部隊。そしてそれはアーティガル号の乗り込み組も同じだった。
「縄梯子を降ろせ!引き上げを手伝え」
エヴァンズ艦長の叫びにも似た声が甲板に響き渡り乗員たちが急いで引き上げの準備に取り掛かった。
船から縄梯子が降ろされ、まず傷を負っているフレッドがコックス少尉の助けを借りて登っていく。その後に次々と速足で登っていく乗員たち。
ピューッ。ドーン!
海賊船が引き上げを邪魔するかのように砲撃してきた。これはジェニングスが誘いをわざと受けて同行してきた海賊船だ。それもスクーナー船を含めたら2隻。背後にはあのベルシェバ号も見える。
砲撃の衝撃でボートが転覆してしまい、最後にいたフォスター中尉が一瞬海の中へ消える。
「フォスター中尉!」
エヴァンズ艦長や乗員たちが何度も名を呼ぶ。
プハーッ!
波間からフォスター中尉の姿が見えた。彼はそのまま泳いで船までたどり着き、縄梯子を登ると甲板上に倒れ込む。
「良かった。ご無事で本当に良かったです」
心配した乗員たちに囲まれ、フォスター中尉は笑みを見せた。
「さあ、何も臆することはない。海賊どもを一掃するぞ」
エヴァンズ艦長の声掛けに皆息を吹き返したようだ。
マリサたちもアーティガル号から縄梯子が降ろされる。
「俺は元船長だから一番後で登るよ。若いお前から登れ」
ハーヴェーに促されてマリサが登り、その後ギルバートたちが続く。
風は昨日から治まっていない。相変らずボートは波にもてあそばれている。
ドーン!
音が聞こえたスパロウ号のほうを見ると、船が狙われたのか砲撃が近くであったようで、彼らのボートが転覆していた。
「海賊船が撃ったぞ。ハーヴェー、早く登ってこい!」
リトル・ジョンが連中に手助けを言いつける。ハーヴェーは年長者だ。最初に登らせるべきだったと後悔する。
海賊船はその後も砲撃をしてきたためスパロウ号とバラクーダ号、アーティガル号、ノアズアーク号、カトリーヌ号は戦闘態勢に入る。
「砂をまけ!ハーヴェーを引き上げたら風上をとる」
ディクソン氏とテイラー子爵の命令が飛ぶ。この時点でリトル・ジョンは操船に集中だ。
ピューッ。ドーン!
もう1隻の海賊船がアーティガル号を狙い、水柱があがった。この反動でボートが船から離れていく。ハーヴェーはボートのオールをもち必死に漕ぎ出した。だがひとりで漕いでもなかなか進まない。
ドーン!
マリサたちの目の前でボートが木っ端みじんになる。白煙が消えた後にはボートの残骸が波間に広がっていた。
「ハーヴェー!ハーヴェー!ハーヴェー!」
何度も彼の名を呼ぶ連中。だが彼は姿を見せない。いや、テイラー子爵はあるものを見つけて彼らに見るように促した。
「……ハーヴェー……」
泣き崩れるマリサ。彼らは波に漂っているハーヴェーの体の一部を見てすべてを悟った。
「ハーヴェーの死を無駄にするな!戦いだ!こんなことで奴らに海賊共和国の名を騙らせるな!」
マリサは激高してマスカット銃を取り出す。
「落ち付け!これから我々は船団で海賊たちを追いこんでいく。いいか、散在している海賊船の距離を縮めるのが先だ。これにはスパロウ号が先頭になる。移乗攻撃よりも先にすることがあるだろう!」
テイラー子爵は何とかマリサを落ち着かせようと声高に話す。それくらいマリサは激高していた。ともかくこのままでは見境なく自分勝手に行動をしてしまう恐れがあった。
「……ハーヴェーのことは残念だ。……だが、弔いは戦いが終わってからだ。今すべきことは海賊を一掃しジャコバイト派の反乱の芽を摘まねばならないことだ。悲しいのはお前だけじゃない。デイヴィージョーンズ号時代からの古参の連中はもちろん、アーティガル号から加わった連中やジェーン号で一緒だった者も同じ思いだ。その悲しみを奴らに向けろ。砲撃すべきは海賊船であり、銃口を向ける先は海賊だ。お前は私掠だということを忘れるな。意地を張るなら私掠として意地をはれ!」
テイラー子爵は思わずマリサを抱き締めた。目の前にいるのは海賊だったマリサ、そして憎しみを乗り終え、今は大切な身内であるマリサだ。テイラー子爵もハーヴェーをよく知っていた。何よりアトランティック・スターズ社ではジェーン号の船長だった。悲しいのは自分も同じだった。
テイラー子爵の腕の中で何度か大きく息をしたマリサ。しかしなかなか涙が止まらない。
「少ない船団で散在している海賊船を潰すには距離を縮めることだ。お前も知っての通り、また新たに海賊船が増えている。あのベルシェバ号もジェニングスが何を血迷ったか海賊化しているのだ。……国王陛下の為に、我々は死力を尽くす」
彼の言葉でようやく落ち着きを取り戻したマリサ。しかしその言葉にゆっくり首を振った。
「死力は尽くさない……。あたしたちは必ず生きて家へ帰るんだ。死ぬために戦っているんじゃない」
マリサの言葉に腕を降ろしたテイラー子爵は穏やかな表情で頷いた。
そばではディクソン氏の命令が連中に飛んでいる。天候の回復とともに風向きが徐々に変わっており、すでにスパロウ号は海賊船追い込みにかかっている。いきなり砲撃をするのでなく、威嚇しながら東側へ回り込んでいる。これは戦列を形成できない間は攻撃をしてはならないという海軍の法規があったためだ。しかしディクソン氏は必ずしもそれが私掠船に適用されるわけではないことを知っていた。そもそも敵は軍隊ではなく海賊なのだ。そのような法令をもってきても通用しないだろう。
「スパロウ号の後に続け!」
ディクソン氏の声に合わせてリトル・ジョンが操船の指示を連中に出す。アーティガル号は商船を艤装したものでありフリゲート艦のように3層にわたって大きさの異なる砲が置かれているわけでない。それでもこれまでやってこれたのは砲手長であるオルソンがいたからだ。しかしそのオルソンはいない。愛弟子で有るラビットがその務めを果たすのだ。
マリサは下層へ降り、弾薬筒を作るのを手伝い出来上がったものをラビットたちに渡すことをしている。男たちに比べたらどうしても力の面で役に立たない。だから乗り込み組であり厨房の手伝いもしていた。しかし今はパウダーモンキー(弾薬を運ぶ・軍隊では一番若い、中には10台前半の子どもがその役となった)でも何でもやる気でいた。戦闘が始まり銃の射程内にはいればこちらのものだ。戦線へでて一撃で仕留める自信があった。
弾薬筒をいくつも作っては慎重に砲手達のいる層へ登る。ラビットは連中をうまくまとめ、オルソンから引き継いだ砲撃のセンスを活かしてくれるだろう。
マリサが弾薬筒を作って運んでいる間に沖合へ回り込みながら風上をとっていったスパロウ号。そのあとをアーティガル号やカトリーヌ号、ノアズアーク号とバラクーダ号が続いた。
列を組み、海賊船の前に立ちはだかると、海賊船は私掠達のたくらみに気付いたようだ。
「ほう……奴ら、俺たちを軍隊のセオリーで迎える気だな。見ろよ、私掠船まで海軍気取りだぜ。海軍にしっぽを振っても利用されるだけだということに気付かないなんてどこまでおめでたい奴らなんだ。ここは気づかせてやるのが親切ってもんだろう」
はるばる大西洋から加わったジェニングス率いるベルシェバ号と2隻の海賊船を新たに迎えた海賊たち。彼らは列を組みだしたマリサたちの船団をみて笑うしかなかった。彼らはマリサたちが海賊をやめて私掠として義賊ぶっているとしか思えないのである。海賊たちは投降するよりももっと稼ぎたかったし、かつてエドワード・ティーチがノースカロライナ州のイーデン総督の庇護のもとで海賊行為を働いたように、自分たちもケント伯爵の領主の厚い庇護を受けていた。(アーティガル号編 48話 “黒ひげ”の権威)ジャコバイトかどうかは全く関係なく、ただジャコバイト派のふりをしていたのである。
「あれはアーティガル号だ。さあ、お前たち、海賊を裏切るとどうなるか思い知らせてやれ」
スパロウ号を筆頭に列をなす船団をみて海賊たちはそれらに平衡となるように次々と集結しだした。
風上はスパロウ号率いる船団がとっている。しかし海賊たちもいろいろ心得ているようである。
「ベルシェバ号、何かおとなしすぎる気がする。海賊船団のしんがりに来て何をしようというんだ?ジェニングスなら前へ出ると思うのだが」
ベルシェバ号をよく知るマリサたちはジェニングスの性格をよく知っていた。人質を取り、自分たちを海賊の傘下に入れた張本人である。そのジェニングスはベルシェバ号を率いてここまできているのに、今のところ全く行動を起こしていない。彼なら真っ先に攻撃を仕掛けてくるのではないかと思っていたが、思惑が外れた。
そうこう言っているうちに次々と海賊船は列を形成していく。単縦陣戦法である。この戦法はイギリス海軍の得意とするものだが、海賊たちはかつて”光の船”がとったような扇形の体制を組むことは考えないようだ。(本編36話 光の船①)
マリサたちがジェニングスに対して不安を抱える一方で、興奮がおさまらない者もいた。カトリーヌ号の連中である。
「おいおい、始まるってよ……。海戦だぜ、俺こんなのは初めて見るんだ。ああ、酒を飲みてえ……。わくわくしてたまらねえや」
フランスでもプライドが高いサン・マロ人であるクレマン船長やジャン、そして仲間たち。彼らはサン・マロ海賊の子孫だ。だが、単独航海の商船ばかり狙っていたので、今ひとつ達成感がなかった。別に戦いを面白がっているのではないが、初めての船団での海戦に皆盛りあがっている。
「さ、俺たちも遅れを取らぬように活躍しないとな。それと、アルベール(オルソン)の置き土産、まだあるだろう?あれも活躍するぞ」
そう言ってクレマンはカトリーヌ号の甲板上に置かれた大砲とは別の物を覆っていた帆布をとらせた。そこに設置されていたのは臼砲である。彼らはオルソンが趣味で艤装させたこの臼砲をもて余していたのである。
「ぶっぱなすのは任せとけ!カトリーヌちゃん、愛してるぜ」
カトリーヌ号の連中は今か今かとその時を待っていた。
海軍の船と私掠船の列と並行して海賊船団の列が並ぶ。散在していた海賊たちは自ら集結してきている。しんがりにジェニングスのベルシェバ号がついているが、相変らずジェニングスは静観している気配である。
(ジェニングス……あんたはまた何か企んでいるな……)
パウダーモンキーとしての手伝いを終えたマリサは銃と剣をもって移乗攻撃に備えている。
睨みを利かせる彼らを吹き抜けていた風が一瞬、停まった。
それぞれの船の中では大砲隊が弾をこめてその時を待った。スパロウ号のこの中甲板では手当てを済ませたフレッドが砲撃の指揮をしている。フレッドの指示により、大砲隊は鎖玉やブドウ弾を使うことになった。相手の船の索具を狙ったり、より広範囲な損傷をもたらしたりするものである。下甲板ではフォスター中尉とコックス少尉の指揮のもとで砲撃が行われる。
海賊船のほうも攻撃態勢だ。砲門が開かれているのがわかる。
波によってローリングする互いの船。睨み合いの中、波が来て海賊船が波に乗ると海賊船の砲門が高い位置にきた。そこはフレッドが狙っている場所である。
「撃て!」
フレッドの声が響きわたり、海賊船へ向けて砲撃が始まる。
ドーン!ドーン!……。
攻撃はスパロウ号だけでなく、私掠船も併せて一斉に行われた。バラクーダ号では、鎖玉、ブドウ弾、砲弾が飛び、それは確実に海賊船に命中した。鎖玉は鎖が敵船のいたるところに絡みついて損傷を与えるのに効果的であり、海賊船のヤードや滑車がパラパラ落ちたり、甲板の人員が海中へ飛ばされたりしていた。
次の砲撃に備えて砲手隊は大砲の掃除をし、火の粉を消して弾と弾薬をつめる。この火消しのあとは導火線代わりの鳥の羽を差し込むだけだ。
「来るぞ!」
スパロウ号内にフレッドの叫ぶ声が聞こえたかと思うと船体に大きな衝撃が襲った。海賊船の撃った砲弾が着弾したのだ。船体に穴が開き、あたりは遺体や負傷した者たちであふれる。
急遽船大工たちが大急ぎで穴を埋めていく。その横で負傷者の救出だ。転がっている遺体は人間の体をなしていないものもいる。戦争さながらの地獄である。しかしここで攻撃をやめるわけにいかない。やめたら自分たちがやられる。
先程の砲撃の反動で後退した大砲をロープとてこ棒を使ってもとの位置へ戻す砲兵たち。そのそばで火薬のこぼれがないか確認をするフレッド。火薬のこぼれは事故につながる。緊急時であっても落ち着いて確認をしなければならない。砲手たちは新たに砲弾を詰めるとまた導火線に火をつけ、爆音からまもるために耳をふさぎ、大砲から離れた。こうでもしなければ砲撃の反動で大砲が大きく後退するため、大砲に体を押しつぶされる事故があるからだ。
ドーン!ドーン!
バキバキッと音が聞こえ砲門から索具や木切れなどが落ちるのが見えた。
並行して並んだ格好で態勢を組んでいる互いの船、すでに銃の射程にも入っていた。
バン!バン!バン!
バン!バン!バン!
甲板の高い位置からは海兵隊がマスカット銃で銃撃をしている。その後海賊たちとの激しい銃の応酬が続く。ただ言えることはスパロウ号、バラクーダ号は海賊船に比べて圧倒的に人手が多いということだ。
海賊船とスパロウ号との距離が縮まる。
「乗り込め!」
スパロウ号の乗り込み部隊が次々に海賊船へ移乗して戦闘を繰り広げる。国王陛下の海軍は人員数の差という大きな武器を持っており、それを活かすのだ。
船の規模が違っているがアーティガル号やノアズアーク号、カトリーヌ号でも攻撃が行われている。
ドーン!
一発の砲弾がノアズアーク号のフォアマストに被弾し、ヤードや滑車など索具が損傷し落下していく。応酬しようと船内は連中が砲を撃つ準備をするが、やはり船の規模に対する人力は海軍ほどではない。強制徴募で人さらいのようなことをして水兵を集める海軍とは違うのである。
エズラ船長の怒号が飛ぶ中で目の前の海賊船に何処からか砲弾が飛ぶ。
バキバキバキ!
硝煙とともにあたりに破片が飛び散る。硝煙が風に流れてようやく何が起きたかノアズアーク号の連中は知ることとなる。
目の前にいた海賊船は甲板に大きく穴をあけられ、マストが大きく傾いてそれが船の傾きを起こしているのだ。何がどう起きたのかとエズラ船長は周りを見渡すと、カトリーヌ号のジャンが船のあるものを指差していた。カトリーヌ号はオルソンの置き土産のひとつ、臼砲を使ったのである。臼砲は高く弧を描いて相手に損傷を加えるものである。本来なら臼砲を備えた爆弾ケッチ船は港や建築物など動かないものを破壊することを得意とするものだが、カトリーヌ号は爆弾ケッチではない。本式に比べてこぶりの臼砲は移動式であり、そこそこの物を上部から砲弾を落とすことで破壊できるものだった。思いがけない援護とその効果を目の当たりにしてエズラ船長は手を挙げて礼を返した。
「よし!俺たちは仲良く攻撃をするぜ」
こうしてノアズアーク号とカトリーヌ号が連携して海賊船を攻撃し続けた。
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