表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/70

47反撃の第二歩④

ゴブリン号はバラクーダ号をはめようとします。しかしはめられたのはゴブリン号の方でした。

反撃の第二歩は……あれ、どこかでその作戦をみたぞ。

「ところで俺たちの船アーティガル号は何をやるって?リトル・ジョン船長の居眠りの時間か?」

「決まってるさ。俺たちの朝飯を作って待っているんだよ。グリンフィルズが干し肉をゆでている頃だぜ」

「じゃあ、とっとと終わらせて朝飯を食おうぜ。固い干し肉だって腹ペコにはご馳走だ」

 緊張感をほぐすように連中が冗談を言う。


 

 やがてゴブリン号の姿が見えると彼らは固まったかのように沈黙を守り、フレッドの合図を待った。


 目の前にゴブリン号がさしかかる。満を期してフレッドが合図を出した。

「攻撃はじめ!」


 バーン!バーン!バーン!


 フレッドにとってはスパロウ号事件の復讐である。あのとき、この高台から海賊たちが銃撃し、渓谷に入り込んで身動きが取れなかったスパロウ号の乗員たちの多くが命を落とした。


 バン!バン!バン!


 次々に倒れていく海賊たち。

 そして人質へ銃口を向けていた海賊が倒れる。撃ったのはラッセル少尉だ。

「おうっ!お前なかなかやるじゃねえか。いっそのこと、海賊にならねえか」

 見事なヒットに連中が口笛を吹く。

「僕は早く帰りたいんです。母さんの所へ帰りたいだけなんです!」

 褒められた恥かしさもあり、とっさに本音を言ってしまうラッセル少尉。いや、ラッセルだけでない。その気持ちは他の者も一緒だ。


 バン!バン!バン!

 激しい銃撃が人質を避けて行われる。高台から海賊たちの動きは丸見えである。人質のところへ向かおうとすると容赦なく高台から銃撃されるわけだ。


「無能な手下どもめ!何をしているんだ」

 スミス船長は応酬さえできないことに焦りを感じた。背後からはゆっくりとバラクーダ号が追ってくる。

「くそ!あと少し、あと少しで渓谷を抜けるのに。何としても先に渓谷を抜けてあの船を待ち構えろ。渓谷の外へでれば銃も届かないだろう。待ち構えて砲撃だ」

 とっさの判断で待ち伏せを命じたが、反応は僅かだった。

「船長、人が足りません……銃撃でかなりの仲間がやられました」

 嘆くように実態を叫ぶ手下たち。


 順調なのは渓谷を抜けることだけだった。ゴブリン号は渓谷の難所を交わしながらもついに外へ出た。島の反対側へ出たのだ。


「ああっ!なんで……」

 目の前に広がる光景をみてスミスは力が抜け、マストにもたれかかる。


 目の前には砲門を開いているアーティガル号、臼砲を向けているエトナ号の姿があった。後方からはバラクーダ号が渓谷を抜けてゴブリン号を挟み込むように位置した。


「この野郎……」

 もはや正常な判断ができないスミス船長。そばにいた手下を銃殺すると、人質のところへ走っていく。


 バーン!


 銃音とともにスミスが倒れる。海軍兵は彼を殺そうとしたのではなく捕えるためにわざと足元を狙ったのだ。

 バラクーダ号が接近しゴブリン号へ移乗していく。そして海賊の残党を排除していき、人質となっていた者たちを救い出した。


「スミス少尉……いや、スミス船長。お前は負けたのだ。今回の戦いでスパロウ号事件の当事者がかかわっていたことに気付かなかったのは誤算だったな」

 海兵隊員に捕えられるスミスは項垂(うなだ)れたままだ。

「私は死すとも引き継ぐ仲間がいる。イギリスの国王はジェームズ・スチュアート様だけだ。イギリスを守ることが出来るのは我らのジェームズ・スチュアート様だけだ!」

 そう叫ぶとそのまま泣き崩れた。



 戦いは終わり、高台へ行っていた上陸部隊と無理やり海賊の仲間となっていた者たちは簡単な港のある入り江へ移動する。そこにはゴブリン号奪還を見届けたアーティガル号とエトナ号の姿もあった。エトナ号は簡素な港として使われていた入江を攻撃し、かなり港周辺は破壊している。町つくりはこれからの仕事となるだろう。

 4人の士官がアーティガル号へ戻ろうとしたとき、エヴァンズ艦長が引き留めた。

「君たちの潔白は証明できたよ。スミス少尉を捕えたことと、君たちの働きぶりも考えてのことだ。君たちが乗るべき船は私掠船じゃなくバラクーダ号だ。だからこのまま私と旅をしてくれないかね」

 エヴァンズ艦長のこの申し出に4人の士官たちは顏を見合わせるとようやく笑みを浮かべる。

「ありがとうございます!」

 涙を浮かべているフォスター中尉。ラッセル少尉とコックス少尉も目が潤んでいる。フレッドはというと、フレッドも涙を流していた。あわや処刑寸前までだった4人はエヴァンズ艦長をはじめとするジャマイカの艦長たちによって処刑を先送りにされ、身の潔白を証明するという時間の猶予が与えられた。4人の士官たちはその思いに見事応えたのだ。そしてようやく古巣である海軍の船へ乗るのである。

 士官たちを握手をするエヴァンズ艦長。

「ジョンソン艦長もこれで安心して眠ることができるだろう。ジョンソン艦長が空から見守っていたことを忘れるなよ」

 エヴァンズ艦長の言葉をきき、彼らは空を仰いだ。ひとしきり戦いが無事に終わったことを感謝したのち、まだあちこちでくすぶっていた火を海水を運んだり濡れた布をひっかけたりして消化していった。


 

 さっきまでの血なまぐさい戦いが嘘だったかのように青空が広がっており、海原では海面近くで何かが多数飛び交っていた。

「エヴァンズ艦長、空飛ぶ魚の味を覚えておいででしょうか。グリーン副長(テイラー子爵)が見つけて貴重な食料として食べたあの魚です」

 フレッドが尋ねると、笑みを浮かべてエヴァンズ艦長が答える。

 空飛ぶ魚とはスパロウ号を奪われ、この島へ置き去りされたエヴァンズ艦長と生きのこった乗員たちが食料とした魚、トビウオのことである。エヴァンズ艦長は船を奪われただけでなく傷を負い、誰かの助けを借りなければならなかった。そんな自分を部下たちは疎ましく思うでなく、力になってくれた。そのことがエヴァンズ艦長を支えている。

「もちろん覚えているよ。では、今日の君たちへ最初の命令を出そう。君たちはあの魚を捕えるのだ。乗員たちは久々の戦闘で腹をすかしているからしっかりと働きたまえ」

 バラクーダ号の初めての任務が魚を捕ることだと知り、士官たちは平和的な任務に笑みを浮かべた。

 

 人質とされた人々もバラクーダ号へ乗船していく。生き残った海賊たちはエトナ号の方へ送られた。残されたキャニオン島は国から新たに役人が着任し植民者とともに町づくりが行われるだろう。

 アーティガル号には無理やり海賊となっていた人々が乗船している。海賊を強要されていたのだからその点を考慮してもらえると思われるが判断はお役人の仕事だ。その際に彼らの働きをリトル・ジョン船長と働きぶりを見ていたスコットが精一杯弁明するだろう。信頼のおける私掠として活動をしてきたアーティガル号の連中の成果である。海賊となっていた人々は皆出身が本国だったため、そのままイギリスを目指していく。彼らは意に反して海賊行為を行っていたので、ようやく安堵の表情を見せた。


 無事にゴブリン号を奪還し、首謀者を捕えたエヴァンズ艦長。このままジャマイカ海軍司令部までしばしの航海だと思いきや、彼らもまた、本国を目指している。偽の封緘命令によってゴブリン号は平和的な要塞を爆破し、それがイギリスとフランスの間に亀裂を生じている。ここは何としてもスミス少尉を名乗る男の正体を掴み、審理の後、然るべき処罰をしなけれなならない。


 捕らえられたスミス少尉は国へ移送される間、ほとんど言葉を口にしなかった。部下たちが拷問をすることを提案したがエヴァンズ艦長は首を縦に振らなかった。

「暴力で得た証言を信じることができない。なぜなら我らは海賊と違うんだよ。……今回のことはスミス少尉だけの話ではないようだ。ジャコバイト派が絡んでいるとしたら関係するものが他にも出てくる。全容が明らかになるのはそれからだろう」

 何も語ろうとしないスミス少尉を遠巻きに見ながらエヴァンズ艦長は亡くなったジョンソン艦長を思い出して胸に手を当てる。平和的な要塞爆破事件は多くの部下も命を落としている。ゴブリン号を奪還できたのは彼らへの思いもあったからだろう。



 やがてバラクーダ号、エトナ号、ゴブリン号はイギリスのロンドン港へ入港した。グリンクロス島へ立ち寄っていたアーティガル号の入港は2日遅れだ。アーティガル号はグリンクロス島へ立ち寄った際、総督へ今回の討伐の報告を行った。フレッドをはじめ4人の士官たちの嫌疑が晴れ、バラクーダ号の乗員として暫定的に任務に就いていることを非常に喜んだ。このことをアトランティック・スターズ社へもどったら話さねばならないだろう。留守を預かっているテイラー子爵が最も待ち望んでいる結果だ。


「フレッド……お帰り……フレッド」

 4人の士官たちの知らせを聞いた家族たちが会いに来る。港に近いスチーブンソン家はフレッドの母が一番先に訪れた。そのそばには身長が伸びて話し方もしっかりしてきたエリカもいる。

「父さん、父さん、父さん……」

 嬉しさが先に来たエリカは父に会えた嬉しさでそう言うのがやっとである。フレッドはエリカを抱き上げると愛しさのあまりキスをした。

「母さん、エリカ、心配をかけてすまなかった」

 前回よりも重みが増したエリカ。その顔つきはフレッドに益々似てきている。

「マリサはまだ帰ってこないの……。きっとうまくいくって祈る日々よ」

 母ハリエットも心配のあまり瘦せている。フレッドとマリサの心配をしながら家事と育児を任されてきたのだから相当なものだろう。


 ラッセル少尉の母親も田舎からはるばるやってきて、やつれた母親の姿を見たラッセル少尉は思わず泣き崩れる。それはようやく母親に会えた喜びとゴブリン号での恐怖から逃れられた安堵の涙だ。

「あらあら、本当に貴方は泣き虫さんね。さあ、泣いてないで顔をよく見せて頂戴。……かわいい坊や、母さんの一番の宝。お帰りなさい」

 母親に抱き締められてラッセル少尉はさらに泣き続けた。誰が見ていようとも構わないという姿だ。


 コックス少尉は愛妻としばらくキスをしたまま離れなかった。あまり多くを語らないコックス少尉であったが、あわや処刑という恐怖と謀反人の嫌疑は彼に不安の日々を与えた。他の士官たちに限らず、彼も痩せていた。


 フォスター中尉も知らせを聞いて妻と母親、父親、5人の子どもたちがやってきて、あまりの人数に会議をする部屋を解放したほどである。4人の士官の中で一番年長のフォスター中尉は海軍の上層部につながる人がいなかったため地道に這い上がってきた実力者だ。子だくさんの家族を養うため、とにかく必死に働いてきた仲での謀反の嫌疑は妻や両親を泣かせてしまった。噂が広がって言いようのない中傷も受けたらしい。

 こうした家族への中傷があったことに対し、エヴァンズ艦長は彼らに何らやましいことはなく、ゴブリン号奪還に成果を残したことを市民に周知するよう本部へ申し出た。いずれ4人の士官たちの噂は消えていくだろう。


 

 テイラー子爵はアーティガル号より先に入港してきたバラクーダ号、エトナ号、ゴブリン号を確認していたが、遅れて入港したアーティガル号から直接報告を受ける。あくまでも自分は今民間人の立場だからだ。

 

「そうか……。ゴブリン号は無事に奪還され、4人の士官の嫌疑は晴れたのか……。ならば私の秘蔵っ子を証言台へ立たせても良かろう」

 テイラー子爵の家へ怪我の治療がてら(かくま)われているクーパーのことである。クーパーは平和的な要塞爆破事件の唯一の生存者で、大けがを負っていたところをマリサたちに助けられた。ゴブリン号に起きた異変を話していたことから身の安全を考え、ジェーン号で本国へ移送後、テイラー子爵の屋敷へ匿われていた。

 クーパーの傷は癒えており、体力も回復した今なら証言台に立つこともできる。

 リトル・ジョンから報告を受けたテイラー子爵はすぐに海軍本部へ向かう。


 オルソンとマリサが不在の今、会社を守りつつ利益をださねばならなかった苦労を誰が知るだろう。本来、貴族は働かないものである。働かなくても収入があるからだ。しかしお金で爵位を買ったテイラー家は利益を出すことの必要性を知っており、身分や人種、宗教の立場を乗り越えた海賊集団にいたマリサとオルソンの考えは、会社設立にその影響を及ぼしていた。


 

「証人がいるだと……?なぜもっと早く私たちに教えてくれなかったのだ」

 平和的な要塞爆破事件やゴブリン号で起きた事件、4人の士官に謀反の嫌疑がかけられたいきさつを証言できるクーパーのことを話すと、その場にいた艦長たち、その中でもかつての上司であったエヴァンズ艦長は非常に驚いている。

「ゴブリン号に与えられた封緘命令は偽ものだという疑いがあり、海軍本部にそれを出した者がいると思われたからです。平和的な要塞爆破事件の生存者はいないということで報告されていましたから、生存者がいたとなると命を狙われる可能性がありました。しかし4人の士官たちは嫌疑が晴れて無事に帰ってきました。彼らもゴブリン号で起きたことを証言するでしょう。あとは……スミス少尉が本当にスミス少尉か。今回の事件は彼ひとりでは起こせなかったはずです」

 テイラー子爵のいう通り、まだ事件の全容は明らかにされていない。

「私はジョンソン艦長をおとしめたスミス少尉を許すことはできない。キャニオン島で彼を捕えたとき、この手で彼を殺したいとどんなに思ったことだろう。でも審理を受けさせねばならなかった。あとは神にその処遇を祈るばかりだ。……偽の封緘命令を出したものが誰か……疑心暗鬼だ」

 スミス少尉の審理はもうすぐである。


 そこへスミス少尉への面会希望者がいるとの連絡が入る。スミス少尉は薬屋の息子スミスを語っており、正体はわからない。誰もがこのことに興味を示した。

 面会に訪れたのは老婆であった。小綺麗にしており、どこか気品さえ感じられる。

「あなたは誰なんです?スミス少尉の関係者ですか」

 その場にいた一人が尋ねる。

「わたしはジョン・スミスの祖母です。我が家の期待を背負って少尉まで昇進した孫は我が家の宝でした。何がどうしてこうなったのかは私は知りませんが、老いて死ぬ前にひとめだけでも会わせてください」

 彼女の言うことに皆驚いた。スミス少尉は偽者のはずである。ということは、彼女もまた騙されているということか。騙されているにしても彼女はスミス少尉を信じているのだ。今は否定するときではないだろう。

「時間を差し上げます。審理の後、スミス少尉は刑を受けるでしょう。だから思い残すことがないようにしてください」

 エヴァンズ艦長は老婆をスミス少尉の元へ案内する。その気持ちは穏やかでなかった。

 


 牢ではやつれたスミス少尉が膝を抱えて伏していた。しかし、布のすれる音で顔を上げ、目の前にいた老婆を見ると涙を流し、牢越しに抱き着いた。

「お疲れ様でした。ここまでジョンは本当によく働かれました。貴方のような孫をもつことができて私は幸せでしたよ」

 穏やかに、そして涙ながらに話す彼女の言葉に声が詰まるスミス少尉。

「お婆さん……私はもっと皆のために働かねばならなかったが、叶うものでなかった。私は処刑を待つ身です……死ぬ前に会えてよかった……」

 そこにジョンソン艦長をはじめ多くの人を排除していった面影はなかった。

「これを食べて頂戴。わたしのかわいいジョン、貴方の為に焼いたのよ。役人さん、いいかしら」

 老婆が包まれていたハンカチの中からあるものを取り出す。甘い香りがあたりに漂う。それはキャロットケーキだ。役人は最後のわがままだと考え、それを許可した。

「ありがとう……」

 泣き崩れるスミス少尉を牢越しに抱く。やがて時間が来たので老婆は役人とともにその場を去っていった。牢ではスミス少尉の嗚咽が響き渡る。


(最後まで迷惑をかけてすまなかった……。婆や、私の自尊心を守ってくれてありがとう。()()()()()()()()()()()()()()()()……)


 泣き終えると意を決してスミス少尉はキャロットケーキをほおばる。庶民の食べるキャロットケーキを気に入り、子どものころから何度も老婆は食べさせてくれた。そして今回は彼の望んだケーキとなっていた。


「ゲブッ!」

 一瞬彼の喉から腹にかけて引き裂かれるような痛みと熱さが走った。老婆は本当はこのキャロットケーキを作りたくなかったはずだ。どんなにつらい思いで作ったのだろう。


(これでいいのだ……私は貴族でなくスミス少尉として死んでいく。父の無念を晴らすことができなかったことをお許しください……)

 息も出ず、ハアハアあえぐなかでスミス少尉は意識を失い倒れ込む。


 この日、ジョン・スミス少尉は素性も明らかにしないまま、罪人として自らの命を絶った。

最後までお読みいただきありがとうございました。ご意見ご感想ツッコミお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ