46反撃の第二歩③
スミス少尉とゴブリン号を追うエヴァンズ艦長たち。一度はめられた罠に再びはまることなく、確実に敵を追い込みます。それは余裕さえ感じさせるものでした。たまにはフレッド君、いいところを見せましょう。この仕組まれた罠編ではヒロインの相手役をルークに奪われていますからね……。
海賊たちの目に船影が入ってくる。入り江に入らないまでもバラクーダ号とエトナ号の射程内に海賊たちはいた。
「こんな夜更けに何とも酔狂な奴らだ。お前たち、客人のおもてなしだ!船を出せ!」
スミス船長は今さらに要塞化をしていなかったことを悔やむ。烏合の衆である配下たちをまとめるために娼館を先に作ったのが裏目に出てしまった。
「女……。そうだ!我らにはまだ人質という武器があるぞ」
スミス船長は残っていた配下の者たちに拉致した者たちをゴブリン号へ乗船させるよう命じた。入り江に停泊をしていたゴブリン号のほか、艤装をしていた数隻の船も反撃の為海賊たちが乗り込んでいく。月明りはあるがそれでも暗いことに違いはない。
次々と乗せられていく人質たちは目に見えない恐怖で声も出ない。
「おかしい……なんだか様子が変だ。一体何が起きているのだ……」
ゴブリン号の異変に気付くエヴァンズ艦長。彼らはまるでこちらの出方を待っているようだ。
ドーン!ドーン!
その間にも爆弾ケッチから臼砲が撃たれる。すでに海賊たちが整備した沿岸部は爆弾ケッチによる攻撃でかなりの損傷を受けている。
(あれは……民間人か?)
海賊らしからぬ人々が次々と乗船していくのを見てエヴァンズ艦長は思わず叫んだ。
「ゴブリン号への襲撃を停止!彼らは人の盾を使う気だぞ」
エヴァンズ艦長の声に士官たちも望遠鏡を手に確認をすると何人もの人々が甲板上へ送り込まれているのがうっすらとみえた。彼らは恐怖のあまり思い通りに声が出ないようだった。
「船や金品だけでなく人も奪っていたのか……」
エヴァンズ艦長は対応を模索する。
対峙するゴブリン号とバラクーダ号、エトナ号。
しかし海賊側にも離れようとする者たちがいた。強制的に海賊化された船乗りたちである。彼らは自分たちの船が襲撃された際、生き残るために海賊化を余儀なくされ、この機会を好機とみたのだ。
人質たちが乗船させられていく中で、彼らは暗がりへ逃げ込んでいく。
「まだ人員はそろわないのか!酒ばかり飲んでいるからだぞ!」
ゴブリン号はいまだに船を出せないでいる。
エヴァンズ艦長は人質という思わぬことに次の策を考えねばならなかった。何としてもこの機会にゴブリン号を奪還しないと次はないのだ。
「あいつら、逃げやがったぞ!俺たちから逃げたところで島の外へ出られやしねえってのに!」
トランプは今ごろになって海賊化された船乗りたちが逃亡したことに気付き、悔しがる。
「とにかくいるものだけでも船を出せ。そして攻撃をしろ!奴らはほんの2隻だ。そしてこちらには人質もいる」
スミス船長は海賊たちに船を出すよう指示する。そして人質たちを船首へ集めた。
フレッドたち4人の士官のいる上陸部隊は、高台にある見張りの海賊たちを排除した後、そのまま港へ向かっている。
「集団がこちらへ向かっています。高台から襲撃するつもりでしょうか」
ラッセル少尉は緊張した面持ちで人影をみている。
「そうかもしれないが……」
フレッドも人影の様子を見ている。
「茂みへ駆け込め!逃げないと海賊たちに殺されるぞ」
息を切らせながら人影の彼らは振り向くことなく逃げているようだ。
「逃亡しているようだな。ちょっと挨拶をしておこう」
フォスター中尉はフレッドとともに彼らの前に立ちはだかった。追手に先を越されたと勘違いをして立ち尽くす男たち。
「お前たちは国王陛下の敵か?もしくは海賊の敵か」
そう言って銃を突きつける。
「違う、違う。俺たちは海賊となることを強要されたんだ。ほんとは海賊なんてやりたくない……だから逃げた……。頼む!助けてくれ」
男たちは手を挙げてそのまま座り込んだ。戦意はないだろう。
フォスター中尉はフレッドと顔を見合わせると、彼らにこう言った。
「よし、では共闘だ。共闘して勝てば海賊化したことの罪もどうかなるかもしれん。さあ、10人分の声を出せ。ワーッ!」
彼の気迫に圧倒された集団は、頷くと一斉に声を上げる。
「ワーッ!ワーッ!ワーッ!」
上陸部隊もそれぞれ大きく声を出す。その声はあたりに響き渡った。この声は相当数の人間が上陸したと思わせることに有効だ。
「明かりを高く掲げて揺らせ!油をまいて火をつけろ!」
フレッドの指示でカンテラを高く掲げて揺らす者たち、油をまいて火をつける者たちがそれぞれ行動を起こす。新たに指示された逃亡者たちもこれに加わり精いっぱいの声をだす。
「ワーッ!ワーッ!ワーッ!」
火をつけた後、逃亡者たちと一部の上陸部隊は高台からさらに火をまだらに火をつけていく。
「お前らも反撃する元気があるなら俺たちに続け!」
アーティガル号のスコットが逃亡者たちに声をかけると彼らは武器を手にとった。その間にアーティガル号の上陸部隊が港を目指す。東の空がオレンジ色に変わりつつある。夜明けは近い。行動は今のうちだ。
「なんだ!何が起きている!」
渓谷の高台のほうで火が見え、騒がしい声が遠く響いてきたことにスミス船長は早くその場から去らねばならないと焦った。
「海賊に加えた奴ら、逃げたようです!」
配下の者が慌てている。船を出すには人手がいるが、海賊たちの中には飲みすぎて体がフラフラの者も多く真面に出帆へこぎつけないでいる。そんなときに逃亡者たちが出ているのだ。
「ふざけた真似を……。どのみち船がない限り島から出られないはずだ。構わん!人質を盾に我らは進むぞ」
スミス船長はそう言って強引に出帆を試みる。このままそこへいても爆弾ケッチの的となってしまうからだ。だが、今の人員だけでは攻撃までできない。それでもそこから移動する必要があった。
バン!バン!バン!
銃撃音が響き渡り、船上の海賊たちが倒れていく。港へ到着したアーティガル号の上陸部隊の銃撃だ。そこにかつての仲間たちの姿をみつけ、怒りで体が震えるスミス船長。
海からはバラクーダ号とエトナ号の砲撃、そして背後から銃撃。スミスはこの状況下にあって思うように人員が動かないことに苛立ち、配下の者たちに人質となっている娼婦たちや男たちへ銃口を向けさせる。
はっきり視認できない敵。
島の高台のいたるところに火が見える。そこにいた者たちが効力を発していないのは確実だ。
(裏切り者め!あいつらをさっさと殺しておくべきだった)
苛立ちは不安を呼び起こす。そして海賊たちをまきこんで不安にさせる。
「せ、船長、指示を……」
彼らは人質に銃口を向けながら何度もスミスの顔を見る。彼らも本当はどうしていいかわからないのだ。
バン!バン!バン!
銃口を向けていた海賊たちが倒れていく。そして次の手。
ドーン!
バラクーダ号の威嚇射撃だ。エヴァンズ艦長はわざと砲弾を外させた。それでもゴブリン号の間近に水柱があがり、船は大きく横揺れする。
「キャー!」
人質となっていた者たちは恐怖で叫び声をあげる。
「渓谷へ奴らをおびき寄せろ!スパロウ号が鹵獲されたあの渓谷なら……」
スミスの頭には渓谷のことしかなかった。
スミスの指示で残っている海賊たちは慌てて錨を巻き上げ、一番下の帆を張っていく。ゴブリン号はシップ型の船だが、スパロウ号よりも小型だ。そうしたことを考えて敵の船をおびき寄せ、渓谷の中で動かなくすることができると判断した。
ゆっくりと動き出すゴブリン号。この間、バラクーダ号とエトナ号は様子を見ていた。
東の空が白んでおり、明るさが増している。もうすぐ日の出だ。明かりを必要としなくても双方、視認できる状態になった。
「何だ……敵は2隻なのか……。くそったれ!島の上陸を許した見張りの連中は仕事をしていなかったということだ!」
見張りの無能に腹立たしさを覚えたスミスだが、敵がほんの2隻の船団でしかないことに勝機を感じた。そして2隻が攻撃してこないのは、人質を傷つけたくないからだろうと思った。
「我らはこのまま峡谷へ進み、向こう側から外海へ出る。人質から目を離すな!」
太陽が顔を見せ、そこに存在する者の長い影を作っていく。朝が来たのだ。
日の出とともに風が吹き出した。渓谷を抜ける船にとって追い風となる。
人質がいることで2隻の船は攻撃しない、そう判断したスミス船長は人員を操船へまわす。
ギィー、ギィー……。
ゴブリン号が駄々をこねるような音を立てて船首を回し、沿岸沿いに渓谷のある方へ向かう。
「やはりな……奴らは我らを渓谷へおびき寄せる気でいるぞ。ここにスパロウ号事件の当事者が多数いるというのに!」
バラクーダ号にはかつてのスパロウ号の乗員たちもこの作戦に加わっている。彼らの行動を見ていたエヴァンズ艦長は思い出したくもないスパロウ号事件と同じことをやろうとしている海賊たちを笑う。
「とあらば、誘いに乗ってやるしかないだろう。だが、深追いするなよ」
予想通りの動きをしているゴブリン号の後をゆっくりと追うバラクーダ号。因縁の渓谷へ挑むことになるが、バラクーダ号はスパロウ号よりも小型のシップ型の船である。機動力を優先した格好だ。
(失敗は許されない。士官たち、君たちの嫌疑を晴らすのは今だぞ)
そう言って渓谷の高台を見つめる。
一方、町へ降りたフレッドたちはゴブリン号がゆっくりと動き出すのを確認する。
「あの方向は……あの方向へ行くと渓谷だ……奴らはスパロウ号事件と同じ手を使う気でいるのか」
そう呟くフレッドもまたスパロウ号事件の当事者である。
「俺たちも渓谷へ行こうぜ……。どのみちゴブリン号の海賊たちを排除することはある程度できたんだ。俺たちの身の潔白を証明するならひき返してでも反撃するまでさ」
フォスター中尉は皆に呼びかけた。
「ええ……?僕、もう体力ありませんよ……」
来た道をひき返すのかとラッセル少尉は弱音を吐く。
「お坊ちゃん、行かないんならここで首をあらって待っておけ。ただし潔白の証明は自分でやれよ」
とコックス少尉はラッセル少尉へ手を伸ばす。なんだかんだといいながらも同じ船で働いていた仲間だ。蹴落とすようなことをしない。
「自分ひとりでするなんて嫌ですよ……」
ため息をつくとコックス少尉の手を借りて立ち上がる。
「行くぞ!」
地理を知っているフレッドを先頭に彼らは再び渓谷の高台へ向かう。
渓谷の高台ではアーティガル号の上陸部隊が無事に海賊たちを排除できたことで、火がついている灌木を葉の付いた枝で消化しながら海上の様子を注視している。まだらに火をつけたのは燃え広がらないためだ。
「なんだかまたうるさくなりそうだぞ。バラクーダ号とエトナ号はゴブリン号を襲撃していない。ということは鹵獲されているゴブリン号を壊すわけにいかないということか?で……ゴブリン号はゆっくり動き始めたが……こっちへ向かっているんじゃないか」
朝がきて視認できるようになり、上陸部隊の連中はゴブリン号の動きを見まもる。
「諸君!喜べ。我々の活躍はまだ続くのだ」
スコットは演劇気取りで連中の士気を高める。
「全くよ、人使いの荒いことだぜ。マリサに給料を上げてもらわねえと割に合わねえや」
口々に言っている連中だが、本気で言っているわけではない。
上陸部隊が高台に身を潜め、ゴブリン号の動きに注視する。やはりゴブリン号は渓谷へバラクーダ号をおびき寄せるためにここへ向かっている。
「ちょっと待てよ……ゴブリン号の船首付近に集められている人間たちは何だ?」
スコットは船首側に海賊と思えない男たちや女たちが集められていることに気付く。
(やれやれ……。人質をとって逃げようって魂胆か。マリサが一番嫌いな手段だな)
マリサもジェニングズ一味に義母ハリエットやエリカを人質に取られ、アーティガル号が彼らの傘下に入った経緯がある。
「奴らは人質をとっている。船首側に集められているのが人質だ。的を間違えるなよ」
この言葉に次々と人質を確認していく連中。
高台へ待ち受けるうちに人が走り寄ってくる音が聞こえた。ゴブリン号の動きに合わせて港から高台へ移動してきたフレッドたち4人の士官と海賊化を強要されていた逃亡者たちである。
「ゴブリン号は人質をとってここを通過する。バラクーダ号はわざと後をつけている格好だ。スパロウ号事件と違うのは、高台にいるのは海賊じゃなく……俺たちであることだ」
フォスター中尉はその場の人々をうまくまとめている。これは年季の差というものだろう。
「構え!」
この声に皆が銃を手に身を潜める。その間にも確実にゴブリン号は渓谷へ入りつつある。バラクーダ号のほうは、わざと砲門を閉じて渓谷通過に備えているようだ。もし確実に追い込んで攻撃するなら前面に臼砲があるエトナ号の方が有利だろう。しかし、ゴブリン号を破壊するわけにいかなかった。エトナ号はバラクーダ号を見送ると、そのまま他の海賊船や入り江の小さな町を攻撃していく。
ドーン!ドーン!
エトナ号の攻撃に反撃がままならない海賊たち。寝泊まりしていた建物や娼館、飲み屋など次々に破壊されていき、逃げ惑う。烏合の衆である彼ら……そこに命令系統は存在しなかった。
「あまり破壊し過ぎると国王陛下の島の復興の妨げになってしまう。このへんで様子を見よう」
フォックス艦長は望遠鏡で海賊たちの動きを観察している。
渓谷へ逃げたゴブリン号、後を追うバラクーダ号、そして湾岸の破壊を行ったエトナ号。スパロウ号事件の復讐は確実に進んでいる。
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