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45反撃の第二歩②

作中にもありますが、スミスという姓名は日本でいう「鈴木」「山田」ぐらいとても多い苗字です。特にジョン・スミスという名前は「山田太郎」に相当するほど多いらしいです。

さて毎度おなじみの上陸作戦はうまくいくでしょうか。(たまには他の作戦を考えろよといわれるかも……ああ!すみません)

 補給を済ませるとそのままジャマイカへ向かったアーティガル号。日が経つにつれ、徐々にジャマイカへ近づいている。かつての海賊共和国ニュープロビデンス島ナッソーやケイマン諸島よりも南側だ。グリンクロス島よりも気温や湿度が高いものの、貿易風の影響で和らぐこともある。1492年にコロンブスはアメリカ大陸(正確には大陸ではなかった)を発見し、1494年の2回目2回目の航海でジャマイカを発見している。その後スペインの植民地となったが、1655年、イギリス海軍ペン提督とベナブルズ将軍がジャマイカへ侵攻して以来イギリス領となった(彼らは最初、クロムウェルの命令でイスパニオラ島攻略を企てていたが成功をしなかった。その残存部隊を率いてジャマイカへ侵攻したところ、攻略することに成功した)。

 

 初めてジャマイカへ行くわけではないのに、どこか船全体に重い空気があった。その空気の原因はフレッドたち4人の士官の不安だった。彼らはゴブリン号で謀反を計画したとして捕らえられ、あわや処刑となるととろだった。審理を受けるためにジャマイカへ送られ、そこで彼らはたまたま海賊案件で寄港していたアーティガル号へ身柄を預けられることとなった。それというのもジャマイカの海軍司令部には寄港していた船の艦長たちがおり、彼らはゴブリン号のジョンソン艦長の様子がおかしいことと、フレッドたちの謀反について白黒つけられない状態であることから、身をもって決着をつけるようアーティガル号へ預けたからだ。何よりもフレッドたちの身柄をリトル・ジョンたちへ預けることを考えたのは、当時スパロウ号の艦長だったエヴァンズ艦長だった。フレッドやリトル・ジョンたちとも面識があり、戦時中から彼らの動きを知っているエヴァンズ艦長は誰よりも”青ザメ”を知っていた。

 それでもフレッドたちは不安であった。白黒つけられない状態というのは有罪とみられているかもしれないということである。特にラッセル少尉の不安は人一倍強かった。

「心配したって始まらねえよ。あんたたちは無実だろう?だから堂々としてりゃいいのさ。変におどおどしていると海軍の旦那方は余計に勘ぐるぞ」

 リトル・ジョンは遠くジャマイカの影を前にして蒼い顔をしているラッセル少尉の肩を叩く。無実であるが怖さは簡単に抜けない。ラッセル少尉はそのままため息をつくと目をつむり、気持ちを落ち着けた。その様子にリトル・ジョンは諭すように言う。

「ウオルター総督は俺たちと違って派手な行動を起こさないが、やるべきことはちゃんと心得ているお方だ。総督は静かな物言いで的確に物事を掴んでいる。だからこそ島民に親しまれているんだろう。これから向かう先にどんな不安があっても俺たちは進むしかないんだ。」

「あの……僕のような人見知りはこういった状況が怖いんです。士官といっても昇進試験なんて僕にとっては頭の勉強でしかないので、記憶だけで僕は昇進試験に通りました。がんばることができたのは母さんを喜ばせるためだったからです。」

 その言葉通り彼は頭がよく、命令に実直だった。

「試験なんて所詮物事をはかる目安に過ぎないんだぜ。あのフレッドだって何回も昇進試験に落ちて……おっと、こんなことを言うもんじゃなかった……とにかく今はやるべきことをやるだけだ。あんた達を信じているからこそエヴァンズ艦長は俺たちに身柄を預けたんだぞ。そのエヴァンズ艦長がまたジャマイカにいるということだ。むしろ安心すべきじゃねえのかい?」

 リトル・ジョンの言葉に少し安心したのかラッセル少尉の表情が和らぐ。


 

「さあて、お前たち。お楽しみの上陸だ。精々失礼のないようにひげをそって上陸しろよ!」

 港を前にして慌ただしくなったアーティガル号でリトル・ジョンの声が響く。上陸は誰でも気持ちが安らぐものである。このことでリトル・ジョンはあることを考え付き司令部へ向かった。まずは司令部へ自分たちに与えられたウオルター総督からの命令を伝えねばならない。そして4人が上手くアーティガル号の乗員として働いていることもだ。


 司令部ではすでにエヴァンズ艦長にアーティガル号のことが総督から伝わっていたようで、リトル・ジョンはすぐに彼と話すことを許された。

「4人の面倒を見てもらっていることに感謝するよ、リトル・ジョン船長。今回のことはこれ以上フランスを刺激しないためにイギリス海軍の旗を掲げずに行う。全く……ウオルター総督の気遣いに恐れ入るよ。今回のことは亡きジョンソン艦長の弔いでもある。……失敗すれば私がすべての責任を負う形だ」

 かつて”光の船”への反撃に加わっていたイギリス海軍の艦隊は海軍機を揚げずに海賊旗を掲げて行動をしており、その艦隊の中に当時のエヴァンズ艦長が指揮するスパロウ号も加わっていた。それと似た事情があるということだろう。

「こちらこそ、共に行動できることを誇りに思いますよ。4人の士官たちにはしっかり働いてもらいます。なんてったって4人もの居候を食わせる食料が無いなんてうちの主計長がぼやくんでね」

 リトル・ジョンの冗談にエヴァンズ艦長が頷く。もちろんアーティガル号の主計長モーガンはそんなことを言っていない。

「では、詳しい話をしよう」

 エヴァンズ艦長はコーヒーを部下に()てさせるとリトル・ジョンへ共闘の詳細を話し合った。


 

 司令部からアーティガル号へ戻ったリトル・ジョンは連中に共闘の詳細を周知した。共闘といってもエヴァンズ艦長のバラクーダ号、爆弾ケッチであるエトナ号、アーティガル号のごく小規模の編成である。エトナ号にはエヴァンズ艦長の部下フォックスが昇進して艦長を任されていた。以前のスミス艦長は他の船の艦長として任務へ就いている(スミスという姓名はとても多い姓名で、デイヴィージョーンズ号の連中のひとりで戦死したスミス、ゴブリン号を乗っ取ったスミス少尉とエトナ号を指揮していたスミス艦長は別人)。

「……というわけだ。これが戦争なら大艦隊を組んで戦列艦を筆頭に派手にやるだろうが、あくまでもバラクーダ号やエトナ号は私掠という立場だからな、海軍旗を揚げない。つまり俺たちと同じ立場だ。さて、キャニオン島のことは俺よりも当事者であったフレッドの方が詳しい。特にスパロウ号鹵獲の原因ともなったあの峡谷めいたところを知っておかねばならん」

 そう言ってリトル・ジョンはフレッドを呼ぶと、キャニオン島の説明を求める。海賊の島として占拠された格好のキャニオン島だが、地形が大きく変わることはなかったはずだ。

「キャニオン島はひとつの島と見せかけて実はふたつの島から構成されています。島と島の間に峡谷めいた高い崖があり、スパロウ号のような船はかなり注意を払わないと慎重に航行しているところを崖から総攻撃をされてしまいます。この峡谷へ入り込むのは危険です。そして今まで植民地として整備が遅れていたキャニオン島はまだ十分な港がありません。一部、深さのある入り江を港代わりに使っているものと推察します」

 フレッドはキャニオン島へ置き去りにされたとき、時間を見つけてはグリーン副長(テイラー子爵)と探索をしており、そのことを連中に話した。

「あちら側には爆弾ケッチ船エトナ号がいる。爆弾ケッチ船を率いてくるということは、備えられた臼砲で海賊の拠点を前面から潰すということだろう。そしてアーティガル号側のやるべきことはいつもの……」

「いつもとなるとアレだ……毎度おなじみの上陸だな。バラクーダ号とエトナ号が砲撃をしている間に俺たちは上陸して海賊たちを潰すってことだろう」

 フレッドが言いかけたところでトムがその続きを話した。何回かやった上陸奇襲である。

「では、さっそく行動を開始する」

 リトル・ジョンはそう言うとメーソンに黒い布を渡した。

「おい、リトル・ジョン。それってまさか……」

 連中たちがざわつくのも無理はない。黒い布といえばアレしかないのだ。

「マリサから預かった。マリサがいないアーティガル号だが、マリサの目が光っているということだろうぜ」

 メーソンによって黒い布が掲げられするするとメインマストのトップに黒い旗がなびいた。

「見覚えがあるだろう?フレッド。マリサが家からもってきたものだ。ジェニングスによる策略で俺たちは海賊化をしなければならなかった。そのときの旗だよ。I love Erika. の文字とエリカの花の刺繍……アーティガル号の海賊旗といえばこれだ。といっても別に海賊化するわけじゃないぞ。これはマリサが船の上から目を光らせているということだからな」

 リトル・ジョンの言葉に連中が盛り上がる。この様子をフレッドは頼もしく思った。



 ジャマイカを出たバラクーダ号とエトナ号、そしてアーティガル号はキャニオン島を目指した。最初、エヴァンズ艦長はアーティガル号の妙な旗に何ごとかといぶかっていたが、色が黒いだけで何も海賊旗らしいことはなく、むしろ花の刺繍や文字を見ただけで物好きな貴族が乗っている船に見えると乗員たちに話した。

 

 

 キャニオン島が近づくにつれ、時折船の破片を見かけるようになった。海賊の襲撃にあっただろう。他にも亡きがらが漂っていることもあった。しかし時間を経過した亡きがらは魚のえさとなっており、遺体がかなりの確率で損傷していた。


 連中の警戒が続く。いよいよキャニオン島へ近づいていくのだ。


 

 日が落ちていき、船隊は二手に分かれるとキャニオン島の北側と南側それぞれに回り込む。まだ望遠鏡で見るしかないキャニオン島だが、海賊たちの急速な拠点作りのおかげで日が落ちても薄っすらと建物の灯が望遠鏡から確認できた。

「あの島が要塞化しないうちに潰さねばならん。これまでにも何隻かの船が荷を運んでいる。彼らは要塞化して軍事拠点ともするだろう。海賊共和国のように国つくりをしているわけでないのだ。不十分な港のおかげで大型の船は沖合に停泊をするしかないようだが、我々には有利に働いてくるだろう。アーティガル号側の合図で我々は行動を開始する」

 エヴァンズ艦長はそう言うと天を仰いだ。


(ジョンソン艦長、形勢は決して有利でないが、私は貴方の無念をはらしたい。どうか見守ってくれ)


 ジョンソン艦長の死に、ひときわ思いがあったエヴァンズ艦長。失敗はできない。

 彼の指示で乗員たちが体制を組んでいく。反撃はもうすぐだ。

 

 深さのある入り江はフレッドが言った通り簡易的な港として使われている。少し離れたところに停泊しているゴブリン号の船影があった。他にも数隻のスクーナー船の影も見える。夜のとばりが空を覆い、海と夜空と区別がつかないほどになっていく。しばしの凪を迎え、聞こえるのは波の音だけである。


 

 一方アーティガル号側では上陸作戦に手慣れた連中がボートに乗って上陸を試みている。キャニオン島の反対側には入り江がないが、置き去りにされていたときに島を探索した経験からフレッドたちはいくつかの上陸ルートを見つけていた。キャニオン島の渓谷のような部分はまるでそこに川があるかのような錯覚をおこす。スパロウ号鹵獲事件の原因は、海賊を追うことに集中しすぎてそこに罠があることに気が付かなかったことだ。同じ過ちをしてはいけない。

 僅かな影をみつけてボートを横付けすると何人もの連中がフレッドを先頭に降りていく。頼りになるのはそれぞれの集団で持っている小さな灯ぐらいだ。

 地理を知っているフレッドをリーダーにした上陸部隊は、ラッセル少尉、フォスター中尉、コックス少尉も連中に混じって行動をしている。彼らにしても上陸して奇襲をかけることはこれまでの従軍において経験済みであったからだ。

 次々に小さな上陸ルートから慎重にすすみ、密かに島の山頂部へ到達していく。山頂部までくると樹木が切り落とされていた。これはジェニングスが罠を仕掛けるときに切り落としたものだ。ここから海賊たちは銃撃をしてきたという、いわくつきの場である。そこには見張りと思われる数名の海賊たちが酒を飲んでは笑い声をあげていた。恐らくここを狙ってくるものなどいないと思っていたのだろう。彼らは全く警戒をしていなかった。

 彼らを少し遠巻きにして囲んでいくフレッドと士官たち。その成り行きをアーティガル号の上陸部隊が見守っている。

 先陣をきってフレッドが海賊の背後へ回り込み、ナイフで切りつけた。慌てた他の海賊たちをフォスター中尉の掛け声でラッセル少尉とコックス少尉が続き無力化する。

 「よし、合図だ!」

 フレッドの声で連中が入り江の見える方向に火薬を置き、火をつけた。


 バーン!


 一瞬の爆発。しかしバラクーダ号への合図は十分だ。この音に何が起きたのかと入り江の方が騒がしくなった。

 

「何事だ!」

 海賊たちは大慌てだ。音のする方に何が起きたのかと右往左往している。すると彼らの目に峡谷の山頂部で起きた爆破の火が入った。

「招かれざる客のようだ。お前たち、さっさと片付けてこい!」

 スミス船長の命令で配下の海賊たちが慌てて松明に見立てた簡素な灯(キャニオン島には松明に適した木がなかった)を用意し、彼らを先頭にして山頂を目指していく。

「全くいつの間にネズミが入ったのだ。忌々(いまいま)しい!」

 彼らは視認できない敵に注視している。海賊たちの入り江は騒々しくなった。


 とそこへ金切り音が聞こえたかと思うと入り江の一部が爆破される。


 ドーン!


 エトナ号が攻撃をしてきたのだ。爆弾ケッチは港や湾岸を破壊するための臼砲が備えられている。


 ドーン!


 2発目。音とともに破壊されていく建物。そして悲鳴とともに逃げまどう人々。そこ中には無理やりここへ連れてこられた女や労働力の為の男もいた。

 

 あと数日で満月になろうかとするこの夜、彼らの攻撃と反撃に合わせるかのように月が南へ位置している。月の明るさも手伝って海賊たちの動きが見えてきた。海賊船となったゴブリン号であるが、エヴァンズ艦長は鹵獲されたままのゴブリン号を沈めることなく奪い返す気でおり、そのため船をできるだけ傷つけまいと考えていた。


「ジョンソン艦長、私はゴブリン号を奪い返して必ず貴方の仇をとる。どうか見守ってくれよ」


 エヴァンズ艦長がそう呟きながら胸に手を当てると、戦いの中にあって胸の鼓動が強く伝わってきた。

 それは彼らの反撃に力を添えるかのように全身に血をめぐらせ体を熱くしていく。

最後までお読みいただきありがとうございました。ご意見ご感想ツッコミお待ちしております。


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